zip.13 きがつけば翌朝(キンクリ)
鳥の鳴き声と共に、山間の町にも朝がやってくる。
差し込む日の光に雄也は目を開ける。見知らぬ天井に、豪華な内装の部屋。
護衛任務の報酬、というか口止め込みで、シマショー商会の勧める宿屋に泊まったことを思い出すのにしばし、そうして、昨晩なにがあったかを思い起こすことに、わずかな時間を使うことになった。
「あ、おはよー、雄也」
「おはようございます、雄也さん。昨夜はスマブラってましたね」
「アイリス、スマブラって何?」
「ああ、それはですね、冒険の神クヨン様の神託で、狭いフィールドで4人がファイトすることを言うらしいです」
「なるほど、昨日の夜は、ベッドの上で4人対戦を――――どしたの、雄也?」
すでに起きて身づくろいをしていたリセラとアイリスを見てから、雄也はベッドに横になって布団をかぶりなおした。怪訝そうな顔をするリセラに、アイリスは上機嫌と言う表情で、小首をかしげながら口を開く。
「多分ですけど、若干の罪悪感を感じて、現実逃避気味に不貞寝したんじゃないでしょうか。ほら、お酒が入っていたとはいえ、私たち三人にあんな事やこんなこともしましたからね」
「そうなの? 別に雄也が責任を感じる必要は無いと思うけどなぁ。ひたすらに煽って巻き込んだのは、あたしとアイリスなんだし」
「まあ、アイギーニさん、気丈には振舞ってましたけど、泣いてましたからねえ。最後には前後不覚になってましたが」
昨晩のこと、食事が終わった後で、部屋についてきたアイギーニを含め、雄也とリセラ、アイリスは4人で宴会をすることにした。
コーケンの町を出立するのは二日後で、明日は寝坊しても良いということもあり、どうせなら酒でも飲みましょうと、リセラが食堂からくすねてきた酒を開け―――…
「いやあ、酒ってやっぱ危険なのね。酔っ払って一夜の過ちとか、なったら困るわ」
「そうなる前に、実例を見れてよかったですね、リセラちゃん。酔うにしても、私と雄也さんの前だけにしましょうね」
などと、雄也との閨にアイギーニを引っ張り込んだリセラとアイリスは、けろりとした顔でそんなことを言う。
「……仲がいいな、お前達」
鈍く痛む頭を抑えながら、多少は気を取り直した雄也が身を起こして言うと、リセラとアイリスは、そろって笑みを浮かべた。
「それはそうよ、ようやく雄也を通じて家族になれたんだし、今まで以上に仲良くなれるわ」
「はい。家族というか、妻と愛人、もしくは竿シスターズでしょうか」
「頼むから、人前で公言しないでくれよ。特に最後の竿シスターズって呼び名は!」
「なんで? 別にいいじゃない」
雄也の懇願に、リセラは首をかしげる。雄也のいた現代の一夫一妻制のモラルはこちらでは通用せず、同じ一夫一妻でも、愛人やら妾やらと、規律はかなり緩いようであった。
つまるところ、気にする雄也の方が珍しい性質と言えた。
「そうですよ。別に、むりやり手篭めにしたとかじゃないんですから。私とリセラちゃん、両方と関係ありますよって胸を張ればいいんですよ」
「いや、それはそうなんだけどな……」
無理やり手篭め、の部分を聞き、雄也はまた悩みこむ。
リセラもアイリスも、雄也が無理やり関係を迫ったわけではなく、むしろ逆に関係を迫られたような関係である。とはいえ、一度関係を持った以上、最後まで彼女たちとの関係を投げ出さないようにしようと思っていた。
だが、昨夜のアイギーニはどうすればいいのだろうか。酒に酔ったうえで、少女二人に煽られて拒否の言葉は出なかったものの、雄也が押し倒したことに変わりは無い。
(まあ、ここで悩んでも仕方ない。まずは、アイギーニを探して話をしよう)
ベッドの上で悩んでいても、問題は解決しないと判断した雄也は、布団を引き剥がしてベッドをおり、部屋の中を見渡す。
朝の一室。豊満な女戦士はどこにもおらず、リセラとアイリスが普段着に着替え終えたところである。ちなみに、先ほどまで扇情的に二人は着替えていたのだが、悩んでいた雄也は特に反応せず、それが少々、不満そうであった。
「アイギーニはどうしたんだ?」
「さあ? 朝起きたらもういなかったけど」
「お部屋に帰ったかもしれませんね。あ、雄也さん、着替えるならお手伝いしますね」
雄也の言葉に、リセラとアイリスは、そんな風に返事をした。
アイリスに手伝ってもらい(というか、半ば強引に手伝いをされ)、着替えた雄也は部屋を出て、アイギーニを探すことにしたのであった。




