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キングバッファローの肉のチーズ焼きに、山芋のスープ、ライ麦パン、ポテトサラダなど、さまざまな料理がテーブルに並ぶ。
熱々の肉を頬張って、感嘆の声をあげるのはアイギーニであった。
「いやあ、なかなか美味いな、この料理! 雄也も食べてみなよ」
「ちょっと、アイギーニさん、雄也さんのお食事の世話は私がしますので、余計なことはしないでください」
「というか、しれっとこっちのテーブルに混ざってこないでよ」
雄也の右隣に座ったアイリスと、左隣に座ったリセラは、不機嫌そうにそういう。
だが、そんな二人の様子に、アイギーニはカラカラとした笑みを返すだけである。
「良いじゃないか、席は空いているんだし。こういうときに、別のパーティと交流を図るのも、ありってものさね。あんたらの中からも、あっちに移動してるのがいるじゃないか」
そういって、アイギーニが指すのは、『鉄酒』の面子が座っているテーブルである。そこには、ロッシュが移動して酒盛りに加わっており、スピカもロッシュの隣で黙々と食事をしていた。
「そういうわけだから、あたしがいても問題はなし。なんだったら、あんたらのうちどっちがが、うちの連中と交流を深めても良いんだよ?」
「やだ。雄也と一緒にいる」
「交流云々は得る事があるでしょうけど、今の状況で雄也さんのそばを離れるほど、抜けてはいませんので」
即答で、そんな返事をするリセラとアイリスに、ふぅん、とアイギーニは含むような笑みを浮かべ――――女性陣の間に火花が散り始めた。
そんな中、針のむしろ状態の雄也は、どうにかしてくれる相手がいないかと視線を巡らすが、『鉄酒』のテーブルは酒宴の真っ只中。『紅』のテーブルは男連中のやっかみの視線がこちらに飛んできており、味方などいない状況である。
(ここは、動かないでおこう)
何の解決にもなっていないが、とりあえず雄也は、極力リアクションを起こさずに、黙然と食事の手を薦めることにしたのであった。
さて、そんな静かな戦いが行われている雄也たちのテーブルとは裏腹に、『鉄酒』の面々と、ロッシュは高いテンションで酒を酌み交わしていたのである。
『鉄酒』のメンバーはドワーフのギノルス、騎士ギュート、鍛冶師アイアス、記者テイマの4名である。
「ほら、呑みたまえ、三代目君」
「おっとと、いただきますよ」
ロッシュの杯に酒を注ぐのは、騎士ギュート。ロッシュは彼と初対面だが、ロッシュの父親のことを知っているらしく、三代目、との呼び名をロッシュに使っている。
「ほほう、良い呑みっぷりじゃな。これは将来が楽しみじゃわい」
「ははは、褒めても何にもでないですよ」
ドワーフのギノルスの言葉に、テンション高く応じるロッシュ。
これは、今日は何にも無いかも……と、隣で残念そうにスピカが呟くほどの、はっちゃけ振りである。スピカにしてみれば、ロッシュが程ほどによった後で、寝室に入るのが理想的なのだが、完全に酔いつぶれれば、翌朝まで起きないのがロッシュである。
そんな彼女の無念をよそに、男達は酒を飲み交わしている。
その席で、例の行方不明の馬車について話題がいったのは、共通の話題としては当然のことといえた。
「それにしても、俺たちより先にいってた例のやつら、結局どうなったんですかねぇ」
「おいおい、その話題はしちゃ駄目ってことじゃないのか」
鍛冶師であり、ドワーフの弟子であるアイアスの言葉に、酔った頭でロッシュは注意する。それに対し、鼻で笑ったのは、記者のテイマだった。
「はっ、口止めが宿屋一泊くらいのしょぼさからいって、広まっても問題ないってことだろ、それに、いまここにいるのは、馬車の護衛クエストの面々だけだ。噂も広まりようが無いさ」
「うむ。それに、宿屋の連中もこの場だけなら見逃してくれるのではないかな? 商会とは別料金の酒をこんなに頼んでいるのだ。店主も多少の融通は利くだろう。で、行方不明者のことじゃが、わしはあの歌声が怪しいと睨んでおる」
と、ギノルスがそういうと、他の3人は微妙そうな顔をした。
「おやっさん、まだそんな事をいってるんですか?」
「この町にくるまでの道で、変な歌が聞こえたって話だよな」
「でも、俺たちの誰も聞いてないぜ? 歌と一緒に、助けてって声も聞こえたって言うが、あのとき耳を済ませても、何も聞こえなかっただろ。ボケたんじゃないか?」
と、ドワーフに対し、そんな風にいうと、ムキになったドワーフは、テーブルをバンと叩いて声を荒げた。
「ボケとらんわい、あれは確かに歌じゃった! えーと、確か……」
「ひとやま越えて なにおもう それは 厳しき ちちのかお
ひとやまこえて なにおもう それは やさしき ははのかお……」
「そう、そんな歌じゃった! じゃが、声は違うようじゃが」
「………おい、スピカ?」
突然、歌のフレーズを口ずさんだスピカに、ロッシュは怪訝そうな顔をする。
他の『鉄酒』の面々も同じであり、ドワーフだけが、同士を得たとばかりに喜んでいた。そんな、一同からの注目を浴びたスピカは、その視線に居心地の悪いような顔をするが、ややあって、ポツリと呟いたのであった。
「その歌、私も聞いた。助けてって声も」




