序章 東雲邸
今日、屋敷の庭に、かわいらしいお客さまが迷いこんできた。
ランドセルを背負った三人の子供たちだ。男の子が二人と女の子が一人。おそらく屋敷の噂を聞いて、学校の帰りに肝だめし気分で立ち寄ったのだろう。わたしは急いで階段を駆け降りると、屋敷に入るかどうかでもめている三人の前に姿をあらわした。
子供たちはわたしの姿を目にするやいなや、
「この屋敷、人が住んでいたの!?」
「廃屋じゃなかったのかよ!?」
「それもこんな子供が!?」
くちぐちに驚きの声をあげた。
そんな彼らに向かってわたしは、レースとフリルにいろどられた黒いスカートのはしをちょこんとつまみ、片足をうしろへと引くと、腰をまげて頭をさげた。
「ようこそ東雲邸へ。わたしは明星-(あかり)。遊びにきてくれたお礼に、とっておきの紅茶とケーキをごちそうするわ」
子供たちはわたしの誘いに乗るかどうかでまた言い争いをはじめたが、結局は好奇心に負けてしまったようで、三人そろってわたしのほうを向くと、おじゃましますと頭をさげた。
子供たちを屋敷に招き入れると、彼らは興味半分恐怖半分といった表情で、屋敷の中を見まわした。
子供たちを食堂に案内したあと、わたしは約束どおり、香りの高い紅茶と甘いケーキを彼らにふるまった。
おやつを食べ終わると、わたしは子供たちに一つの遊びを提案した。
「みんな、いまからかくれんぼをしない? この屋敷には隠れる場所がたくさんあるのよ。わたしが鬼役になるから、みんな、好きなところに隠れていいわよ」
子供たちは喜んで参加してくれた。
わたしがうしろを向き、数をかぞえはじめると、子供たちはいっせいに駆け出した。足音が遠ざかり、上の階からドアの閉まる音が聞こえた。百まで数えると、わたしはふり向いた。食堂にはわたし以外、もはや誰もいない。わたしも食堂をあとにした。
廊下に出ると、わたしは声をはりあげて彼らに呼びかけた。
「もういいかい?」
返事は返ってこなかった。
みんな、うまく隠れたようね。でも、どこに隠れていても、すぐに見つけてあげる。だってこの屋敷はわたしの体内だもの。あなたたちの居場所なんて、手にとるようにわかるもの。
わたしはペロリと舌なめずりをすると、彼らを探すため、猫のような足どりで、ゆっくりと廊下を歩き出した。