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エイプリル・メランコリック

作者: 要彼方

春は、まだ遠い。

窓の外に積もる雪は、どこまでも深く。 白い絨毯の下で眠る芽は、今か今かと春の訪れを待つ 。


こんな寒い日には、彼女のもとへと足を運ぶ。 彼女もまた、僕と同じく春の訪れを願っていた。 家の扉を開くと辺りに粉雪が舞う。 吐く息は白く、地に広がる色もまた白く。 鼠色の雲に覆われた空の下で僕は小さく身震いをした 。


家から出て20分。 目的地に着いた僕は、彼女のいる部屋の扉を開く。 部屋の隅。布団の中に踞る姿を少しの間眺めてから、 彼女の隣に歩み寄った。 その肩を揺らすと、小さく唸る声が聞こえてくる。

「おはよ、来てくれたんだ」

「寒いからさ、風邪引いたりしてないかなと思って」

「なにそれ、心配してくれるの?」

「そりゃ心配するよ」

決して長く、彼女の隣に居たわけではない。 永遠。そんなものが存在すると思っていたわけでもない。 それでも、僕は...。


「そろそろ来るかな、春」

カーテンの閉められた窓を見つめて、ふいに彼女は呟いた。 まだまだ春は来ないよ。真実を伝えることの出来ない 僕は、ただ笑うことしかできなかった。


春が来た。

桃色の風が窓の外に吹き抜けていく。白かった絨毯は木漏れ日の中に消え、命を纏った芽は空を目指して高く伸びている。鶯の声が空気を震わせて、僕の耳に届いてきた。


こんな暖かい日には、彼女のもとへと足を運ぶ。彼女もまた、僕と同じく春の訪れを願っていた。

家の扉を開くと、遠くの方で紋白蝶が羽ばたいた。花に集まった蜜蜂が、その羽音を力いっぱい響かせている。

命が芽生える春だ。

空は透き通った青色でいて、雪と同じ純白の雲が鮮やかなコントラストを描く。


家から出て40分。目的地に着いた僕は、彼女のもとへと歩み寄った。

「おはよう、来てあげたよ」

「暖かいからさ、喜んでるかなと思って」

「ようやく春が来たね」

彼女の名前が刻まれた石の前に、綺麗に咲いた花をいける。ずっと彼女が見たかった景色が、この場所を覆っている。永遠。そんなものが存在していたら、どんなに良かっただろうか。

「今度一緒に、花を見に行こうか」

僕の言葉に彼女が笑うことはなかった。

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