2話 奴隷の絶望
鬼畜王とバカ勇者と別れたカイは装備を揃えるため城下町へ来ていた。おかげさまでお金ならあるのだ。
「そこのお兄ちゃんラピット肉串買ってかないかい?」
ラピットというくらいだからウサギの肉だろうか。お腹が減っていたので一本買ってみることにした。
「一本銅貨一枚だよ!」
「金貨しかないんだけど」
これだけ聞けば嫌味にも聞こえるかもしれないがほんとに金貨しかないのだから仕方ない
「それなら両替しておくれ」
「どこで出来るんだ?」
「あんたそんな事も知らないのかい?変えたい通貨を思い浮かべてごらんよ」
実家がお金持ちなんで。と笑って誤魔化したがバレてないようだ。それにしても異世界は変な所で便利だな
金貨を銀貨へ両替と唱えると金貨を入れてた袋がはち切れんとばかりにパンパンになる。銅貨にいきなり両替してたらひどいことになってただろう
金貨=銀貨100枚=銅貨1000枚 ということが分かったのでこれで騙されることはないはずだ
ラビット串肉を食べてみるといままで食べたことのない味だったがとても美味しかったので追加で20本を買ってアイテムボックスへ放り込む。裏路地でラピット肉串をほうばりながら今後の方針を考えてると商人らしき人が話しかけてきた
「ぐへへ、お兄さんいいの揃ってるよ」
見るからに怪しそうだがなんとなく目的がわかり不思議と嫌な感じはしなかった。その商人へとついていくと大きなテントがありその中へ案内される。
――やはり奴隷か――
この男は奴隷商をしているらしい。中は牢屋のような檻があり奴隷が収容されている。ここにいる全員が獣人族のようだ。あの本に書いてあったことはやはり本当なんだな
「ぐへへ、本日はどのような奴隷をお探しで?」
「どんなのが居るんだ?」
買うつもりは無いが聞くだけダダだ
「ここにいる奴隷は全員が獣人ですけどね。オススメはこの獅子族の奴隷ですかね。戦闘能力は獣人の中でもヅバ抜けてますよ」
シシバルカ 奴隷
レベル10
HP250 /250
MP 40/40
ATX 50
DEF 36
AGL 40
MGR 19
INT 13
【スキル】
獣化
勇者補正がかかっているカイよりステータスが高い。レベルが違うので当たり前っちゃ当たり前なのだが。獣化というものはたしか魔法が使えない獣人特有スキルで獅子族なら獅子の姿になれる戦闘形態だとあの本に書いてあったな。カイの戦闘能力が低いのを補うためにも買うのはいい手かも知れない。
「いくらだ?」
「ぐへへ、金貨20枚になります」
全然足りない。今持ってるのは金貨14とちょっと
「おれみたいな若造がそんな大金持ってると思うか?」
「ぐへへ、商人の勘ですよ」
「残念ながらそんなにもってない。もっと安いのはないのか?」
「ぐへ、こちらの獣人も獅子族なんですが獣化出来ない不良品ですので特別に金貨10枚でお売りしましょう」
なかなかだが不良品をわざわざ買うまでもない
「獣化は獣人なら全員出来るのか?」
「ぐへへ、獣人の中には出来ない人もよくいますが獅子族は全員が出来るはずなんですよ。とりあえず見てみてくだせい」
案内された檻には生気が感じられない少女がいた。ろくに食べるものも与えられてないのか痩せこけているが顔はなかなかの美少女のようだ。ちゃんと食べさせればあっと目を引く美人になるに違いない原石だ。
「なかなかだが今回は遠慮しておこう」
そう言って帰ろうとした所で獅子族の少女と目があってしまう。この目は全てを諦めた絶望の目だ。つい助けてあげたいと思ってしまうのは日本人の性だろうか。いや、こんだけの美人だ。買い手はすぐに見つかるだろうな
「ぐへへ、そうですか残念です。この子は今日売れなければ鉱石所で死ぬまで休憩もなく働かなければいけないのです。可哀想に」
「わかった買う」
嘘か本当かわからないがここで知らんぷりをすれば人間でなくなるような気がしてならない。結局一人しか助けれないにだから所詮は自己満足なのだが。
心無しか買うと言ったとき少女の目が更に絶望に染まった気がした。
「ぐへへ、では契約しますのでこちらへ。ここへ少し血を垂らしてください」
少女の腕の紋章と首輪に少し血を垂らすと淡い光があらわれ消えた
「ぐへ、これでこの奴隷はあなたのものです。逃げることは出来ないのでご安心を。あと死に直結する命令は自殺が出来ないようになってるので聞きませんのでご注意を。」
自殺が出来るならきっとみんなするだろうしな。名前を確認しないとな
シオン=エレセント 奴隷
レベル5
HP200 /200
MP 30/30
ATX 35
DEF 25
AGL 30
MGR 12
INT 9
【スキル】
なし
おれよりもステータスが高いじゃないか。この子。なかなかいい出会いだったかもな。シオンは相変わらず絶望の目をしているが買われて嬉しくないもんなのか?じっくり時間を掛けるのが無難なとこか
金貨10枚を払い奴隷商をあとにする
「さーてどうするかな」
ここでこの世界に来てからラビット肉串しか食べてないことに気づく
「シオン、お腹すいた?」
「は、いえ。私は大丈夫です」
いま絶対はい。って言おうとしたよな。なんで正直に言わないんだ?よくわからないがここは無理に連れていくしかないようだ。
カイはここまで来るときに酒場のような場所があったのを思い出しそこへ向うため歩きだす。シオンは後ろをチョコチョコトついてきてるが布っ切れでしか身に付けてない事に気がつき服屋の様なお店に寄り道する。
「この子に合う服が欲しいんだが」
「そこの奴隷にか?冗談だろ?」
このオヤジの言ってる意味がわからない。
「おれが冗談を言ってるようにみえるか?」
「いや見えないがアンタは貴族のようにもみえないし」
オヤジは心底不思議という顔をしている。そんなやりとりをしていると横からシオンが申し訳なさそうに発言してくる
「ご主人様、奴隷ごときに衣服を買い与える人はいません。貴族でさえ、極最低限の物しか買い与えないと聞きます」
オヤジに聞けばこの世界の奴隷は物凄く待遇が悪いらしい。食事は一日一回パンだけなど当たり前だし衣服や装備品も買わないそうだ。それに加えて体を弄ぶ、暴行など日常茶飯事らしい。もちろんそうじゃない人もいるそうだが。これを聞いて買うと言った時のシオンの絶望の目の理由がわかった。買われてもこんな生活が待ってるならずっと奴隷商に居たほうがましだと思っていたのだろう。
「じゃあ10着頼む」
「あはは、驚いたよ。みんなアンタみたいな人間だったらこの世界はもっと良くなるのにな。とびっきりの可愛いやつ持ってきてやるから待ってな」
「ご主人様、私などにそんな贅沢もったいなさすぎます。お止めください」
言葉では止めているが顔からはさっきの絶望が消えている。だが嬉しいの半分、困惑が半分と言ったところだろうか
「気にするな。ただのおれの気まぐれだ。」
オヤジはとびっきりの可愛いやつを持ってくると言っていたがどれも簡素なものばかりだ。中にはフリフリの物もあったがやはり異世界でデザインを求めるのは酷だろう。シオンの服を買ったあと自分の服が無いことに気づき男物10着と麦わら帽子のような物も一緒に買う。全部で銀貨5枚だったが比較対象がないので高いのか安いのかわからない。モノはアイテムボックスに入れればガサばらないのでとても重宝する。アイテムボックスに入れてる所を見てシオンがとても驚いていたのは割合する。
さっそく着替えさせたがフリフリのワンピースがとても似合っていてまるで天使のように可愛い。猫耳がまた愛くるしい。ライオンもネコ科だから猫耳で合ってるよね?たぶん。
だがその可愛い耳を隠すため帽子を被せる。獣人とわからない方が何かと都合がいいだろう。行く先々でオヤジみたいな反応をされると正直うざいのだ。
ニコニコしているオヤジに別れを告げ酒場へ向かう
酒場は西部劇に出てきそうな木造作りでカウンターとボックス席がある想像通りのお店だった。シオンがなかなか中へ入って来ないので何をしてるのかと尋ねると「ご主人様のお食事が終わるまで外で待っています」と言われた。まったく頑固なのかこれが当たり前なのかわからないが煩わしい。無理やり中へ引っ張っていき席に座らせる。料理は目に付くもの全て頼んでしまった。どれも珍しくてつい。
結局10品がテーブルに運ばれてきた。これは当然二人で食べる量ではないが足りないよりマシだろう。
「じゃあ料理も来たし食べるか。シオンも食べるぞ」
「私も食べていいんですか?」
何を遠慮してるのやら。もう少しふっくらしたほうが可愛いのに。奴隷の食事は一日一食簡素なものって言ってたもんなオヤジ。おれはそんなことする気は全くないが。
「食事は一緒に食べるものだろ?」
「は、はい!」
まだ動揺してるようだが、でも心無しかルンルン気分にも見えてほっこりする。
二人とも結果食べきれなかったので余りはアイテムボックスに入れて非常食にとっておく
今日はもう遅いので宿へと帰ることにした。手頃な宿屋をみつけて受付を済ませて部屋に入る。ほんとは二部屋取ろうとしたのだがそこまでしてもらっては流石に申し訳なさすぎると言われたので一部屋だけにしたのだ。
ここでもまた問題が発生した。寝ようとしたら何故かシオンが床で寝てるのだ。
「一体なにしてるんだ?」
「すみません!ご主人様より先に寝ようとしてしまって」
頭を必死で下げてくるがそういうことじゃない
「いや、そうじゃなくて。ベットで寝なよ」
「いいんですか?」
「当たり前だろ」
突然シオンが泣き始めてしまった
「どうしたんだよいきなり」
突然の事に困惑してしまう
「ごしゅじんさまがやさしくて ほかの奴隷にきいた話だともっとひどいことされるって」
泣きじゃくっていて所々聞き取れないが要するに安心して泣いてるのだろう
「服もかっていただいて おいしいごはんも食べさせてもらって 宿までとっていただいて 私はほんとにご主人様に買っていただいてしあわせです」
辛い思いをいっぱいしてきたのだろう。
「なに言ってんだまだなにもかも始まったばかりだぞ」
そのあともシオンはなにか言っていたがほとんど聞き取れなかったため優しくそっと抱きしめて眠りについた。
明日は冒険に出ようと思う。獣人国にシオンの両親がいないか探してあげたいとも思う。
そう、まだ何もかも始まったばかりなのだから
次回ついに『七色マジック』解禁!!
どうぞよろしくお願いします。