1話 本に誘われし者
朝起きてご飯を食べて、学校へ行きつまらない授業を聞いて、帰ってきてご飯を食べて寝る。
おれはこの生活を18年間続けている。毎日同じことの繰り返しだ。
――流れてく日々は相変わらずつまらない――
「あれ?こんなところに本屋なんてあったっけ」
いつもと変わらない帰り道に見慣れない本屋さんがあった。出来たばかりにしてはボロすぎる外観は、まるで100年以上前の建造物をみているようだ。
「ちょっと寄ってみるか」
いつもならきっと入らないが何故か不思議と興味を惹かれていた。中は普通の古本屋の様でひっきりなしに本が並んでいる。その中の『異世界イルディス』というタイトルが目に付き手に取る。この手の本は何度も読んだことがあるがどれも平凡な毎日に刺激を与えてくれて面白い。本はボロボロと言っても過言ではないほど酷い有様だ。だが不思議な事に中は新品同様に真新しい。
「暇だし立ち読みしていくか」
あるところに、人間の国【パルテノン王国】、獣人の国【ウルテリア王国】、エルフの国【エビス王国】魔族の国【アルパス帝国】の4つの国がある【イルディス】という世界があった。
長い歴史の中で人間は獣人を耳や尻尾があることを理由にケダモノと蔑み奴隷として酷い扱いをしてきた。
いまでも奴隷の多くは獣人である。そんな獣人たちは人間を恨み、獣人国に入ってくる人間を問答無用で殺すまで昔は発展してたそうだ。そんな人間と獣人達を野蛮だとエルフは蔑んでいるが自分たちに火の粉が降り注ぐのを恐れ見てみぬ振りをしている。
彼らは今にも戦争を起こしそうな緊迫とした空気だが戦争出来ない理由がある。それは魔族の存在である。
遥昔、魔族は竜人族という名前だったがその時の竜人王(セロノ=クォート)がこの世界をを支配しようと各国へ攻め込んだ。なんとか各国は追い返すことに成功したがその被害は絶望的なものであった。
その事をきっかけに竜人族は魔族と呼ばれるようになり各国に恐れられている。
この状況をなんとかしようと思ったエルフ族が竜人王(セロノ=クォート)に同盟を持ちかけたが竜人王に裏切られエルフ族の女王(セラ=エビス)は殺されてしまう。それをきっかけにエルフと竜人族の溝は深まってしまう。
その頃人間国は魔族を打つため古の魔法により勇者を3人を召喚することに成功する。
「なんとも悲しい物語だな。」
その後勇者は魔王によって全員殺されてしまい【イルディス】はたちまち恐怖に包まれた。
「勇者完全意召喚され損じゃん。可哀想だな」
そんな事を考えていると体が急に鉛を背負ったかのように重くなる。徐々に視界が闇に染まっていき、ついに意識を手放した。
***
どのくらいの時間がたっただろうか。体が重いのは健在でうつ伏せの状態から動くことが出来ない。
『久しぶりね。渋谷 海さん』
久しぶり?どこからか声が聞こえてくるが瞼にゾウが乗ってるのかと思うほど重く開けて確認することが出来ない。
「何故おれの名前を?」
どうやら声は出せるようだ。
『それは今知るべきことじゃないわ。それよりアナタに頼みがあるの』
ずいぶんと横暴な女だなこいつ。この声に聞き覚えなどない。
「誰かも知らん奴の頼み事をする奴が居ると思うか?」
『ふふふ、それもそうね。私はイルディアよ。世界を救って頂戴。カイ』
まさかの外人?ツッコミ所満載だがいまはそんな事してる場合ではないな
「話にならんな。断る。おれは自分の好きなようにやる」
『いいえ、アナタは必ずやるわ』
「ならそう願っとけ」
あれ?おれはなんの話をしてるんだ?
きっと夢を見ているんだなこれは。変な本を読んだからこんな夢を見てるのだろう。それなら合点がいく
考えてる間に視界が段々と狭くなっていく。そしておれは本日二度目の意識を手放す
***
夢の中で寝るなんて俺も疲れてるのだろうか。それにしても周りがうるさい。そうか本屋で寝ちゃってたから店員が起こしに来たんだな。重い瞼を擦りながら起き上がろうとしたところで誰かが声を発した
「よくぞお越し下さいました。勇者様方」
勇者?目を開けるとそこには中世の神官らしき人と足元に現世で言う魔方陣のようなモノが描かれていた。周りを見るとカイと同じく状況を掴めてない人が二人いる
「ここはどこだよ!なんだよこれ」
おれと同じく18歳位であろう茶髪の男が困惑した様子で神官に説明を求めている
「貴方様方にはこのパルテノン王国を救っていただきたくご迷惑を承知で召喚させて頂きました」
――ああ、おれたちは物語の如く転生したんだ――
完全に信じてる訳では無いが…
「私たちは異世界に呼ばれたの?」
長い髪を縛りポニーテールの女が冷静に分析する
「ええ、そうです。古の魔法によって貴方様を呼ばせて頂きました。立ち話もなんですからどうぞ中へ」
どうやらカイたちは城から少し離れた塔にいたようだ。他の勇者達は今だ状況を飲み込めていないようで困惑しながらも黙って神官のあとをついていく。
通されたのは広間で高級そうな王座が中央にポツンと置かれている部屋だった。その王座に座っている小太りの偉そうさオッサンが王様で間違いないだろう
「王様、勇者様方をお連れしました」
「うむ、ご苦労であった。勇者たちよ、突然の事で困惑してるだろが話を聞いてくれ」
二人は黙ってるのでここはおれも黙ってるのが無難だろう
「物わかりが早くて助かるわい。ワシはパルテノン王国の国王ドラコ=パルテノンじゃ。まずお主達の名前を聞かせてくれんか?」
パルテノン王国?どこかで聞いたことがあるような気がするが気のせいだろうか
「私は瀬戸宮 花音と申します」
ポニーテール姿の女の子が自己紹介をする。同い年くらいだろうか、少し幼い気がするが整った顔で美人だ
「次は俺ですね。おれは日影 航太です。」
茶髪の男もイケメンの部類に入るような爽やかな顔をしている
続いてカイも自己紹介をする
「おれは渋谷 海だ」
少々無礼な態度に周りは少しざわついたがそんなことはどうでもいい。元はといえば勝手に呼んだのはそっちなのだ
「カノンにコウタにカイか。皆いい顔している。」
うんうんと頷いている王様にカノンが横槍を入れる
「失礼ですが私たちがここへ呼ばれた理由を説明して頂けませんか?」
カノンはどこまでも冷静な女の子のようだ
「そうじゃったな、すまない。ここが【パルテノン王国】なのはさっき説明したとおりじゃがこの世界には後三つ国があるのじゃ。獣人の国【ウルテリア王国】エルフの国【エビス王国】魔族の国【アルバス帝国】。この三つが人類に的じゃ」
「「敵ですか!?」」
二人は思っても見なかったことに驚きを隠せないようだ。
カイはこのどこかで聞いたことある名前に引っかかっていた。そしてあの帰り道に立ち寄った本屋で見た『異世界イルディス』の内容と合点すると気づいたのだ。勇者も確か三人って書いてあったはずだ。しかし本の内容では仲は良くないにしても敵対関係ではなかったはずだが。
「そうじゃ、特に【アルバス帝国】の者は野蛮で過去に各国を攻め込んだ事がある。けして野放しにしておくわけにはいかん」
攻め込まれたのも遥昔と書かれていたが何故今になってなんだ。
「ですが私たちのような者が魔族に対抗出来るのでしょうか?」
カノンの言うことはもっともだ。元いた世界ではみんな戦ったことなど無いだろう
「古から勇者は強力な力を宿していると言われているのじゃ、お主らステータスを確認してみるといい。ここの中でステータスと唱えるのじゃ」
言われた通り心の中でステータスと唱える
カイ=シブヤ
レベル1
【称号】???
HP100 /100
MP 150/150
ATX 15
DEF 17
AGL 33
MGR 19
INT 70
【属性】無
【固有魔法】???
【スキル】
鑑定 アイテムボックス
低すぎるような気がするがレベル1はこんなもんだろ。それにしても魔法が適性がないのか。せっかく異世界来たのに残念すぎる。AGLは素早さ、MGRは魔法防御、INTは知力的なやつだろう。無属性なくせに魔力が高いとは嫌がらせだろうか。称号と固有魔法の???が気になるが更に鑑定しても???としか出てこない
「確認出来たようじゃな。皆の属性魔法を教えてくれ。」
「俺は火魔法(下級)水魔法(下級)土魔法(下級)と書かれていますね」
三つもか!?なんて羨ましいやつだ
「流石は勇者じゃの。普通の人は訓練して二つの属性やっとだというのにたいしたものじゃ。カノンはどうじゃ?」
「えっと、私は風魔法(下級)回復魔法(下級)です」
お前もか!!どうやらおれだけ属性がないようだ
「カノンも二つじゃが優秀じゃな、回復魔法の属性を持つ者は珍しい。カイはどうじゃ?」
「おれは無属性だ」
時が一瞬止まった。オッサンがこっちを哀れむように見ている
「無属性とは珍しいの。無属性の者は固有魔法を持っているがお主のはなんじゃ?」
なにと聞かれても???としか出てこないのだ。素直にそう伝える
「わからない。???としか」
この場にいる全員が哀れみの目で見てくる。それだけでどんなハズレなのか理解出来る
「???の意味はわからないがお主には戦闘は向かないようじゃな」
「そのようだな。おれはいますぐ元の世界へ戻せ」
「残念ながら戻す方法をワシらはわからぬ」
なんだと…。勝手に召喚されて無能呼ばわりされた挙句戻れないだと?
「なんてことしてくれだんだ」
怒りが込み上げてくる。帰れないのに召喚しやがったのかこいつ。カノンとコウタも顔が青ざめてく。自分たちの置かれた状況を理解したようだ
「じゃが言い伝えではエルフ族が知っておるらしい」
人間が帰還魔法を知らなくてエルフが知っている訳がない。苦し紛れの言い訳も甚だしい。だがカノンとコウタに笑顔が戻る。バカな奴らだがおれにはもう関係ない事だ。
「カイよ、お主には選んでもらおうか。勇者として皆の為に死ぬか、それとも自由に生きて死ぬか」
どちらにせよおれは死ぬんだな。このステータスじゃそれもそうか。納得すると不思議と笑みがこぼれる。
「おれは誰かの為に死ぬなんてまっぴらゴメンだな。自由に生きてやるよ」
「そうか。それがお主のためにもなるだろう」
これは餞別だ。と金貨15枚が入った袋を渡される。この世界の通貨はわからないがきっとそれなりの大金だろうな。手切れ金か口止め料か。いやそのどちらともだろう。
「慈悲としてありがたく受けとっておく」
こうしてカイの自由な旅ははじまった
ここまで読んでい頂き有難うございます!
読めば読むほど面白い物語にしていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
どこか変なところがありましたらご指摘ください!