異世界の駄女神様
今から数年前、かつて工藤がまだ大学生だった頃、彼はいま目の前にいる
『駄女神』フィオナと運が悪いことに出会ってしまった。その頃のまだ子供
の部分が残っていて純真だった彼は、この『駄女神』の面倒に巻き込まれて
彼女の『異世界』に連れ込まれた。ほぼ恐喝である。
当時、『駄女神』オブ『駄女神』と呼ぶに相応しかったフィオナの
『異世界』は、緩やかな滅びの危機に面していた。自ら造った世界の管理者
が厨二病を発症し、好きなように彼女の『異世界』で遊び始めたのだ。
当然、彼女の手に負えるわけもなく、諦めて放置を決め込んでいたのだが、
工藤と出会ったことをいいことに、その解決要員として巻き込んだという
わけだ。
工藤は、2体いた厨二病の管理者『神』の内、1体を撃退することは
できたが残るもう1体には、『異世界』の外に逃げられた。その逃げる際に
仕掛けられた世界崩壊の罠を掻い潜り『異世界』を救ったのではあるが、
その勝利に調子をこいた『駄女神』フィオナがその『異世界』に光臨する
際、その創造神たる存在力でうっかり踏み砕いてしまったのだ。
駄女神とはいえ、一応偉大なる創造神ではあったわけだ。
砕けた『異世界』の強度が弱わ過ぎたともいう。
やっぱり造ったのが駄女神だったわけだし。
その後、絶対の創造神こと『おじいちゃん』に、この『駄女神』フィオナ
の面倒を押し付けられ、彼女がちゃんと世界の創造・運営の勉強に励むよう
に監視するさせられるはめになった。フィオナ自身も強く自らの『異世界』
を復活させたいという想いは強いので、大概は放置しておいても問題ない
のだが、ちょっとプレッシャーがかかると、自分の無能さ故に、自分の
『異世界』が壊されたことのトラウマが発動し、集中力が散漫になる傾向
がある。
彼女のトラウマとは、自らの『異世界』を踏み潰して壊したことでは
なく、たとえ自らの『異世界』を修復したとしても、再び何者かによる侵略を
受けるのではないかという恐怖、自分がまたそれに対抗できないのではという
不安からきている。
彼女の『異世界』で厨二病になった管理者は、自然に変質したものでは
なく、外部世界の何者かの介入によるものだったわけだ。それがわかった
際に知り得た情報が、『実験』と『成功サンプル』というキーワード
だった。何者かは、彼女の『異世界』を使って何かの『実験』をしていた
のだ。そして『異世界』の外に連れ出された1体の管理者、これが
『成功サンプル』だったのだろう。
何者かの『実験』は、『カタチ』と『場所』を変えて、今も続けられて
いる。それを工藤とフィオナは、『おじいちゃん』からの片や『依頼』と
して、片や『教材』として、あれからの数年、追い続けている。だから、
あの事件はずっと続いているし、彼女のトラウマも続いているというわけ
だ。トラウマが解消されるのは、犯人を捕まえるか、彼女が犯人より強く
なって自身をつけるしかないのだろう。
フィオナのここ数か月の『教材』は、とある『異世界』で頻発するよう
になった『勇者召喚』についての分析と対処である。
『勇者召喚』。
近年ライトノベルでもてはやされるようになった話題であるが、近年に
なって発生しだした新しい現象であるわけではない。古代より存在はして
いた。
そう、少し前までの言い方で言うなら『神隠し』である。