プロローグ ― 転 ―
「ずっと歌ってるようですけど、随分ご機嫌のようですわね?」
歌っていた少女は、急に後ろから声をかけられたことに驚き振り向く。
そこには、黒いゴシックでひらひらのドレスを身に纏った腰までの長い銀髪
の少女が立っていた。彼女は、まだ幼く小学6年生ぐらいだろうか。
こんな時間になぜ小学生がいるのだろう。しかも銀髪に赤い瞳。ここは伝統が
あり、有名な私立高校。部外者の小学生が勝手に入って来られるほど
セキュリティーは緩くはない。しかし、歌っていた少女が驚いたのは別の理由
からであった。
『あなた、わたしが視えるだけじゃなくて、声も聴こえるの?』
霊感の強い美術部員の生徒に一度気づかれてことはあるが、この銀髪の少女
には歌まで聴かれていたようである。今、この時にいるという事実を踏まえ
ても、ただの少女というわけではあるまい。
「わたくしの方が驚くならともかく、幽霊であるあなたが驚くこともないで
しょうに。もっとも、わたくしはあなたの噂を聞いたから会いにきました
の。だから、わたくしが驚かないのは当たり前のことですわ」
銀髪の少女は、幽霊と呼ばれた少女に気づかれることもなく近づくと、
そっと微笑みかける。
『わたしの噂?怖いもの見たさですか?でもわたし、驚かせてたりするのは
嫌なんですけど......
あなた、もしかして除霊師とかゴーストバスターとかなんですか?
わたし悪いこととかしてないですから見逃してください!まだ、この学校で
彼と一緒に過ごしていたいんです!』
「いえいえ、わたくしそんな低俗なものではないですし。今日、あなたに会い
に来ましたのは全くの別件ですわよ?」
銀髪の少女は、綺麗ではあるが、まるで生きているような不思議な輝きを
放つ宝石の欠片を差し出しながら、真っ赤な三日月のような微笑みを浮かべ
ながら答える。
「あなた、異世界で魔法少女になってみませんこと?」
そして、幽霊少女の悲しい物語は動き出す。