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勇者召喚国を探せ

 本郷寺の召喚から2週間、工藤はパンドラ大陸の西部沿岸に存在する国家の

動向を調べている。エルジア皇国が存在する東部の国家群は、デシカにお願い

した。現在のパンドラの文明レベルでは東部と西部の往き来は不可能であり、

実は、その存在すら互いに知られていない。世界を一周できるほど航海技術も

船舶製造技術も発達していない。南北端は、冬の北極海と同じで生きて渡ること

はできない。大陸中央は、標高数千メートルを超える山脈で、この世界に存在

する魔法技術をもってしても、踏破することができない。大航海時代前の

ヨーロッパとアメリカ大陸みたいなものだ。よって西部沿岸は工藤だけで

調査するしかない。


「師匠!鉱石回収してきたっス!」

「おう!倉庫に放り込んどけ。もう、変身にも戦闘にも慣れたみたいだな」

「変身していられる時間も30分ぐらいになりましたし、変身に1秒も

 かからなくなったっス!」

「まだ、気を抜くなよ。レベルも上がったとはいえ、まだ素の状態じゃ一撃で

 やられる敵なんぞウヨウヨいるからな。1秒あれば10回は殺されるぞ。

 この調子であと数週間もすれば、変身時間が1時間を超えるからクール

 タイムを超えて変身しっぱなしができるようになるし、変身時間も数十

 ミリ秒になるから、意識した瞬間に変身できるようになるだろう」

「師匠が女神様だまくらかしてくれて助かったっス!」

「それはいいががりだ。数字に疎いアイツが悪い。だいたいそんなんだから、

 こんな世界造ってんだから」

「それで、調査の方はどうなんスか?何かわかったスか?」

「まだだ。さっぱりしっぽが掴めん」

「勇者召喚って結構地味なんっスね。もっとド派手なイメージがあった

 んスけど?」

「お前の場合は、特例で究極に地味だったみたいだけどな。アレはエリスが

 直接やらかしたからであって、人間が行う場合は、隠してやろうとしても

 どうしても痕跡が残るはずなんだ」

「どういうコトっスか?」

「勇者召喚には莫大な魔力が必要となる。それこそ国家という単位の組織で

 あれ、数十年をかけて魔力を溜める必要がある。それに儀式を行うための

 術者が数十人は必要だ。この世界で魔力とは金でもある。召喚用の魔力の

 源とする魔石は金になるからな。国家財政への負担をかけずに魔石を溜め

 込むもうとすると、それぐらいかかるってことだ。ここ数年で勇者召喚が

 頻発しているが、そもそもエルジアのような超大国か複数の国家群で協力

 して行う設定にしてあって、小国家程度が1国で行えるようなものじゃない。

 勇者召喚は、パンゲアという世界全体に対する危機に対応するシステムで

 あって、そこらへんに転がっている国がホイホイ行うようなものじゃなか

 った。だが、そこに何者かが介入してきた。勇者召喚に支払うコストどころ

 か、勇者召喚の方法すら知らなかった小国相手に、使い捨て改造召喚陣を

 与えて回ってるやつがな。ただ、この改造召喚陣でも小国程度なら国が傾く

 ほどのコストがかかるし、必要な術者の数もそれなりにいるから、その辺の

 流れを観察していれば発見できるはずなんだが...」


 工藤は、一息つけようと珈琲を入れようと立ち上がり、


「お前も珈琲いるか?」

「えっ!珈琲あるんスか!異世界なのに?」

「ん?あるぞ。とは言っても物語みたいに異世界産とかよく似た代用品とか

 じゃなくて日本製のインスタントだがな」

「さらにインスタントっスか!どうやって手に入れたんすか?」

「いや普通に店で売ってるぞ?日本のだけど」

「それはわかるッスよ!どうやって戻れたんッスか?俺も戻りたいッス!

 新刊買いに行きたいッス!」

「お前は、いろいろ条件付きで召喚されたんだからダメだろ?俺は召喚された

 わけじゃなくて勝手に入り浸ってるだけだからいいんだよ。そもそも、俺は

 どの異世界でも出入りは自由なんだよ」

「なんスか、その外交官特権みたいなの!師匠は、一体何者なんスか?」

「んー、異世界の調査員?警察?というか番犬かな?」


 本郷寺がインスタントコーヒーおいしそうに飲んでいる。久々の地球の味

が懐かしいのだろう。


「でも、どうやって調べてるんですか?師匠、ずっと俺と一緒にいるじゃない

 っスか?」

「ああ、各国の酒場と教会に盗聴器しかけてある。それを上空に待機させて

 いるコックテイル号で拾ってコンピュータで音声分析かけてる」

「なんかCIAみたいなことやってるッスね?」

「この世界に取り締まる法律はないから、何一つ問題ない。で結局、大規模な

 魔石の動きも神官の大規模投入の動きも見つからないわけだ」


 工藤は、飲み終わったコーヒーカップをテーブルに置くと、本郷寺に言った。


「というわけで、そろそろ俺が直接潜入調査に入らないといけないんだが、

 そろそろお前ひとりでもゴーレムたちがいるからこのまま修行をさせても

 問題ないと考えていたところなわけだ」

「もう修行にも慣れたから大丈夫ッスよ。最初の敵として、処刑台に首を固定

 して一直線に並べられた300体のゴブリンを撃ち落とすために、棺桶に

 詰め込まれて高速で撃ち出された時の恐怖のおかげで、いろいろと麻痺した

 ッスから!」

「仕方ないだろ。お前、最初1時間に3分しか使い物にならなかったんだから。

 短時間で一気にパワーレベリングするにはあれぐらいやらんとな。

 というわけで、あとは、ゴーレムたちがここら辺の山脈を削って更地している

 間にいろいろ出てくるだろう魔物をゴーレムと一緒に狩っていろ。数時間

 おきには顔を出すから」

「えっ?でも大陸の西側に行くんスよね?そんな簡単に行き来できるんッスか?」


「まあ、おひとり様用ルーラが使えるみたいなもんだ」


そう、自分のチート能力を誤魔化すために適当なことを言っておくのだった。






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