戦闘姫ツンデシカ
工藤が寄って行く最中、追い掛け回されていた少年は、ついに力尽き、地に
倒れ伏せ、黒嬢に蹴り飛ばされて遠くに転がっていった。周囲で見学していた
騎士たちが慌てて駆け寄り、回収して皇城の方へと連れて行くのが見える。
死んでいなければよいのだが。
黒嬢はゴブリン・オーク程度なら軽く蹴り殺す。デシカが気に留めていないような
ので、治療可能な範囲なのだろう。皇女デシカは、戦闘脳のKYでるが無理矢理他人に
あのような訓練を課すような無茶なことはしない と思う。つまり、少年が望んだ上
での訓練だったのだろう。しかし、何故、彼女が直接面倒みているのだろうか?彼女の
戦闘能力は、騎士団長を超え、魔力は宮廷魔術師に匹敵する。はっきり言って勇者クラス
なのである。このエルジア皇国が勇者召喚をいままで必要としなかった理由はここにある。
「デシカ、さっきの少年は大丈夫なのか?」
「勇者殿ですか?エリス様の加護がついているのですから、あの程度では死なないでしょう」
「あの少年が勇者だったのか」
「そのうち元気になるでしょうから、あとで紹介しましょう。まったく、エリス様もいきなり
めんどくさいものを押し付けてくださるものです」
そう、これがエルジア皇国での少年勇者の現在の評価であった。
デシカがその理由を語ってくれた。
「昨晩のことですが、真夜中にいきなりエリス様からの神託がありまして。皇城の中庭に
勇者を落とすからよろしくね!とのことでした。真夜中にいきなりですよ?そのまま
放置したかったのですが、放っとくと、ただの不法侵入者です。皇城に真夜中に不法侵入
なんて暗殺者ぐらいしかいませんから、即討伐ですよ!エリス様直々に召喚した勇者を
暗殺者と間違えて殺しちゃいましたなんて他国に知れたら我が国の立場がありません。
立場ないどころか創造神エリス様の敵、世界の敵ですよ!急いで父上・母上を叩き起こし、
常駐する騎士団の団長・副団長に至るまで叩き起こしたのですよ!召喚陣が現れ、勇者が
落ちてきたときには感動の嵐ではなく、こんな時間に何しにきやがったんだこの野郎と
いう痛い視線の嵐でしたよ!」
ずぼらな神経の彼女が、こうも憤るとは、エリスの野郎、デシカに頼みごとがあるのに
ハードルが上がるじゃないか。しかも、今回の少年勇者召喚は、俺にも関わりある事だし。
いくつの対価をデシカから求められることやらと工藤は気が気ではなかった。とりあえず、
今回のエルジア勇者押し付け召喚のことの顛末から説明せねばなるまい。
「彼の勇者召喚については俺も関わり合いがある。まずことの顛末を話そう」
工藤は、地球での事件のこと、26名のニセ勇者『強化戦闘体』が新たにパンドラに
召喚されそうになっていること、昨晩は、その召喚阻止のために急遽、エリスが目をつけて
いた少年を召喚したことについて説明した。
「ということで、1ヶ月の猶予ができたということだ。どの国が召喚を企てているのか
調査しなきゃならんし、回収した26名を放置するわけにもいかんし。正直、お前の
手を借りたい」
「貸3つとおまけ付きですね」
「3つ!しかもおまけってなんだ?」
「召喚を企てている国の調査協力、26名の保護教育、うちの勇者召喚被害に対する
補償です。おまけは、うちの勇者の教育です。使えるようになったら使ってあげ
ましょう」
「前ふたつはいいんだが、三つ目はなあ。エリスの責任なんだがなあ。あと一応勇者
なんだから国の責務として育てないのか?」
「エルジア皇国が召喚したわけではない上に昨日の一件でわたくしを含め、各騎士団から
の印象もよくありません。今もどこの騎士団も忙しいと断られている始末。高度な戦闘
訓練を施せる人材が必要なので暇なわたくしに押し付けられました。でも、まだ弱過ぎる
ので詰まらないのでもう飽きたところです。なにより、訳がわからないことばかり言う
のでうっとうしいです。このままだと訓練中の事故死とか発生しちゃいますよ?」
「喜んで俺が面倒見させてもらいます。あとは...」
工藤はデシカが納得しそうなものを考える。この姫様、燃えるような紅く長い髪が示す
ように強力な火属性の加護をもっている。字は炎の戦闘姫であり、この国最強である。
しかし、皇女である上、有能な騎士団が12もあるので出番は用意されていない。よって、
我慢できなくなった戦闘脳KYは、戦闘には勝手に参加して単独突破なのである。
我慢はできないらしい。よって戦闘鬼とも呼ばれている。
「回収した26名をお前の騎士団員にするってのでどうだ?武装は俺が用意してもいい。
そのかわり、このヘイロンの西の山脈から鉱物掘り出して納めるから」
「それならいいでしょう。ついに、わたくしの最強騎士団ができるのですね!」
赤龍騎士団。実は団長しかいなかった。
「おや、あのアホが帰って来ました。加護がついてるだけあって回復速度が異常ですね。
紹介しておきましょう」
「もう姫様そんな冷たいこと言って。ツンデレなんだから!」
「勘違いするな少年。この姫様にデレは存在しない。名前が示す通りツンデシカない!」
「ツンデレがわかるってことは、あなたが地球からきた人なんですね?初めまして。
僕は、本郷寺 焼 勇者やってます!」