協力者
事故現場に行った翌日、工藤は早朝から寧音子を伴って東京へと
出かけた。事故車両のバスが、調査のために東京に持ち込まれた
ためである。事故処理された今は倉庫に眠っているという。
東京駅で三条と合流し、保管されているという倉庫に三条の
レクサスで向かう。
「ベンツに乗っていると思いましたか?日本人なら日本車に
乗らなきゃダメです」
工藤は、いいたいことはわかるのだが何かが違うと感じた。
「これがそのバスです」
「見事にぺちゃんこで、粉々ですね」
同行している寧音子が何故か楽しそうにいう。
「いや、どうみても調査用に車体ぶった切ってるからだろ」
「ええ、あの崩れた崖は岩山の一部でしてね、崖上の表層の土砂も
かなり混じってはいましたが、崩れてきたのは大概、巨大な岩石
だったんですよ。そのせいでバスはこの通り見事にぺちゃんこ
でしてね。中を確認するにはこうするしかなかったんですよ。
まあ、生徒の遺体が無かったのはある意味幸いでしたね。
あれば見るに堪えない状況になっていたことでしょう」
工藤はバスのスクラップに近づきあるべき物を探す。
三崎こずえの話だとバスの床に召喚陣が現れたはずだ。
場所を指定したり、召喚対象人物を指定して召喚陣を発生させる
ことは可能だが、かなりの速度で走行するバスの中の人物を多数
召喚するなど確実性に劣る。わざわざ『パンドラ』からきて偽装
事故まで起こす犯人にしては無計画過ぎる。確実に召喚成功させる
ためにバス自体に召喚陣を発生させる何かを仕込んでいた可能性が
高い。事故後、バス自体は潰れてほぼ密室状態になってしまったの
だから、外に流れ出た可能性も低いだろう。雨風ごときで剥がれる
ような温い細工はしていないだろうが、バス内部の天井か床に設置
するのが適切なところだろう。それも、認識できないような細工、
例え高位の検知能力をもっていようとも『地球』限定のでは見つけ
られないようなだ。実際、崩れた崖に残っていた『パンドラ』の
魔力は気づかれていなかった。宮内庁警備局が噛んでいてもだ。
「バス内部にあったものはコレだけなんですよね?」
「ええ、手荷物などの生徒達の私物は、遺品として返却されて
しまいましたが、当時バス自体の備品として発見されたものは、
全てここにあります」
召喚札は、バスの床らしきところに未だ堂々と貼り付けてあった。
認識阻害だけでなく、剥がれないように、汚れないように、破れ
ないようにいろいろ術式が並列発動しているのだろう。工藤は、
十徳バットの大剣を取り出し、召喚札自体どころか発動している
術式すら破壊することなく、札の周りの床ごと丸くくり抜いた。
「三条さん、これサンプルで貰っていきます」
「すでに事故として処理されているからかまわないが、床なんて
持って帰ってどうするんだい?」
寧音子も不思議そうな顔をして工藤をみている。素人の三条は
ともかく、やはり高位霊能力者の寧音子ですら召喚札がみえて
いない。工藤がいなければ、ただでさえ霊力魔力を使った犯罪は
表の世界ではやり放題なのに、これでは、裏の世界ですらやり放題
である。
「視えていないようですが、召喚札が貼ってあるんですよ。多分、
おふたりでは触っても認識できないと思いますよ」
犯人自体は異世界の者であろうが、バス会社内に協力者がいるか、
白峰学園にいるかは確定だな。どちらから調査するべきだろうと考え
つつ、工藤は車体から飛び降りた。
「三条さん、このバス会社と白峰学園の修学旅行者の詳細情報を
知りたいんですが。特に消えた生徒かその保護者と因縁があり
そうなやつの情報をお願いします」
「私には視えないけど、その召喚札をバスに貼り付けた可能性が
ある人を探すところから始めたらよさそうだね」
「そうですね。消えた生徒たちが狙い撃ちされたかは、まだわかり
ませんから、その線でお願いします」
「わかった早急に調べさせよう。君はこれからどうするんだ?」
「一度、自宅に帰って、この召還札を調べます。それにそろそろ、
どの『異世界』なのか判明する頃でしょう。わかったら寧音子
さんに報告しますよ」
「よろしく頼むよ」
工藤達は早々に現場を後にし、東京駅に向かった。東京で過ごし
たのは、数時間であろうが岡山の自宅に着くのは、夜遅くになる
ことだろう。急いで帰りたいところだが、フィオナに東京土産の
ひとつでも買って帰ることにする。洋菓子でいんじゃないかなと
三条の車の助手席から東京の街を眺めていた。