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やさしい約束(うそ)

 やっかいな依頼を受けた翌日、工藤はさっそく観光バスの事故

現場に現れていた。崩れた崖周辺はすでに補強修理されているし、

道路自体も綺麗なものである。道路下の河原でさえ崩れた土砂は、

調査のために全て撤去された後で、あるのは被害者たちへの献花台

ぐらいだ。


 すでに調査し終えた崩れた崖からは、地球以外の魔力を検知して

いる。今はフィオナが送られてきた魔力データからどの『異世界』か

特定中だ。崩れた崖から魔力が検出されたことからも、これは事故

ではなく計画的な事件だ。ターゲットたちを確実に目標の『異世界』

に召喚させるために、地球側で事故によって彼らを死に直面させ、

召喚を確実にしたわけだ。事故車両のバス自体にも何か細工が施され

ていた可能性が高い。事故車両については、明日にでも調査できる

ように三条に便宜をもらおうかと工藤は川の前で、タバコを吹かし

ながら考えていた。


 この河原には既に事故車両も土砂もないのに、彼がここに降りて

きたのはタバコを吸うためと献花台に持ってきた花を供えるためだ。

事故で消えた学生たちの魂はここになくとも、バスの運転手など二人

は亡くなっているのだ。花を供える意味はある。


 献花台に花を供えて帰ろうかと振り向くと、視界の隅に若い女性

が映った。肩までの長さの栗色の髪を涼やかな川面からの風に揺ら

しながら、こちらを見ている。工藤は彼女のもとに近づいていて声

をかける。


「気持ちいい風ですね。ちょっと話しませんか?」


彼女は、何も語らずただ頷く。工藤に伝えたいことがあるようだ。


「イスとテーブルが欲しいですね。ちょっと待っててください」


工藤は近くに転がっていた身の丈を超える巨石に近寄り、


「よっと!」


ひょいと持ち上げて彼女の前に置く。懐から金属バットを取り出す。


「これ、十徳バットといって、サバイバルとか戦闘に使えて結構

 便利なんですよ」


といって、工藤がバットの握り部分を操作するとバット本体から

極厚のブレードが飛び出す。まるで大太刀のようである。

その大太刀で巨石を撫でるようになぞり、上半分を掴んで持ち

上げると綺麗に割れた。綺麗な石テーブルの完成である。


「あとイスも作りますね」


ささっとイスも同様に作り、彼女のイスとなる石には、タオルを

取り出して上にかける。服が汚れないようにとの工藤のちょっと

した気遣いである。相変わらず彼女はひとこともしゃべらないが、

にっこり微笑み、イス腰かけた。


「えーと三崎こずえさんですよね?これ、あなたの為に用意して

 きた花束です、受け取ってください」


工藤は、石テーブルの上に色とりどりの薔薇の花束を置いた。


「薔薇が好きだと聞いてきたんですが気に入って貰えましたか?」


気に入ってもらえたのか、壊れた人形みたいに首を縦にブンブン

振っている。かなりうれしいみたいだ。


「三崎こずえさん、19歳。高校卒業後、地元名古屋でバス会社に

 就職。研修期間を得て、この春からバスガイドとして勤務を

 始めた新人さん。間違いないですか?」


黙って頷く彼女。


「まだ、ここにいるということは何か心残りがあるんですか?

 失礼ですが、あなたは幼い頃にご両親をなくし、高校卒業後すぐ

 に、面倒みてくれていた最後の肉親だったおじいさんも亡くして

 いる。恋人はまだいなかったようですが。あなたを縛りつける

 ようなものはないみたいですが、もしかしてお約束の恋がして

 みたかったとかですか?」


今度は、首を横にブンブン振って否定する彼女。もげるぞ?


「なにか俺に伝えたいことがあるようでしたが、復讐とかの恨み

 ごとですか?この事故の犯人を知っているとか?」


黙って、首を振る彼女。やはり彼女はそんな人ではなかったようだ。

工藤は最初からの目的通りの質問をする。


「あなたのバスに乗っていた白峰学園の生徒たちは、未だ遺体が

 発見されていないんですが、なにか知っていることはありません

 か?あなた彼らが消えるのを見たんじゃないですか?」


頷く彼女。


「彼らが消える前に何か光ってるものとか見ませんでしたか?

 魔法陣みたいな図形とかです」


より強く頷く彼女。なぜ知っているのかと驚いているようにも

見える。


「ありがとうございます。これで確証がとれました。犯人をつき

 とめられそうです。お礼といってはなんですが、あなたの心残り

 の原因をなんとかしてあげたいのですが、犯人逮捕とか復讐とか

 じゃないなら、あれでしょ?消えた生徒たちの心配をされている

 のでしょう?大丈夫ですよ。多分、彼らは全員死んではいません。

 どこかで生きていると思いますよ」


なんでわかるのといった表情の彼女に対し、工藤は約束する。


「彼らは無事にご両親のもとに返してみせます。だから、あなたは

 安心して逝ってください」


三崎こずえは、丁寧なお辞儀をしたあと、淡い光となって天に昇って逝った。


 工藤は、しばらく天に昇って逝く光を見送ったあと、タバコを

取り出しいっぷくしながら、電話をかける。


「もしもし。あ、『おじいちゃん』、工藤です。御無沙汰しており

 ます。今、三崎こずえという女性がそちらに向かったんですが、

 早めに転生させてあげてくれますか。え、駄目?いや、そこを

 なんとか!いい子なんですから、お願いしますよ。え、知ってる

 って?死んだご両親が転生して今高校生でラブラブカップルに

 またなってる?さすがにあと数年は待てって?それまで自分が

 面倒みるって?変なことしないでくださいよ?

 それじゃあ、お願いします」


電話を切ると、工藤は天を仰ぎ、


「今日の捜査終わり!」といって自宅へと帰路についた。


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