公式認定『異世界』
「異世界?何言ってんですか?暇な時間が多すぎてゲームと
ライトノベルの読み過ぎじゃないんでか?」
「なにげどころか豪速球で酷い!言われていることは事実ですが、
今回は異世界絡みの事件というのは、公式見解ですよ?」
「異世界とかどこの公式だ!角川か?スクエニか?」
「ごうさん、『神隠し』って知ってますよね?昔からある話
ですし。皇家やうちのような古い家柄にはちゃんと実際に
ある話として伝わってますし、考証もされているんですよ。
昔なら、異界とか魔界とか霊界とかいってたんですけどね。
千年以上の歴史があれば、多数の事例があるわけで、中には
無事に帰って来た人の話もあるわけですよ?」
「あー、信じてるんだ?異世界」
「当然だろう、異世界は男の浪漫だ!ビバ、異世界転生!」
いきなり、いままで黙っていた三条が叫ぶ。主役からおまけに
格下げされて落ち込んでいたはずだったんだが。しかし、この
エリート官僚、真正オタクだったようだ。
「せめて異世界召喚にしとけよ。異世界転生だと死ぬこと前提
だろうが」
「何を言ってるんだ君は!産まれてすぐにトレーニングを開始
してチート目指さないとだめだろう?」
「三条先輩の家は、うちと同じぐらい古い旧家なんだけど、全く
霊能力が出てこない逆にすごい家柄でね?これだけ古い歴史が
あれば、少しぐらいは出そうなんだけどね。先輩もそうなんだ
けど先輩んち先祖代々、事務能力は超人的に高くってさ、
その分、霊能力への憧れは凄くって、力の強い霊能力者たちを
嫁や婿に散々迎え入れてるんだけどさっぱりでね?先輩も霊能力
とかさっぱりな上にご先祖様同様に憧れが凄くって、先輩んちの
歴史知らない他人からみたらただの厨二病にしか見えない
でしょ?」
「政府は、多発する行方不明者の調査分析に近年力を入れて
いてね。某国による拉致問題とかの把握のためとかあるし、
犯罪性が高い案件もあるからね。その中の特殊案件として
若年層に顕著な行方不明がある。失踪する理由もなく、
事件性も認められない。その上、僅かばかりの時間に消えて
しまう。まさに『神隠し』だよ。我が別室はこの『神隠し』の
調査を専門的に扱う部署でね、宮内庁が持つ『神隠し』の情報
とも連動しているのだよ。我々は宮内庁より人員も予算も
割けるからね、日本全国で徹底的に調査もしているし、
『帰還者』も多数確保しているよ。そして、『異世界』はひとつ
ではなく、多数存在していることも予測済なのだよ!」
眼鏡をクイッとばかり押し上げる三条は高揚しているようだ。
冷却のためにも放置しておこうと工藤は考えていた。
「おまけが勝手に説明してくれやがりましたが、説明はそんな
ところです。そうです!公式発表こそできませんが、政府公認
なんですよ!そして工藤さんが『異世界』へ出入りしていること
もほぼ予測済です!あなたよく自宅から『異世界』に出入りして
ますよね。調査済なんですよ?否定しても無駄ですよ?
ちょくちょく差し入れで持ってきているスイカですけどね?
実は種に偽装してGPS仕込んでるんですよ。だからたとえ
テレポーションで外に移動していたとしても追跡できるはず
なんですが、あなたの場合は、地球上から消えていますから
違います。スイカの種ごと食べるめんどくさがりの性格が
墓穴を掘りましたよね!」
ここまで、大掛かりに仕掛けられては、認めるしかあるまいと
工藤は、さすがに諦めた。あとは一方的に利用されないように注意
せねばあるまい。
「わかりました。『異世界』の存在も、俺が『異世界』に自由に
出入りできることも認めます。でも、娘さんの召還先の世界が
俺の知っている『異世界』とは、限りませんよ?あと久遠夫妻
は一般人みたいですが、こんな話聞かせてよかったんですか?」
「久遠家も同様に古い家柄ですので、もともと気づいてましたから
いいですし、すぐに見つかるようなことじゃないことを理解して
いただくのにはいい機会ですよ。必要経費、これ領収書いりま
せんから、それと拘束期間における定期的な収入の補填は政府
から出します。遺品回収または本人たちの保護による成功報酬
は、さすがに久遠家から出していただきますが、あまりぼった
ぐらないでください。ごうさん、あまりお金使わないから必要
ないでしょうけど、他人にできることじゃないですから遠慮は
不要ですよ。あと、政府からはお金で買えない便宜とか図って
くれます」
この女、どこまで知っている?
工藤は、実はフィオナの戸籍をどうにかできないかと以前より
考えていた。違法な方法を使えば、戸籍を買うなどできるのだが、
そんなことはしたくなかった。寧音子が暗にフィオナの戸籍造り
ますよ?って言っているような気がしていた。
「どうせなら、わたしの妹ということにしときます?うちなら
特殊な家柄として多少外人っぽい容姿も誤魔化せますよ?」
完全にばれていた。気がしているどころではなかった。もう、
正直に話したほうがいろいろよさそうだ。