村長Aの村興し
昔、むかし、とある世界のとある辺境の地にユノ村という村があった。
そこは、農業と大きな森の恵みを受けて、ユノ村の村人達は平穏に暮らしていた。
ある日のこと、ユノ村に王様からの使いで勇者を迎えに来たと、王宮の騎士達がユノ村へやってきた。
王宮の騎士達は、まず最初にユノ村の村長さんへ会いに行った。王宮の騎士の中で一番年上の騎士が村長さんを訪ねることにした。
村長さんの家は村の中心にあり、村の中では一番立派な建物である。二階建ての木造建築だった。
騎士は、村長さんの家の前に来て、玄関の扉を叩いた。すると中から初老の男が出てきた。
「すみません。私は王宮からの使いで参った者でございます。この村の村長にお会いしたいのですが、あなたが村長ですか」
騎士がそういうと、初老の男は答えた。
「いえ、違います。村長さんは私の祖父です」
「そうですか、では村長にお会いしたいのですが」
「分かりました。それでは、ご案内いたしますので、祖父のことは「村長さん」と呼んであげて下さい。そうしないと返事をしてくれないので」
騎士は村長だと思った初老の男の祖父だと知って内心、どれ位の高齢なのかと思いながら、村長さんの家に入った。
騎士は、初老の男に案内されて、村長さんに会うことが出来た。
村長さんは老人らしい老人であった。ふさふっさの白く長い髪に豊かなひげがあり、まるでサンタクロースのようだ。もこもこしている。そして、お豆のようなつぶらな瞳である。体は小さく、杖をつきながら、ひょっこり、ひょっこり、歩いてきた。
「ほっむ!」
村長さんがしゃっべった。
だが、騎士には村長さんが何を言いたいのか分からなかった。
「…………」
「お掛け下さいと、村長さんは言ってます」
初老の男が通訳してくれた。
騎士が椅子に腰をかけると、村長さんも椅子に座った。
村長さんの孫にあたる初老の男は、このユノ村の特製ハーブティーを村長さんと騎士に淹れた。
「さて、私は王宮からの使いで参った者でございますが、ユノ村の村長さんにお話がございます」
「ほむ」
「実はこの村に伝説の勇者がいるとのお告げが出まして、王様からの命令で勇者を迎えに来たのです」
「ほむほむ」
「お告げで勇者の容姿は黒髪黒目の若者だと言われて来たのですが、この村にそのような若者はいらっしゃいますか」
騎士の言葉に村長さんは考えた。
最近、風のうわさで魔物が増えてきたとか、魔族との中が不穏だとかは聞いてはいたが、この辺境の村にお告げで勇者の容姿と重なる人物を村長さんは考えていた。
「ほ~~~む…………くちゅん」
しゅぽんっ!
村長さんはくしゃみをして、なんと入れ歯が口から飛び出してしまった。
村長さんは飛び出した入れ歯をそのままハーブティーの中にぽちゃんと入れて、そのままずずっとハーブティーを飲んだ。
そして村長さんは、一言。
「ほま~い」
騎士は呆然と村長さんを見ていた。
すると、
「このハーブティーは、殺菌作用があって、風邪の予防効果があるんですよ。おいしいですよ」
と、初老の男は言った。
騎士は、出されたハーブティーを一口飲んでみた。
口の中に広がる清涼感。スッと鼻に抜けるスッキリ感。この味、クセになりそうだと騎士は思った。
「ぽんっ!」
村長さんは何か言った。
騎士には何の意味か分からず、初老の男に聞いた。
「ああ、狩人の倅ですね」と、初老の男は答えた。
「ほっむ、ぽん!」
「狩人の倅を呼んで騎士殿に会わせたいと村長さんは言ってます」
「そうですか、それではぜひ、お願いします」
こうして、狩人の倅が村長さんの家に呼ばれて、騎士と会うことになった。
「それで、話って何ですか」
黒髪に黒目の若者が言った。
「おお、これはまさしく、お告げの勇者に違いない!」
騎士は、若者を一目見て確信した。この若者こそが伝説の勇者だと。
「ほっむ、ほむほむ~………ほみ」
「マジで俺が勇者だって、ウソだろ」
村長さんの短い説明を若者こと勇者は、理解して驚いた。
「ほむ、ほまほみほ~」
「俺に未来がかかってるって、そんな……分かったよ。村長さんがそこまで言うなら、俺、勇者やるよ」
村長さんの励まし?の言葉で勇者はやる気を出した。
こうして、勇者は騎士と一緒に世界を守るために王宮へと旅に出るのであった。
そして、勇者がユノ村を旅立つ日がやって来た。
「ほっむ!」
村長さんがしゃべった。
「そうですか、道中、気をつけます」
と、騎士にはもう村長さんが何を言っているのか分かるようになっていた。
「それよりも、この村の特産のハーブティー『ぼりでんど』を頂き、ありがとうございます」
「ほむう」
気に入って何よりです。と、村長さんは言った。
「それじゃ、行って来る。村長さん、じゃあな」
勇者は村長さんに言った。
「ほっみ」
行ってらっしゃいと、村長さんを初め、ユノ村の村人達に見送られて騎士達と勇者の一行はユノ村を旅立ち王宮へと出発した。
それから、数ヶ月が経ち、この辺境の村ユノ村でも勇者のうわさが届くようになった。
それと共に、ユノ村を訪れる旅人が増えてきたのだ。
村長さんの家の前で椅子に座りながら気持ちよく日向ごっこをしていたら、ほっこりと立上がった。
「ほっむ……ほみほー」
これはチャンスだとばかりに杖を突いて孫の初老の男を呼んだ。
「ほっむ……おされ」
「この村ある所を観光スポットにするんですか?」
「ほむう」
「そうですか、それでどこをどうするんですか」
「ほまっ、ほみ、ほひ……」
こうして、村長さんの指導による村の観光改造計画が始まった。
まず初めに村長さんが訪れた場所は、勇者が生まれ育った家だった。
まず、看板を立てて村長さんは筆で文字を書いた。
『勇者が生まれた家』
その字はとても達筆で流れるような文字だった。
次は勇者が生まれて産湯に浸かった井戸や勇者が通った学校の紹介の他に、勇者に関与した物を集めた勇者の博物館まで作り上げてしまった。
勇者が魔王を退治する頃にはユノ村はすっかり、勇者の生まれた村として有名な村に変わっていった。
その他にもこの村の特産ハーブティー『ぼりでんど』が王宮で流行り売れ上げをあげていた。
そして、村長さんが書いた看板の文字もあの「伝説の三筆」と言われる三人の中の一人であることが判明して村長さんが書いた文字を見に来る観光客も多くなった。
勇者が役目を終えてユノ村に帰ってきた。
そして、村長さん家に挨拶にやって来た。
村長さんは家の庭の椅子に座り、ほっこり日向ごっこをしていた。
「ただ今、村長さん」
「ほっむ!」
おかえりなさいと、村長さんはお豆のような目を細めて笑いながら言った。
今日も村長さんは、ほむっとしながら村を見守っていた。