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2回戦−中学二年生−


「それでは、これから体育祭の出場種目を決めます。みんな席に着いて!」


体育祭執行委員が騒いでる。

俺には関係ねぇし、ダチの席に居候するし。


「ったく、体育祭とかだるいの極みだよな〜」


俺に椅子を占拠された亮太が呟く。

俺は黒板の横の掲示板を見た。


『9月30日、みんなで成功させよう、日寄中体育祭ひよりちゅうたいいくさい


今日は9月2日、始業式の次の日。


体育祭なんてだるいもの、真面目にやるヤツなんかいるかよ。


「永瀬君席に着いて!」


「は?てめぇ、何言っちゃってんの?

こんなの誰が真面目にやるかよ。」


「ならば、こちらが勝手に決めます。中二、中三合同組体操の塔のてっぺんでも知りませんよ!」


執行委員が黒板に

『組体操 塔のてっぺん  永瀬祐樹』

と書いた。


「はっ?ふざけんなし!


それなら、塔の真ん中辺りにしてください。」


俺は魂の土下座モードへ移行。席へダッシュしようとして、誰かのエナメルの肩紐にこけた。


「つかなんか口調変わってるし、

いいよいいよ、美紀ちゃんこいつ一番てっぺんで!」


亮太がしょうもないことを言う。


クラス中が笑った。


執行委員(確か吉田美紀だっけ)は、黒板消しを持って消すかどうか悩んでいる。


俺、永瀬祐樹と長森亮太ながもりりょうたはこのクラス、2Cのムードメーカー。


クラス全体も仲が良く。一学期の合唱祭は、中二で一位だった。


「永瀬君、塔のてっぺんは中三がやるきまりになってるから、大丈夫よ。」


「みきー、ナイスひっかけ!」

「永瀬、残念だったな塔のてっぺんは無理だってさ!」


クラス中から野次がとぶ。


「えーっ、そ、そんな……」


「何ショック受けてんだよ。」


遠くから亮太のツッコミが素早く入った。




結局、体育祭の組体操はほぼ全員が全ての型で土台という結論に至った。


頑張れば他のクラスが土台の上の方や、ちょっとしたピラミッドのてっぺんをお願いできるかも。……って吉田が言ってたけど大丈夫だろうか。


俺のクラスは何故か高所恐怖症が多く、体育祭で足を引っ張るんじゃないかって噂されていたが、これなら大丈夫そうだ。


俺と亮太はそんな話をしながら、帰り道を歩いていた。


俺の学校は特殊で、体育祭までの間は部活でのグラウンドの使用は禁止だ。

体育祭の練習のためらしい。


だから運動部の俺らも一緒に帰っている。


「おい、見ろよ。

あれ、みきちゃんと健介じゃね?」


亮太はふと前を指差す。


背が低い男と背が高い女の後ろ姿が見えた。


あんなに背が低いヤツは他にはいない、間違えようがない。小田健介おだけんすけだ。


背が高い方は健介の話に笑っているのか、横向いて笑ってるから横顔が見えた。吉田美紀だ。


「何、まさか、あいつら…できてるの?」


亮太はヒュウッと口笛を吹いた。


「もしかして〜っ!」


俺は叫ぶ。そして、全力ダッシュ。標的はリア充二人組。


「突撃〜っ!」

「お、おい…」


俺は二人の間に入った。亮太が遅れてついて来る。


「きゃあ!なに?」

「うわっ!んだよ…」


「こらこら、そこのリア充ども、路上でいちゃいちゃするな!路駐(路上チュー)は捕まるぞ。」


「祐樹、走るのはぇーよ…。お二人さんラブラブですな〜。」


二人は顔を赤くする。


「私達、付き合ってない。塾が一緒なだけ。」

「俺と美紀が付き合うなんてないだろ。」


「ムキになるなって、ではでは、エスケープ!ばーい!」


俺はまた亮太を置いて走り出す。

亮太は待ってよ〜、と情けない声を出して追いかける。



次の日学校へ行くと、吉田と小田が教室の隅で喋っていた。


「健介、お願い!組体操……」

「みきのお願いでも、そ……」


何話してるかここから聞き取れない。まぁどうせイチャついてるんだろう。


「おはー亮太。」

「おう、祐樹。


やばいらしいんだよ。みきちゃん、交渉してくれたらしいんだけど、男子の小ピラミッドのてっぺんだけはやんなきゃならんらしい。」


おい……。


「俺らは大柄だから大丈夫だけど、小柄な奴は昨日、連絡網が回って、朝早く来てじゃんけん大会だったらしい。」


「……で、てっぺんは祐樹だとよ。」


祐樹って俺のクラス一のヘタレじゃねぇか。


大丈夫かよ……



「それでは、2、3年合同体育の授業は組体操の練習をします。


まず、男子は小ピラミッド。女子は大ピラミッドの配置に着いて。」


今日の放課後は2、3年合同の組体操練習だ。


「それでは笛の合図にあわせて組み立ててって!


ピッ!」


おれの前で亮太は四つん這いになる。


「ピッ」


俺は亮太と隣のヤツに乗る。

くそ、亮太のやつ猫背にしやがってバランスわりぃぞ。


「ピッ」


上に誰かが乗る感触がする。まだ軽い。


「亮太、猫背どうにかしろ!」


「ピッ」


さらに重みが乗る。


「す、すまん」


背中がまっすぐになって少し安定した。


「ピッ」


あと何人乗るんだ?

亮太が辛そうだ。


「ピッ」


わぁーっと歓声が上がる。俺が顔を上げると、女子の大ピラミッドが完成していた。


俺の学校は女子の方が男子より少ないから、女子の大ピラミッドは男子の小ピラミッドと同じ大きさだ。


つまり、男子もこれで完成なんだろう。


「うわっ、わ……」

「きゃーっ」


男子の慌てた声と女子の悲鳴が重なる。


どさっ


てっぺんのはずの祐樹が目の前に倒れていた。


つまるところ、落下事故だ。




結局、健介は当たり所がよかったらしく足を捻挫しただけだったらしい。

何もなかったかのように健介は次の日に学校へ来た。


いや、何も無かった訳ではない。


健介は組体操の練習をサボりがちになって、直前の一週間には練習に一度も来なかった。


そして、体育祭……。


健介は学校を休んだ。


俺らの参加する小ピラミッドはてっぺんのないピラミッドになった。後に、学校中の笑い者になった。



「なんで、あいつ来ねぇんだよ!

おい、吉田なんか知ってんだろ!」


今日は体育祭の次の次の日。


健介は体育祭から3日連続で休んでる。


吉田はビクッと一際大きく肩を震わせた。


「あっ、永瀬君か……


健介は今大変なのそっとしといてやって……」


は?健介のせいでクラスが学校の笑い者になったのに、あいつの肩を持つのかよ!


亮太もそれには怒ったみたいだ。


「はぁ?みきちゃん、付き合ってるからって……」


「やめて!健介は悪くないから!」


吉田は亮太をすげー迫力で睨んで、教室からダッシュで逃げた。


「なに?みきと小田って付き合ってるの……」

「うっそー、凸凹カップル?」


残ったのは、衝撃事実を知ったクラスメイトの動揺だけだった。



「みんな、おはよう。

ごめんね、体育祭。すごく、お腹痛くなっちゃって……。」


健介がようやく学校に来たのは、体育祭が終わって一週間後。


お腹痛くて普通一週間も休むかっての。

どうせ、事が収まるのを見計らったに決まってる。


そんなの、よくおかんが許したな。俺だったら、問答無用で家から追い出すぞ。


ガタンッ


亮太が椅子を蹴った音だ。


「よう、健介。よくのこのここの教室に来れたな。


どのツラさげて来てんだよ!!」


亮太は健介の首を掴む。


「やめて、長森君!!」


吉田が亮太から健介を引きはがそうとする。が、やはり女の子なので簡単に亮太に突き飛ばされてしまった。


「俺には双子の姉貴がいる。

薄々気付いてたんだろ?長森千里だよ。聖月学園だった。


だがお前のせいで姉貴は退学させられた。お前が学校なんかやめなければ、そんなことはなかった。


それでも、お前と仲良くしてこうと思ってた。今の今までな!


それでも、こいつの肩を持つのかよ。」


どういうことだ。


吉田はやはり知ってたのか、顔を渋らせた。

でも、俺達部外者にとっては何がなんだかわからない。


気付けば、朝休みにも関わらず教室は静かになっていた。



さすがに、いくら喧嘩っ早い亮太でもヒートアップし過ぎだな、これは。


しかも、女相手にガチギレなんてカッコ悪くすぎてこっちが恥ずかしいっての。


「亮太、落ち着け。個人の因縁はここでぶちまけるもんじゃねえ。


それにこの件は、吉田は何も悪くない。

健介がいけないんだ。

少しは体裁を考えろ、男が女いじめるなんてシャレにもなんねぇーよ。」


俺は、亮太からとりあえず健介を引きはがす。


「ありがとう、祐樹。」


健介は咳込みながら、こっちに向かって言う。


「履き違えるなよ?健介。

俺が今なんて言ったか、聞いてなかったのか?


悪いのはお前だと!」


俺は、健介の鼻っ柱を思いっきり殴る。

健介は床に倒れこんだ。

拳がじんじん痛む、これが人を傷つける痛み。

でも、その痛みを負ってでも俺は健介を殴りたかった。


「祐樹いっけ〜!」

「クラスの裏切りをやっつけろ〜」


クラスの男子が観衆となり、騒ぎだす。

女子は突然の暴力に戸惑いつつも、明かに吉田のことを睨んでいた。


「みんな、悪かったって。本当にお腹が痛かったんだ。」


健介が目を涙ぐませながら謝る。


「はぁ?いまさら何言っちゃってんの?


ほら祐樹、蹴り飛ばせよ!」


周りの観衆が俺の背中を小突く。


俺としては、一回殴って仲直りするつもりだった。


だが、観衆は完璧におもしろ半分で健介を痛めつけようとしてる。

ここで、反抗すると観衆全員からの蔑んだ目、罵声、暴力を受けるかもしれない。


恐い、恐い……


俺のクラスはこんな狂犬揃いだったか?

いや、違う。皆も健介を恨んでたんだ。そして、俺がさっき殴ったことで、かろうじてとめていた感情が暴発した。


「おい、祐樹。早くしろよ〜!!」


もしここで俺が退いたら、俺だけでなく健介がこの観衆全体から暴力を受ける。


ごめんな。


俺は心の中で謝ると、足を大きく後ろにひいた。


そして、勢いよく前へ柔らかいけどなにか重い何かが当たる感触。


俺はこの日を忘れない。

俺はこの時の健介の裏切られたような顔を忘れない。


健介が蹴飛ばされて、ゴロゴロと転がる。俺はサッカー部だ。健介は口から血を少し出していた。


口を切ったのか、俺の蹴りが腹に当たって身体の奥底から出たのか。


ただ、俺の頬に一滴の生暖かいものが伝った。


皆に背中を見せているので、誰かに見られる前に舐めるとしょっぱかった。


その日の授業中、健介の教科書がまわってきた。そこには皆の落書きが書いてある。


『死ねよ、裏切り者』

『うぜーんだよ、チビ』

『ビビりくんは家で泣いててくんないかな』


みんな名前ペンで書いてるらしく、なかなか消えない。


「ゆうきもなんか書けよ。」


隣のヤツがニヤニヤしながらこちらを見てくる。


「……わかったよ。」


俺は油性ペンで


『クラスの裏切りはいる意味ねぇよ』


って書いた。




そして一週間後、俺は健介いじめのリーダーになっていた。


最初は罪悪感があった。今はないかと言われたら嘘になる。

ただ、もしやめることで次に俺がいじめられるのが怖かった。


健介の机にゴミが山積みなんて当たり前。日寄中は給食制だが、あいつがよそった物は全部残され、あいつの分の給食は誰もよそわなかった。


今日も健介が来た。早く休んでくれれば、俺だってこんなことやめれるのに。組体操はサボったくせに、よく来るよ。


「あれー、健介くんなかなかオシャンティだな。」


健介は学ランをびしょ濡れにして、所々にチョークの粉がついてた。そして上履きがない。


誰かが言ってた、今日は上履き奪って、階段の上から黒板消しを落として、バケツで雨を降らせようって。


俺は教室はともかく、階段はバレるからやめた方がいいって言ったんだけどなー……。


でもこれでバレたら、こんなことは終われる。


「いやぁ、ラッキーだったぜ。

センコーも生徒も誰もいなくて。」


だから決行したのか。だめだ……。こりゃ、バレない。


俺は健介に歩み寄る。


「あのさ、お前汚すぎるよ?


早くこの教室から出てけよ。教室が汚れる。」


俺はそう言って、掃除用具入れから汚いモップを取り出した。


「じゃなかったら、俺優しいからきれいにしてやるよ。」


おれはモップを健介の顔に押し付ける。


抵抗してくれたら、俺だってやめられるのに。


なのに、なんでだ……。あいつは何一つ言わず、ただじっと待っている。


まるで、悪いのは自分だと言うように。違う、悪いのは俺らだって。


「健介!!小田君、集団で虐めるなんて、卑怯よ!!」


吉田が学校に着いたのか、駆け寄って来た。


「みき〜。あんたが行く方向がそっちじゃなくてこっちでしょ。」


亮太が大好きな女子の集団(通称:ファンクラブ)の一人が吉田の襟を掴んで引きずっていく。


「あんた、よくそんなブサイクちゃんで学校来れるよね。かわいそうだから、お化粧しよっか!」


一人がマジックペンを取り出して、頬に『バカ』と書く。


「おい、お前ら吉田は悪いことしてないだろ?」


「永瀬、何言ってんの?亮太様の姉様を退学に追いやったんだよ?


永瀬は亮太様の親友だから許すけど、次止めたら今度はあんただからね。」


「みきは悪くねぇだろ!!」


健介が吠えた。


「はいはい、それはクラスの裏切りが決めることではないでちゅよ?


さあさあ、そのくせぇ面トイレでどうにかしろ。きしょいんだよ。」


俺は健介を教室から蹴飛ばした。


健介がトイレに行って十秒後くらいしたら、俺らもトイレへ。


一番奥の閉まってる個室。おそらくそこに健介がいる。


健介は泣き声も言わず、一人で耐えている。少し尊敬してしまう。でも、だからこそあいつは一人の時だけ弱く、脆くなる。


でも、俺は皆に健介代わりのストレス発散用玩具になりたくないからいじめ続けるしかない。


ごめんな、健介。


「健介ちゃ〜ん?いるなら返事をしてね〜!!


さあさあ、一人で耐えるといえば苦行だよな?


皆、バケツ一杯の水を入れてこい。頭から降らせようぜ。」


すると、皆洗面台へ駆けてった。


頼む、皆が汲んでる間に逃げてくれ。

しかし、健介が出ようとする気配がしない。


「祐樹〜!!汲んだよ!」


男子の一人が両手にバケツを持ってよたよた歩いて来た。


おいおい、いったい何リットル入ってんだよ……。


「隣の個室の便器に乗って上からかけてやれ!」


うぇーいって返事。


そして、ビシャーって音と共に俺の目の前の扉の下から水が少しずつ出てきた。


「健介。寒いか?まあ、もう十月だ。さすがに快適ではないだろ。


これ着ろよ。」


俺は扉の向こう側に体育着袋を投げた。袋には『吉田美紀』と書いてある。


中身は吉田の体育着、……と一緒に皆に内緒で健介の体育着も入れてある。


俺ができるのはこれくらいだ。頼む、選択を誤るなよ!

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