理想と現実の苦悩
~時は少し戻って心冶視点~
俺----片桐 心冶は少しだけ発展した街に来ていた。
特に何もする気にはならないが、孤児院に帰る気にもならない。なので適当にぶらぶらしているだけだ。
カラオケに行こうにも歌う気が無いし、漫画喫茶に行こうにも読みたい漫画なんてない。
だから俺はいつもこういう時に来ている河原に来た。
河原といっても上流の方でくる人は散歩していて迷った人とかジョギングしている人くらいだ。
俺はそこで何もすることが無く地べたに寝ころんでいた。そこで考える。なんであいつらが俺に言わずにわざわざ明を迎えに行かせたり、俺に黙っていたりしたのか。
しかし全然答えは出ない。あまりにも頭に血が上りすぎている。
一時間くらい考えてるとその内眠くなってうとうとし始める。
するとこちらの方に誰かが近ずいてくる。ざっざっざっざ、と足音は一人のようだ。しかもこの足音は知っている。
「よう、心冶。なんでオレ達が黙ってたか教えてやし、謝るから家に帰ってきてくれ。割と大変な状況なんだ」
この『おれ』が少し訛っている喋り方にたまに語尾を伸ばす喋り方は潤だ。
「明日になったら帰る。それと今回の仕事からは手を引く。帰れ」
「そういわずにさぁ。黙ってたのには理由があるんだ」
そういえば何で黙ってたんだろうな。俺に隠しとかなきゃいけない何かがあったのか。
「確かに柊が言った事は正しいよなぁ。仲間にも裏切られてるんなら、んなもんヒーローでもなんでもねえよな」
柊の言った事は正しい、こんな様じゃヒーロー気取りがせいぜいだ。
小さいころから憧れてきたヒーローは仲間に囲まれてるもんな。
仲間にも裏切られるんならそんな信用も無いヒーローなんてヒーローと呼ばれない。
本当にこれじゃヒーロー気取りだ。
「心冶には悪かったと思ってる。騙しちまうようなまねして。でもそうしなきゃいけなかったんだ」
潤が真剣な顔のまま言ってくる。
「いや、お前とかリーダーとかが悪いんじゃない。俺が信用できるような人物じゃないのがいけないんだよ。次の仕事からはちゃんとヒーローにふさわしい人間になれるようにするからさ、今回はお前らだけで頑張ってくれよ」
「……………………なあ、心冶。お前それでヒーローになれると思ってんのかよ」
潤が怒気を隠そうともせずに聞いてくる。
なんだって言うんだよ。
俺のせいで孤児院がつぶれそうになって姉さんに迷惑かけそうになった時からちゃんとしたヒーローにあこがれてそう変わろうとしたのに、何も変わって無かった俺にはな。
「…………うるせえよ。今のままじゃどっちにしろ役になんか立てねえよ。ほっといてくれ」
そういうと潤がいきなり俺の頭に殴りかかってくる。俺はそれを左手でガードしてそのままとらえる。
「何するんだ?」
潤の拳を左手を解いて離す。すると潤は口調を変えて能力使用の文言を唱え始める。
潤は能力を使う時口調が変わるのですぐ分かる。
「----『英雄道化師』の公園開始だ。今日はそこの馬鹿もステージに上がれ----」
潤がそうつぶやくと川の上流のほうの森が生い茂り、川がさらさらと流れるのどかな景色が変わり、サーカスのステージが現れる。
「俺のことなんてほっとけよ! さっさと俺に嘘ついて進めてた仕事終わらせて来いよ」
「うるさい。さっさと一発ぶん殴らせて反省しろ心冶」
いつものアホみたいな雰囲気は欠片ほども感じない。本気のようだ。
「騙した事は反省しねえのかよ?」
潤が顔ををしかめる。しかし敵意は変わらずに俺に向けられている。
「てめえがその気ならやってやる。そんでこの仕事から手を引く」
「まだ言うかよ弱虫が! そんなんでヒーロー目指してんじゃねえよ!」
そう言って潤は突っ込んでくる。それを俺は避けずに待ち構える。
そして潤は右手を振りかぶる。振りかぶった右手にはに幅広の曲刀をいつの間にか構えている。それを俺は左に避けてかわそうとする。
「うぐっ!」
しかしかわそうと思った時にはすでに右のわき腹に衝撃があった。潤は攻撃の際には、幻覚で刀を振るっているように見せながら実際の刀は隠すという、目の前でやられたらまず反応できないようにする戦い方だ。
さらに言うと味覚は知らないが、嗅覚と聴覚と視覚は幻覚でだませる。
しかし今回はさすがに殺してしまわないように刃引きはされているようだ。まあそれでも十分に痛い。
俺は腕を横なぎに払って距離を取り潤の追撃を回避する。当たった感触がないのでかわされたのだろう。
潤の能力は幻覚を物質化できる能力だが、物質化した物は遠隔操作できない。動かすためには自分で触れなきゃいけないのだ。そして幻覚で覆って無いように見せることもできるが、物質化させる時には一度幻覚を出現させなければいけない。
しかし近距離でやられれば反応のしようもないし、遠距離で投げられても反応するのなんて難しい。
しかし俺に負けは無い。
「忘れてるのかよ潤、俺の『絶対法律』は能力に当てれば発動するんだぞ? わざわざ出現させたステージに当てればお前は俺の能力に負けるんだぞ?」
「もちろん知ってるよ。でもこうでもしなきゃお前は逃げると思ってんだよ。今明ちゃんから逃げようとしてるようにな」
潤か潤の幻覚かは分からないがこっちをにらみつけて言ってくる。
「逃げてなんかねえよ。ヒーローにもなれて無いヒーローもどきに手伝う資格なんて無いってだけだよ」
「てめえの言うヒーローは一朝一夕で身に着くもんなのかよ!」
「確かに身に着くもんじゃないな。だけど仲間にも信用されてなかったクズよりはましだろ?」
「心冶もう黙れ。お前引きずって家に帰ったあとで聞いてやる」
「いいのかよ。ステージに攻撃しなくても、今まで俺に勝った事あったか?」
「今日勝ってやるよ。第一今のお前には負ける気がしない」
「はっ! 言ってろよ!」
「十分言ってやるよ! 家に帰った後にな!」
そう言いあって俺達はにらみ合う。
そして俺は能力を使う。
「自らを律せよ『絶対法律』」
基本的に俺が人に攻撃とかすると自動的に能力が発動して、俺が与えただけのダメージは消える。なので詠唱やら発動の文言は必要無い。
しかしそれらによってルールを創ろうとする時には文言が必要になる。
同じ命令を伝染させて使う場合や、さっきのヤクザを倒した時のように一定以上のダメージを与えて人間を完全に支配下に置いた後なら『絶対法律』自体に命令を下せば済む。
だけど、一定以下だった場合は個別に命令を作らなくてはいけないので文言がそのたびに必要だ。
俺が今自分に使ったルールは『肉体のリミッターを外せ』だ。
俺の能力は自分にも適応されるので、自分にルールを与えることもできるし、肉体の限界を突破したことでかかる自分への負荷もエネルギーとして自分の中に貯まるので、肉体に負荷はかからない。
だから肉体のリミッターは外しても問題ない。
リミッターを外すと銃弾でも受け止められるし、三百キロくらいなら持てるようになる。
この状態になれば潤の動きなんてスローで動いてるように見える。
潤は今柊との戦いでやったように短剣をジャグリングしているところだ。
「来ないのかよ潤。こっちの準備は万端だぜ?」
「お前こそどこ見てんだ?」
潤の声が後ろの方から聞える。そして剣らしき感触が肌に届く。
俺は何かが触れる感触がしたと同時にその逆の方向に飛ぶ。そして反復横飛びの要領でまた元の場所に戻る。
リミッターを解除している今だからこそできる技で、普段やろうとしたら間違いなく最初の一撃でやられている。
俺の潤に対して持っているアドバンテージとは、リミッターをはずした状態なら潤の攻撃を食らわないことだ。
潤の攻撃はしょせんは人間の腕力で振るわれているに過ぎない。
だったら人間の限界の動きを出来る今ならダメージが通る前に回避することが出来る。
さらに俺は攻撃が来た方向から予測して攻撃できる。
潤の攻撃は当たらず、俺の攻撃は当たる。これが俺と潤の大きすぎる差だ。
俺は元の場所に戻った俺は潤がいるであろう場所を殴る。
しかし当たった感触は無く、代わりに至るところから潤の声が聞こえる。
「そこじゃねえよ。その前だよ」
「いや違うよ。今殴った場所の横だよ」
「今お前の後ろだよ」
「お前の横だよ」
築く手いたるところに潤の姿が見える。そしてどいつもこいつも俺はここだと主張している。
「ちっ! 厄介だな」
「木の葉を隠すなら森の中って奴だよ! お前を気絶させて家に無理やり連れ帰ってやるよ心冶!」
潤の掛け声とともに分身が一斉に襲いかかってくる。一人一人違う武器を持っている。斧、鎌、剣、ナイフ、金槌、鞭。
武器が振り下ろされる音。これはすべて潤の幻覚だ。潤の能力は音でだったらいくらでも惑わす事が出来る。
俺はそのすべてを無視する。そして自分の感覚の身を信じることにした。触覚だけは隠せないからな。
目を閉じて全身に気を配る。
何も感じない。
何も感じない。
何も感じない。
何も感じ----る! これは鞭か!
鞭の先端の様な感覚が背中に触れてくる。鞭は達人にもなると音速にすら到達するほどの高速での攻撃が売りの武器だ。
そんな攻撃を当たった瞬間に知覚して避けるなんて出来るはずが無い。
「うぐっ!」
俺は無様にくらってしまう。しかし当たった一瞬で鞭をつかみ取り引っ張る。
しかし潤は物質化を解いて幻覚に戻す。そしてもう片方の手で棒に鉄球がついたような武器を取りだす。
それが頭の上に振り下ろされる。俺はそれを後ろに引いてかわす。
「くっ!」
「それは幻覚だよ心冶! 本命はこっちだ!」
後ろから潤の声がする。
俺はフェイクと割り切ってそれに構わず腕を横なぎに払う。
何も感触は無いがダメージも無い。潤も逃げたみたいだ。
ミスをしすぎた。いつもの冷静さがないせいかいつの間にか目に頼ってしまっている。
冷静にならないと。
「なあ。俺達が心冶の事を信用してないとでもまだ勘違いしてんのか?」
潤がそういうと全ての幻覚の分身が動きを止めた。
「信用してねえんじゃねえのかよ。口では何と言おうと俺を騙してた事には変わんないだろ」
「ああ。確かにオレ達は心冶の事を騙してたさ。だけどさそれでしか明ちゃんの事は解決できなかったんだよ」
「じゃあ柊にばらされて残念でしたね、これで明は救えませんでしたご愁傷様! 俺には関わんなよ! 今は一人にしてくれ」
潤はまた怒りで顔をゆがめる。
そしてもういいやと諦めた顔でため息をつく。
「お前はもう痛い目見させてやるよ。泣いても許してやんねえからな」
「は? 俺がそう簡単に勝たせるかよ」
「いやもう勝ったも同然なんだよ。朱音達にまで信用されてないとかよ。朱音だって泣きかけてたんだぞ! あの傲慢を絵にかいたような朱音がだぞ!」
あの朱音が? いや先に騙したのはお前達じゃねえかよ!
「ふざけんな! 先に騙したのはどっちだよ! 泣いたって自業自得だよ!」
「お前は結局、自分が仲間外れにされてムカついただけじゃねえかよ! 俺達だって好きで騙してたんじゃないんだよ! それにお前が目指してたヒーローはそんな奴なのかよ!」
「っつ! 騙されてムカついて何が悪いんだよ! それに好きで騙してたわけじゃ無いだと? 知るかよ!」
「それ本気で言ってんのか?」
潤が聞いてくる。
「お前らが騙すのがいけないんだろ!」
「もういいよ。それじゃあ確かにヒーロー失格だよ。痛い目見てもらうぞ。----これにて『英雄道化師』は終演とします----」
景色が変わる。周りに木しかない! 地面すら無くなってる?
「お前と戦ってる間にステージを木に登らせたんだよ。そのまま落ちてけよ。五メーターや十メーターくらいなら平気だろ?」
そう言って潤はロープを使って木にぶら下がって助かっている。
しかし俺には助かる手段なんて無い。真っ逆さまに地面に落ちていく。頭だけは守って落ちていく。
分かってるんだよ、俺だってさあ。自分の八つ当たりだって。
しょうがなかったんだろ? 誰かを救うためには。
ああ、仲間に八つ当たりするヒーローなんて、確かにヒーローじゃねえよな。
こうして三分間の戦いは幕を閉じた。
そう思いながら俺は意識を手放した。




