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忘れ物

作者: 月石 靡樹

 教室の匂いはあの頃のままで、いつも笑いながら話しかけてくれた仲間たちの姿だけが、どこにもなかった。

 俺がこの中学校を卒業してもう10年になる。あの頃、とことん不真面目で、遅刻や欠席も多くて、やけに大人ぶってひねくれてた、簡単に言えば問題児だった俺のことを、この緑に囲まれた小さな学校は受け入れてくれた。40人に満たない同級生と三年間粘り強く指導してくれた担任の先生がいてくれたからこそ俺はこの中学校になじめたんだと思う。

 今ではその先生も違う学校へ転勤して、同級生がどんな進路をとったのか分からない現実が少しさびしかったりもする。

 教室の窓際まで行くと俺は三年間一度も座れなかった窓際の一番後ろの席に腰を下ろした。問題児であった俺の席は決まって一番前で、授業中漫画を読んだりゲームをしたりできないよう教師が目を光らせていた。俺も半年は反抗したが、それ以後は諦めておとなしく授業を受けていた・・・と思う。

 窓の向こうに見える校庭を見つめながらそんなことを思い出していると廊下側から声がした。

 「どなたですか?」

 驚いてふり返ると教師と思しき女性の姿がそこにはあった。年齢は俺と同じくらいでまだ若い。そしてこんな小さな町にいるにはもったいないほど綺麗な顔と、すらっとしたスレンダーな身体をしている。こんな教師に授業を教わる生徒がうらやましい・・・

 「ここの卒業生だな。ずっと前の・・・」

 すると彼女は俺のほうに近づきながら小さく笑って声をかけてきた。

 「勝手に公舎に入って校長先生やお堅い先生に見つかったら怒られるよ。今日は私しかいないから大丈夫だけどね」

 突然親しげに話しかけられたので俺は「はあ」とだけ返した。

 すると彼女は彼の座る席の隣りに座った。

 「それでその卒業生がこんな何にもない学校に何か用? 忘れ物でも取りに来たの?」

 「忘れ物を取りにきたら俺の机の中はからっぽだった・・・ってとこかな」

 この町に来てもあのときの仲間に会うのに必要な偶然というものを呼び込むには時間が経ちすぎていた。中学を卒業し、みんな大人になっただろう。面影は残っていても、みんながみんなこの町に住んでいるとは限らない。

 「私でよければ一緒に探しましょうか?」

 真剣な表情でそういった彼女に俺は少し笑った。

 「冗談だよ。そういうあんたはここの先生?」

 「はい。まだ三年目の駆け出しですよ。今日は部活の練習があって、土曜なのに半日仕事ですよ」

 「へえ。何部の顧問なの? 見たところあんまり運動神経がいいようには見えないけど・・・」

 冗談交じりにそう言うと彼女は口を尖らせた。

 「失礼な。これでも結構運動神経いいんですよ。この中学校にいた頃からずっとバスケットやってて今もバスケット部の顧問なんですから」

 「この中学校出身なんだ」

 そう言うと彼女はにっこりと微笑んだ。その笑顔を俺は以前見たことがあるような、そんな錯覚に襲われた。

 「ええ。運良く母校で教師をやってます。あなたはどんな仕事をしてるんですか?」

 「俺? 俺は今美容室で働いてる」

 そう言った俺はここで過ごしていたときのことを思い出して思い出し笑いをしながらこう付け足した。

 「ここにいた頃、友達に、髪切るのがうまいんだから美容師になったらって言われてね。それがきっかけで今食っていけてるようなもんだよ」

 横を見ると彼女は俺の顔をまじまじと見つめ、怪訝そうにこう尋ねてきた。その顔には、まさかなぁ・・・という疑問がファンデーションよりも色濃く浮かんでいる。

 「もしかして新藤 春斗くん?」

 「そうだけど・・・なんで俺の名前知ってるの?」

 俺の返答に彼女は立ち上がって俺の手を握ってきた。その顔には先ほどの疑問が晴れ、喜びの笑顔に満ちていた。

 「私だよ私、日向 亜樹だよ。忘れたの春樹くん?」

 忘れるわけがない。それは俺の中学の同級生で、そして俺の一番会いたかった人だった。あの時と変わらない無邪気な笑顔、初対面の人とでも物怖じしない明るい性格、そしてその手の暖かさ。大人っぽくなったことを除けば何も変わっていなかった。

 俺も驚きと喜びに表情が緩む。

 「覚えてる覚えてる。久しぶりだな亜樹。大人っぽくなったからわからなかったよ」

 「それはこっちの台詞だよ。すっかり男らしくなったね。あの時はすねてたけど、今は少し丸くなったんじゃない?」

 「うるせえ」

 そう言うと俺と亜樹は声を大にして笑った。

 中学のとき、俺の住んでいたアパートと彼女のうちは本当に近所で、彼女は俺の遅刻と欠席を防ぐため毎朝のようにアパートにやってきた。両親は仕事に追われてて帰ってくることも少なかったから俺は彼女のピンポン攻撃でいつも目を覚ました。そして一緒に学校に向かった。当時学級委員だった彼女が問題児を学校に連れて行くという大役を任されたのだ。それは俺が卒業する間近まで続いた。今となれば彼女と歩いた学校までの道が中学校生活で一番幸せな時間だったかもしれない。

 「それにしても、あの問題児が今は美容師とはねぇ。私のおかげでしょ?」

 そしてそんなある日、一緒に登校して彼女の長くなった髪に気づいた。彼女自身、切ろうと思ってると言ったので俺が切ってやると言ったら当然、心配そうな顔をしたが、じゃあお願いするよ、と快諾して俺は彼女の髪を切ってあげた。それが好評でクラスの男子女子問わず俺に髪を切って欲しいというやつが増えた。

 そこら辺からだ。学校に行くのが少しずつ楽しくなったのは・・・

 「まあな。亜樹だって、俺のおかげだろ。教師になれたのは」

 当時の俺は(今でもそんなにいいとは言えないが)頭が悪かった。そんな折、テスト前になると必ず、成績のよかった彼女の家にクラスの男女が集まって勉強会が開かれた。彼女は頭がいいだけではなくて教え方もうまかった。俺なんかに分かるように説明できたのだから大学で遊んでいた新任教師など比較にならないくらい教えるのがうまかったと思う。

 「まあね。いやぁ、いい勉強になったよ。キミは本当に先生を困らせてくれました」

 笑いながら彼女は教師が生徒に言うように言った。当時から男子のことを『キミ』と呼ぶところもあの頃と変わってない。

 「まだバスケやってるんだな」

 「うん。運動神経が悪くてもなんとかやってるよ」

 さっき俺が運動神経がなさそう、と言ったことを根に持ってるのだろう。

 「これでも国体の強化選手なんだからね」

 皮肉っぽい笑みを浮かべて、指を二本Vの字にする。運動神経がない、というのはまったくのでたらめで彼女のすらっと伸びた足はスポーツ選手の美しいふくらはぎが形成されている。当時からどんなスポーツでもそつなくこなせた彼女はまさに文武両道の才女でもあった。

 「すごいな。今じゃ俺もかなわないな」

 口笛を鳴らし小さく拍手すると俺はバスケットのシュートを空想のリングめがけて放った。

 「あの頃はキミのほうが断然うまかったよ」

 「またまた」

 「本当だって、隠れたファンもいっぱいいたしね」

 「いないいない。それになんで隠れる必要があるんだよ」

 「それは・・・」

 彼女はその先の言葉を言おうとして口を閉じた。俺も聞いたことがあった。後輩の中に俺のことが好きなやつが何人もいたことを。ただその誰もが俺に告白なんてしてこなかった。無論、傷つくのが怖いから、や告白する勇気がない、というものもあっただろが根本にあるのはそれではなかった。当時、男子バスケ部のマネージャーだった後輩が唯一、俺にそういう話をした。当然俺は断った。すると彼女はその理由は聞かず自分の感情を抑えるようにこう言った。

 「毎日、仲良く先輩と日向先輩を見て思ったんです。ああ、私この人には勝てないんだろうな、って・・・」

 当然と言えば当然だが学校中に俺と彼女が付き合ってると言う噂が流れていた。彼女自身そんなこと気にしてなかったし、俺も噂なんて気にしない性格だからなんとも思ってなかった。彼女のことも仲のいい友達、それくらいにしか考えてなかった。きっと彼女にしても俺は友達の仲の一人、ただそんなかでも出来が悪い問題児にすぎなかったと思う。

 俺はそんなことを思い出しながら彼女から目線をはずして窓の外を見た。

 「前に話したよな。俺が学校を嫌いになった理由・・・」

 「うん・・・」

 俺は世話になったお礼にと一度だけ彼女に自分のことを話した。小学四年の時、クラスの男子がサッカーをしていて友達が蹴ったボールが校舎の窓ガラスを割って中にいた女の子が右足に怪我をした。そのボールを蹴った犯人を巡ってクラス会が開かれ、その近くをたまたま歩いていた俺に容疑が向けられた。俺は違うと言ったが、周りは、ボールを蹴ったやつさえ俺が蹴ったと言い始めた。やつはクラスのリーダー格で裕福な家庭のお坊ちゃんで、俺と同じミニバスケットボールのメンバーの一人だった。後から聞いた話だが、彼よりバスケのうまかった俺の事をそいつは気にいらなかったらしい。そして教師も周りも俺が悪いと言い始め、俺が犯人にされ、怪我した女子のお見舞いがてら謝ることになった。だが、俺はお見舞いに行かなかった。なんで歩いていただけなのに俺が犯人にされて謝らなきゃいけないんだ、そう思ったからだ。それからことあるごとに俺は学校に反発した。友達もいなくなり、教師も俺のことを問題児扱いし始めた。そして両親の仕事の都合で一学年200人を超えた小学校から、全校生徒142人の小さな中学校へ進学した。

 「あんな話したのは後にも先にも亜樹だけだよ」

 そう言うと彼女は少し目線を落として先ほどの笑みに少しだけ陰をまとった、そんな表情をした。

 「ホントのこと言うとね、出会った頃、不真面目なキミが苦手だった」

 彼女の告白に俺はそうだろうな、とうなずいた。最初に会ったときはやはり俺のことを怖がっていたし、距離を置いていた。

 「俺も出会った頃、真面目な亜樹が苦手だった」

 それは本音だった。出会った頃、心の底からそう思っていた。

 けれどそれは時間とともに変わって行った。

 そして今は・・・

 「これ・・・」

 俺は彼女の机に胸のポケットから一枚の名刺を差し出した。それは彼の美容室で使っている指名のための名刺で裏にはその店の地図と住所と電話番号が書いてある。

 表には店の名前『Herbst』と新藤 春斗という名前の前に『店長』という肩書きが記されていた。

 「店長って・・・これ・・・」

 驚いてるであろう彼女の顔を直視せず、遠く校庭の向こうに目をやった。そこにはもう、すぐそこまできている秋の気配が夏の緑色に茂った木々を静かに、しかし確実に紅く染め始めていた。

 「気が緩みそうなときもあった。挫けそうになるときも当然あった。でもそのたびに誰かさんの声が聞こえたよ。『人間、翼はないから空を飛ぶことはできない。でもね、壁の一つや二つ越えられるはずだよ。本気で超えようと思うんならね』ってな」

 俺は窓の外から彼女の方を向くと、無言の彼女をよそに言葉を紡いだ。それは本当なら卒業式の日に言うべきだった言葉だった。あのときはチャンスがあった。しかしそれでも言う勇気はなかった。


 だから誓った。夢を叶えて胸を張って言いに来ようと・・・


 「俺がここまでこれたのはひとえにキミのおかげです。あのとき、キミが同じ学校で家が近所で、あの真面目さがなかったら今の俺はなかった」

 俺の精一杯の感謝の気持ちだった。卒業式の日、俺は彼女にこの言葉を言えなかったことを後悔した。それから今日までずっと後悔した。ずっと胸のしこりになっていて、抜けないとげになっていて、そしてそれが今まで俺を支えてくれた。

 すると彼女の瞳に大粒の涙が浮かんでいた。無理やり笑顔を繕うその顔は中学の三年間で一度も見せたことのない悲しい表情だった。卒業式でさえ彼女は涙を見せなかった。俺の前でもみんなの前でも彼女は涙なんか見せなかった。

 その理由を彼女は語りだした。

 「私が小学生のとき、やっぱりキミみたいにクラスではみ出しものにされた人がいたの。私のことが好きだったらしいんだけど、そのことがきっかけでみんなにいじめられて・・・でも私もそのときは助けることができなくて。自分のことを好きって思ってくれる人とどう接していいかよく分からなくて・・・そんなある日、その人が転校したの。両親にいじめられてるってことを言ったら両親がもっと環境のいいところに転校させるって言って、私そのとき、どうしていいの分からなくなって。私のせいなんじゃないのかって思って・・・」

 その目から流れる涙はとめどなく溢れてくる。それは今までずっと抑えこんでいた後悔だからなのだろうか、俺もかけるべき言葉が見つからなかった。

 「そして卒業して、私は両親の都合もあってあの中学校に入学したの。入学してこの仲間たちが誰一人欠けることなく、卒業するんだって強く心に誓ったの。三年しかない短い時間なんだからこそ、みんなと仲良くなりたいって・・・」

 俺は、彼女に何か言おうとしたがやはり言葉が出てこなかった。

 しかし彼女はその涙をすべて拭うと再びあの笑顔を浮かべた。それは10年前と同じく、いつもクラスの中心にあった、無邪気な優しさに満ちたものだった。

 「私のおかげで夢を叶えられたってことを言ってくれる人がいる。これってすごく素敵なことだと思うよ」

 「亜樹・・・」

 「キミとすごした時間、本当に楽しかった。そりゃあ最初は怖かったけど、次第に慣れてったよ。今思えばわがままで、自分勝手で授業中、先生の話はぜんぜん聞かないで、ちょうど今頃の夏休みの終わりごろに宿題を写させてくれぇ・・・って言いにくるし」

 冗談交じりにホントのことを言う彼女は肩を竦めてため息を吐いた。あの時は確かにそんな感じだった、と今では反省している。

 「でもそんな毎日に私自身、救われてた気がする。高校、大学といろんなことがあったけどそのたびにキミの事を思い出したよ。いつでも私の隣りにいてくれたキミの事を・・・」

 その笑顔は卒業式の日に見せてくれた笑顔によく似ていた。あのとき、きっと亜樹は涙を流したかったのではないだろうか、高校に行かず上京し専門学校に入って美容師になると言った俺のことを止めたかったのではないのだろうか。

 「亜樹?」

 声をかけると彼女は椅子から立ち上がり俺に背を向けた。そして思い切り背筋を伸ばして深呼吸する。

 「あーあ、これから学校の戸締りをしなきゃいけないんだ。悪いんだけど、校舎から出てくれないかな」

 俺は声を返さなかった。俺の目にあるものが映ったからだ。

 「今日はどっかに泊まるの?」

 「そのつもりだったけど、帰るよ。亜樹の顔も見れたし・・・」

 すると彼女の背中から少し残念そうな声がした。

 「そ、そうなんだ。ふーん。ゆっくりしていけばいいのに・・・まっ、仕方ないよね。キミも東京の美容室の店長だもんね」

 「ああ、わりいな」

 そう言うと彼女はがっくりと肩を落としてため息をついた。その背中の寂しさと同じくらいの切なさが俺の胸に去来している。卒業してから気づいた想い、それは今の今までずっと俺の心にあったものだった。

 「亜樹に出会ってなかったら、俺は違う人生を送っていたよ。ありがとう・・・」

 俺は席を立ち、その背中に向かって小さく頭を下げた。

 「そして同時にその真面目さが亜樹を追い込んでないか正直心配だった。でもちゃんと教師になってる亜樹を見て安心したよ」

 亜樹は俯き気味だった顔を上げると搾り出したように小さく言葉を吐いた。

 「もう・・・校舎を閉めるよ」

 そう言うと彼女は俺の前から消えようと足を前に進めた。

 そんな彼女に俺は最後の言葉をかける。

 「いつか俺の店に訪ねてきてくれよ。ただで切ってやるからさ。あの頃みたいに・・・」

 笑顔で発した言葉にも彼女は後ろを向いたままだった。そして一言だけ、

 「ありがとう」

 と言うと彼女は俺の前から走り去っていった。


 彼女が見回りをしているはずの校舎を出ると俺は一度だけ振り返った。

 「幸せにな・・・」

 彼女の指に光った指輪を見て、俺も彼女も全てを悟った。

 これでよかったのかもしれない。

 俺は無理やり自分にそう言い聞かせた。寂しくもある、切なさも残っている、でもどうしようもないことだってある。それが現実だ。

 忘れ物をしてそれを取りに戻れるのは中学生まで、大人になったら忘れ物をしてはいけないものなのだ。ましてや10年も前に置いてきたものなどとっくに誰かが拾ってるに決まってる。分かっていたことだった。

 分かっていたはずなのに、涙が止まらないでいる。

 別れの日と同じように涙が止まらない・・・

 そんなくしゃくしゃな顔で歩き出した俺に後ろから声がした。振り返るまもなく後ろから俺の身体は細い腕に包まれるように抱きしめられた。

 「忘れ物はちゃんと持っていくように・・・」

 「亜樹?」

 俺は訝しげに名前を呼ぶと、彼女は抱きしめていた腕を解いた。そしてその指輪をゆっくり外した。

 「おい、それ・・・」

 俺が驚きながら言うと彼女はいたずらっぽい笑顔を浮かべた。

 「ああ、これね。部活で指輪してたらまずいでしょ。だから生徒から取り上げたの。返すの忘れちゃった。てへっ」

 俺の心に怒りにも似た感情がふつふつと生じる。

 「もしかして、さっきのは演技?」

 「うん」

 「結婚は?」

 「してないよ」

 「俺が来てるの知ってた?」

 「もちろん。校舎に入るとき職員室から見えたよ。どんな反応するかと思って試してみたの」

 俺は怒ろうとしたが、それの代わりにため息が出た。

 「俺の不真面目さが移ったか?」

 「そうかもね。でも忘れ物はちゃんと届けにきたよ。ご丁寧に自分のお店に私の名前をつけてくれちゃって・・・」

 彼の美容室である『Herbst』はドイツ語で秋という意味の単語だった。おそらく大学の第二外国語でドイツ語を履修していたのだろう。見抜かれていた。

 「今日は返さないよ。お酒飲みに行こう。もちろんキミのオゴリね」

 「はいはい。わかりやした」

 そう言うと二人は笑顔を交わしながらゆっくり歩き出した。あの時止まってしまった時計の針を自らの手で動かすように、あの日別れを告げたこの学校から・・・

 二人がすごしてきた時間を語るにはまだまだ時間が足りないのだ。

 夕暮れ、吹く風は秋の涼しさをまとい、空にはトンボが群れを成して飛んでいた。一度は同じ空を飛んで、はぐれてしまった二羽のトンボは再び同じ空を飛ぼうとしている。夏の終わりの美しい空、今度は決して離れないよう互いの手をしっかりと握り合って・・・


 

 

  

 

 

  

 


 

 

長い短篇、読んでいただきありがとうございます。これからもご愛読よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  良いお話でした。この小説をもとに、ドラマを撮ったらヒットすると思います。  新藤君が凄く好きになれましたよ。  ただ、最後は無理にとんぼに例えなくても良いと思いました。季節感が出ていて良い…
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