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色彩  作者: 帝王星
朱雀の羽
7/12

7色

閃光に包まれた俺の視界が、徐々に明瞭になっていく。

「熱っ…」

前方に人影。俺が最も見馴れ、また大嫌いなやつのものだった。

「洸雅…生きてたんだ…」

「あぁ、『それ』のお陰で直撃は免れた」

…今しがた自分の構えているものを確認する。

「こいつは…!」

黄金に輝く盾…

「加羅からもらっておいた」

いつの間に。だがこいつのお陰で助かったのは間違いない。だが、村人は竜族に効果はないと 言っていたはず…

視線の先の金龍は目に驚愕の色を浮かべている。

「…とりあえずまだ安心はできないな」

加羅は、金龍は全系統の式術を使うと言っていた。安心はできない。金龍が大きく息を吸い込み始める。口元には記憶にある円式。

「この間の火竜が使った化学系の緑焔かっ…!」

すかさず右へ跳んだ俺のすぐ左の空間を、高温の緑焔が舐め回す。

「全系統の式術を使うと言っても…化学系はずば抜けているな」

洸雅も緑焔の猛襲をかわす。緑焔は確か、通常の炎より酸素の消費が激しいはず。長期戦はきつい。

「『浅蘇芳』、高速振動」

金龍の目には嘲り。俺が何をやろうとしているか分かっていないようだ。

「…何をする気だ…?」

洸雅め、俺の相棒のくせして解ってないな。金龍は俺を狙って緑焔を吐き出す。…そいつを待ってたんだよ。

「…斬・楓斬」


「大丈夫か…?」

貨物列車に揺られる人影が2つ。小さい方の影は今にも倒れそうだ。

「くっ…」

左手で押さえている首筋からは、薄く血が滲んでいる。

「あいつ…絶対『あれ』を入れやがったな…」

蒼はノッカの首筋に包帯を巻きながら、原因となったある情報屋を思い浮かべ た。

「ぅ…」

ノッカは苦痛に顔を歪めたまま、その場に縮こまっている。彼の周りには主を守るかのように、8つの宝珠が公転していた。

「式札、貼っておくか?」

蒼はどこからか、文字がびっしりと書かれた札を数枚出す。

「…できれば」弱々しく頷くノッカ。腕から発する光も弱々しくなっている。

「分かった、少しじっとしてろ」

そう言い、蒼はノッカの首筋に札を貼る。

「痛っ…!」

ノッカは小さく呻き、傷を押さえる。だが蒼が何かを唱え始めるにつれて、徐々に顔から苦痛の 色が消えていく。

「それでしばらくは大丈夫だろう。完治させるための薬が手に入るまでの辛抱だ」

蒼の呟きに対する返事は返ってこなかった。


「…さて、目的地が見えてきたな」

横になって小さく寝息をたてている相方に、蒼は着ていたコートをかけた。

「うぅ …目玉…頂戴…くれないなら殺したげる…♪」

穏やかな顔で物騒なことを呟くノッカ。彼の足元には不気味な光を放つ、『運命の輪』のタロットカードが落ちていた。


熱い。

「銀…分かってたのか…?」

…俺が分かるのは洸雅が死ぬことだけだ。

「金龍の弱点…」

洸雅め、とうとう脳味噌まで逝ったか。嬉しいことこの上ない。

目を開けると、火傷で覆われた自分の左手が見えた。熱いのはこれが原因だろう。視界の先には…苦痛の声を漏らしながらこちらを睨む金龍がいた。

「銀、さっきはどうやったんだ?」

さっき?なんのことだか分からない。

「お前が『赤銅色』で金龍の鱗を斬っただろ。どうやって斬ったんだと聞いているんだ」

…記憶にない。俺は緑焔を斬ろうとしたはずだ。金龍は振動が効くとでも言うのだろうか。

「…覚えてない」

「…そうか、まずは今のうちに朱雀の元へ行くぞ」

目に業火を宿した金龍をあとにして、俺達は奥へと進んだ。

「…あの瞬間…」

金龍が見えなくなると、俺は自然と言葉を紡いでいた。

「誰かが俺にこう言ったんだ。『死ぬってどういうことなんだ?』って」

洸雅の顔にはあからさまに不快の色が滲み出ている。

「死ぬことは失うことだ。自分が自分を感覚として捉える能力をな。死んだら天国に行くって言う奴もいるが、感覚がなければ天国と認識さえできないさ。脳がないのに感覚を維持できるはずがない」

…ここで洸雅がおかしいと思った方、俺とあなたは正常です。

「…つまり、どう言うこと?」

「今を生きろ、って意味だな」

…言われなくても洸雅より先には死なねぇよ。

「せめてそれは自殺しようとしてる奴に言ってくれないか?」

「…単にお前を見てて言っただけだ」

わぁ失礼な。俺が自殺志願者とでも?

「最近のお前は何か変だ。死にたくないと言っていたお前が、自らを犠牲にするような戦い方…」

「そんなことより、さっさと依頼を済まそうぜ。この奥にいるんだろ?」

俺は洸雅の言葉を遮るように言った。いいんだよ、そんなの気にしなくて。何でも屋をやってたらいずれ死ぬんだよ。あいつらもそうだっただろ…?

「…そうだな。この仕事が終わったら、久し振りに家でのんびりしたらどうだ?」

今更神に命乞いしても救われるわけないのさ。

「洸雅にしちゃ優しいな。分かったよ」


オランダの廃城、暗闇で不意に無粋な音が鳴り響いた。

「…はい」

誰かの手が無粋な音を鳴り止ませる。

『元気してた?』

機械越しに聞こえてくるのは若い男の声。

「貴方が送り付けた妖封の札のお陰で、一時期は死ぬかと思いましたがね」

声は穏やかだったが、周囲の空気は明らかに冷たいものだった。

『臨死体験?そりゃ楽しそうで何よりだよ』

相手の声も穏やかなままだが、言葉には棘があった。

「どこをどう見たら楽しそうに見えるのでしょうか」

『カエラは解ってないなぁ。僕の流儀の1つに「他人の不幸は蜜の味」ってあるのを忘れたの?』

相手はいかにも楽しそうだ。カエラと呼ばれた人影は深いため息をついた。

「貴方の性格の悪さがよく現れている、いい言葉だと思いますね」

その丁寧な口調の裏にも、無数の棘が隠れていた。

『性格の悪さがってのは気に入らないね。僕の性格のどこが悪いっていうのかな?』

相手の声のトーンが若干低くなった。

「全てですけど?」

バキリ。受話器越しに、何かをへし折るような鈍い音が聞こえた。

「…また何かを握り潰しましたね」

相手からの返答はない。 無言ということは、恐らく今彼は不機嫌だ。カエラはしばらく、黙って返事を待っていた。彼はすぐ機嫌を悪くするが、怒りが冷めるのも早い。

…30分後、未だに返答はない。おかしい。今までだったらどんなに遅くても、5分後には何事もなかったかのように薄笑いを浮かべていたのに。

「…大丈夫ですか…?」

グチャリ。聞こえたのは返事でなはく、血肉の裂ける音だった。殺られたのは彼か、彼の部屋に入り込んだ哀れな相手か。後者の場合、命の保証はないが。

『すまないね、ちょっと呼んだ覚えのないお客が来たもんでさ』

ようやく返事がきた。微かに呻き声が聞こえる。

「君が狙われるなんてちょっと信じられません」

『余計なことは言わなくていい。今狙われてるのは君だよ?』

相手の声と微かに聞こえる呻き声が、絶妙な不協和音を奏でる。

「僕が、ですか?誰から?」

カエラは心底信じられないといった口調だ。

『「月の12使者」って言ったらわかる?苗字がそれぞれ陰暦の月にならってる…』

「知っていますよ。あの『人外の者共』を飼い慣らしている異質者でしょう?」

カエラの顔から表情が消えた。

『確実になめられてるよね、相手はまだ16歳の集団なのに』

「…希少種族ってことで狙われているのなら、容赦はしません」

カエラの声のトーンが低くなる。そこからは冷たい殺気が痛いほど感じられる。

『ふぁぁ…どうぞご自由に。人族がどうなろうと僕の知ったことじゃないし』

声からして明らかに楽しんでいる。

『あ、今度兄さんの所行くんだけど、カエラも一緒にどう?』

「…僕なんかと行くより、可愛い可愛い妹さんと行ったらどうです?」

カエラがそう言うと、受話器からしばらく物音がし なくなった。

「絶対喜んでくれますよ?」

『…僕を殺す気?』

相手の声は若干震えている。余程妹と行くのが嫌なのか。

「何を言ってるんですか。あれは貴方を大事に思ってるからこそですよ」

『…伝えることは言ったから。じゃあね』

相手はそう言うと、逃げるように電話を切ってしまった。

「そんなに嫌がってたら可愛そうじゃないですか…唯一の肉親だというのに…」

返事は返ってこなかった。ただ、彼の嬉しそうな独り言が暗闇に響いただけだった。


大阪市のある神社…

「旦那、ここですか?」

「うむ、間違いない」

痩身の青年と中年の男が、畏怖を込めた眼差しで神社を見ていた。

「天秤宮…世界を監視する神の化身が祀られてい る…」

神社はまるで「立ち去れ」と言わんばかりに霧が立ち込めている。

「…いかにも神の領域って感じだな…威圧感が半端じゃない」

青年の額には冷や汗が滲んでいる。

「ここに住む神の化身は、相手の寿命と引き換えに願いを叶えるという」

中年の男はそう言い、身震いをする。

「考えただけで恐ろしい力だ…」

だが、青年は逆に歓喜で震えている。

「欲しい…例の『あれ』を集める手間も省ける…!」

「正気か?」

中年男の目には驚愕。青年は薄笑いを浮かべる。

「手中に納めれば、これほど心強い道具はない」

彼は神の化身をも道具としてしか見ていないようだ。

「お前に付き合ってるとろくなことがない…」

「旦那、 行ってみようぜ?」

青年は顔に薄笑いを浮かべる。

「ここにいるんだろ?」

中年男は唐突すぎるとんでもない提案に唖然とする。

「それはそうだが…神の化身と戦闘にもなりかねないぞ?!」

中年男の正しい忠告を聞いても、青年は薄笑いを浮かべたままだ。

「旦那、俺が負けるとでもお思いで?」

青年は1本の妖刀を抜刀する。

「相手が不死身でもない限り、絶対俺が負けるはずがない」

妖刀は朧に光を放っている。まるで獲物を待ちわびる肉食獸のようだ。

「妖刀『雲雀』か…」

青年の目が細くなる。

「こいつの攻撃、避けられるもんなら避けてみやがれってんだ」

そう言い、青年は神社の中へ足を踏み入れる。霧は一段と濃くなっていた。

「ったく…しょうがないやつだ」

中年男は深くため息をつき、青年のあとを追う。

「『緋蓮雀』と対になる妖刀、か。だが弱点を知られたらそれっきり使えなくなるぞ」

「そこは力任せで大丈夫っすよ」

男は気づかなかった。神の化身の神社に入るとどうなるか。呑気に話す青年は気づかなかった。2人を見張る目があったことを…



チャットルーム


―電子さんが入室しました―


レン)【おや、新入りさん?】

電子)【お初にお目にかかる。電子と申す】

レン)【うわ、何か和風やん!】

電子)【嘘嘘、ジョークっす♪】

レン)【…まぁその、よろしくお願いします】

電子)【よろしく】

レン)【中枢さーん、幽霊化しないで出てきてくださーい;】

中枢)【バレてたか】

レン)【バレてたか、じゃないでしょ;】

電子)【よろしくお願いします】

中枢)【あ、はい。管理者の中枢です】

電子)【え、このチャット作ったのって中枢さんなんですか?】

中枢)【まぁそうですけど;】

レン)【中枢さん、機械に強いんですよね♪】

中枢)【いえいえ、普通ですって;】

レン)【えー?普通だったらハッキングとかできないですよー】

電子)【ハッカー?格好いい!】

中枢)【やめてー!】

電子)【知り合いにもなかなかいないよー、ハッカーなんてー!】

中枢)【;;;】

レン)【まぁ、ここのチャットの名前が『情報通信』だし?故にここには情報が飛び交うんだよね】

電子)【レンさんにとって、ここは情報源と?】

レン)【まぁ、半分ほどはここの情報に頼ってますねー】

中枢)【えー?やめてくださいww】

電子)【あはは;レンさん、今度知り合いの情報屋紹介しましょうか?】

レン)【え!本当ですか!?ありがとうございますっ!】

中枢)【それが僕じゃないことを祈る…】

電子)【そんなわけないでしょ;それじゃ今日はこれで落ちますね】


―電子さんが退室しました―

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