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色彩  作者: 帝王星
朱雀の羽
6/12

6色

スケートで進んでいくと、向こう岸が見えてきた。

「銀」

ふと俺を呼ぶ声、洸雅の野郎だ。

「なんだよ…うわっ!投げんなバカ!」

飛んで来たのはスケート靴。奴め、もう使わなくなったからって俺への攻撃に使いやがった!

「わー、洸雅の恩知らずめー。俺がいなかったら川渡れなかったくせにー」

すると当然のように銃弾が飛んでくる。咄嗟に銀朱の槍で弾く。奴は本気で自分の恩人(仮)を消そうとしているようだ。

「もうすぐ金龍の住む洞窟だ、静かにしろ」

…洸雅から話しかけてきたくせに、しかもスケート靴投げつけてきたくせに。理不尽に過ぎる。

「もうすぐ洞窟だなぁー、金龍に勝てるかなー?」

「…」

「そう言えば金龍って、光を見ると狂暴になるんだよねー(嘘)」

「…」

「洸雅は大丈夫かなー。暗いの苦手だった しー」

そこまで言った途端、俺の首筋に冷たいものが当たる。

「…」

「心配したのに、洸雅酷ーい」

…チクリとした痛み、何かが伝う感覚。どうやら出血している。

「…」

黙ってんじゃねーよ畜生。

「不愉快だ、消えろ」

俺はすかさず後方へ跳ぶ。さっきまで立っていた場所に洸雅の大刀がめり込んでいる。相棒に対する情けはないのか。

「俺が伊賀流の護身術やってなかったら、洸雅人殺しだよー?」

俺は正しい忠告をしてやる。

「死んでないなら問題はない」

…この人殺し。

「時間を無駄にしたな。お前のせいだ」

「俺なにもしてないしー」

洸雅は黙って洞窟の方へ歩き始めた。無視かよ。

「大体洸雅がお礼のひとつも言わないからだっての」

洸雅に聞こえないよう呟いた。


暗闇の中で、彼は生きてきた。いや、外に出たことがまずなかった。彼は太陽を知らない。太陽を見たことがない。なぜなら…


…あぁ、今日もくだらない一日が終わった。愛用のパソコンでハッキングする毎日…溜まっていく倦怠感と空虚な何か。外に出たい。抜け出したい。 ふと辺りを見渡す。暗い。鉄と血の混ざった臭い。鏡に写る自分の姿。外見はよくても、中身は醜い自分。何故か顔だけが見えな い。

「所詮血は争えない…父さんの言葉の意味が分かった気がするね…」

ポケットから折り畳み式ナイフを出して、手首を切りつける。心地好い液体の感触が手首を伝う。あぁ、温かい。

物音。出入り口の方から錆びた音が聞こえてくる。敵か、それとも依頼人か。ナイフに付着した血を舐めとりながら、出入り口へ向かう。

…退屈な1日が終わったと思ったのに…また退屈な1日が始まるのか。

「何の用かな?」

僕は嘘付きだ。自分に正直になれない。外に出たいのに…


「いいか、戦闘体制は常にとっておけ」

洸雅は大刀 『雲雀』を構える。

「うるせっ、分かってるし」

しぶしぶ俺も銀朱を構える。なるべく色箱の力を温存しておきたかったのに…こ のクソ朱雀め。

「銀、今失礼なこと思わなかったか?」

…心を読むな。てか何で読めたんだよ。なら俺がいつか洸雅を暗殺しようとしてるのもバレるじゃないか。

「いや、金龍討伐の策を練ってた」

「…そうか」

あれ、洸雅が珍しくすんなり納得したぞ。きっと明日は血の雨が降るな。

「金龍か…竜族は散々討伐してきたけど、龍は初めてだな…」

「知り合いに龍を倒したやつがいるんだが、そいつも死にかけの状態で何とか戻ってきたらしい。龍と戦うというのはそういうことだ」

洸雅が珍しく俺の話を聞いてる。不吉にすぎる。

「…構えろ」

洸雅の表情が一変する。その途端、殺気にも似た威圧感が押し寄せる。正直、立つことさえ困難なほどだ。

閃光。その一瞬後には俺は宙に舞っていた。俺がつい先刻まで立っていたところは地盤が溶解し、マグマ状になっていた。

「…来やがったか」

洸雅の視線の先には、黄金に輝く紐状の何か。

「あれが…金龍…」

「龍の中でも、炎を司ると言われる…」

炎を司るといっても、氷の攻撃に弱いわけではない。むしろ歯が立たないだろう。金龍は俺達を視界に捉えると、大きく息を吸い込み始めた。

「銀、あれは絶対に避けろ。摂氏10000℃の光線だ」

洸雅はいつの間にか、分析性能を搭載したコンタクトで分析していた。言われなくても攻撃は避けて当然だろ。

「うっせ、洸雅に言われなくても分かってら」

吐き出された光線を、跳んでかわす。着弾した部分が音を立てて熔ける。

「…攻略できそうか?」

「難しいかも」

金龍の鱗の隙間に向けて小刀を投擲。だが鱗に届く前に弾かれた。

ご丁寧に干渉結界まで張ってある。八方塞がりのようだ。

「結界を無効化するほどの超攻撃か、相性のいい攻撃しかないな… こりゃ」

金龍が再び光線を放つ。洸雅が跳んでかわすと、光線はその後を追う。追尾能力付きか、厄介だ。

「チッ…『暗黒色』開箱。黒雲雀」

暗紅色の色箱から具現化した色が、洸雅の持つ大刀に絡み付く。光線を両断する気か?金龍の目には嘲りの色。

「やめろ洸雅!死ぬ気か!」

「…銀、お前今俺が光線を両断するつもりだとか思ったな?」

洸雅は俺を見下したように笑うと、『何か』を構えた。直後に着弾。

「あの馬鹿…10000℃…だぞ…?喰らって生き残れるわけが…」

眼前からは蒸気が立ち上ぼり、洸雅の安否は確認できない。もし洸雅が死んでいた場合、俺1人で金龍と戦うという絶望的な状況になる。

「…『赤銅色』、『浅蘇芳』開箱」

色箱から具現化した2つの色が混ざり合い、一振りの刀になる。高速振動を帯びた刀だ。 色箱は同時に開箱したり、後から纏うことによって能力を掛け合わせることができる。色箱の大きな特徴の1つだ。

「…やるしかないか」

金龍の目が俺を捉える。

「物理攻撃は効かなかったな…」

懐から『淡萌黄』を出し、開箱。淡萌黄の髪の女が現れる。

「電気なら、どうだ…?」

『淡萌黄』が放電。だが小刀と同じように結界の表面で火花を散らすだけ。

「電気も通さないのか…完全にはめ殺しだな、こりゃ」

金龍は再び嘲るように目を細めると、大きく息を吸い込み始めた。

「また追尾タイプかっ…!」

洸雅でさえ避けられなかった攻撃だ。俺に避けられるはずがない。

「銀、これを使え」

声。と同時に頭に硬質の『何か』がぶつかる。これは…?

「さっさとそれで防御しろ」

確認する前に言われた通りに防御。その直後、閃光が俺を包んだ。


「遅かったな」

成田空港のホーム、藍色の髪に黄色の瞳という遺伝的にあり得なさそうな少年が呟く。彼の前に立っているのは、透明のガラスケースを抱えた少年だ。

「いや、思いがけない収穫があったから♪」

そう言い、舜は無邪気に笑う。

「あー?舜、それ何?」

横から金髪の少女がガラスケースを覗き込む。途端に目付きが変わる。

「うわそれ玄武の毒牙じゃん。どこで手に入れたんだよそんなレアアイテム」

口調は変わらないが、左手には彼女に似合わな い銃が握られていた。

「やだ。南にはあげないよ?解剖とか言って分解しそうだし?」

乾いた音。直前に舜は素早く跳んでいた。

「やめろ、ここは一般人も利用するんだぞ?」

藍色の髪の少年がそう言うと、2人は動きを止めた。南と呼ばれた少女は銃をしまう。

「オランダに発つ。舜もそのでかい荷物をしまえ」

そう言い少年は、舜に『何か』を投げ渡した。

「あ、もらっていいの?美影ってやっさしー♪」

舜がそう言うも、美影と呼ばれた少年は気にも留めずに先を歩く。舜が何かを唱えると、ガラスケースが一瞬で姿を消した。

「今回の獲物は夢魔…またの名を淫魔。女ならサキュバス、男ならインキュバスだっけか?」

真がポツリと呟く。

「あとででいいよ、喋る辞書ことまこっちゃん♪」

舜が笑顔で正論を述べる。

「…いい加減人の名前くらい覚えろ!」

少年の泣きそうな声を最後に、少年達は飛行機の中へと姿を消した。


その数時間前…

「本当?」

青年は顔に歓喜の色を浮かべる。

「久しぶりに血族と会えるんだ。嬉しいに決まってるさ」

最新式のスマートフォンを右耳に当て、青年は笑っていた。

「嘘って…僕がそんなに非情だとでも?」

左手は白金製のプラチナリングを弄んでいる。美しい笑みは眼前のノートパソコンに幽かにうつる。

「酷いね…肯定しないでよ。僕にだって感情はあるさ」

画面にうつる表情は微塵も変わらない。

「そこらの人族よりは乏しいけど」

プラチナリングがノートパソコンの光を受け、暗闇で妖しく輝く。

「楽しいとも思うし、つまらないとも思ったことあるよ?あとは…そうだね、飽きたりもした」

青年はリングを高く弾く。リングは宙で旋回したあと、青年の細い人差し指に収まる。

「あ、でも同情とかはしたことない な」

青年はそう言いながら、キーボードを片手で打つ。

「それより引っ越したんでしょ?新しい生活には馴れたの?」

画面にはある国の重要情報が表示される。青年はたった10秒足らずで国のシステムを制圧したのだ。

「いや、ストーカーじゃないし…情報屋にそんな暇はないよ」

青年は情報をUSBに保存する。その作業に要した時間、僅か4秒。

「それじゃ、4日後の午後8時にそっちへお邪魔するから」

そう言い、青年は通話を切った。同時に画面にうつる整った顔から笑みが消えた。

「フランス…制圧完了。これで26ヶ国目か」

声には熱が籠っていなかった。

「発つ準備でもしようかな」

青年は立ち上がり、ノートパソコンを閉じてその場を去った。


鴻章の著書『現世』より一部抜粋。

君達は空を見上げて星座を探したことがあるかい?オリオン座みたいに見つけやすいものから、蟹座のように見つけにくいもの だってあるだろう。

中には今住んでるところからは見えない星座だってあるんだ。地球は透明じゃないから、地球の先にある星は見えないんだよ。

まぁ、地球が透明じゃないのはみんな分かってるよね。それは全てにおいて言えることだよ。

みんなはガラスを透明と思うかい?水を透明と思うかい?空気を透明と思うかい?

ここからは少し難しい話になるけど、実はどれも透明じゃないんだ。

例えば空気だったら、少なからず塩素みたいに色の付いた気体が存在する。その証拠に、遠くの景色は少し色褪せて見えるだろう?まぁこれは大部分が空気の分子が日光を反射してる影響だけど。

これは現代社会にも言えることさ。一寸先は闇。未来なんて予測不可能だろう?周りの人間の考えていることは解らないだろう?

つまり、現世は不透明なんだ。周りは濁った者しかない。唯一君達が絶対的に理解し得るのは君達自身だけさ。

でもね、だからといって肩を落とすことはないよ。濁ってても近付けば見ることができるだろう?自分の信用できる相手、自分を信用してくれる相手を探せばいい。

そういう相手となら、本来の自分に近い姿でいられるし、相手も本来の姿に近い自身を見せてくれるだろう。

ただどんなに近付いても、濁ったところでは全てを見ることはできないからね。君達に伝えることはここまで。まだ先の長い人生を楽しんでくれたまえ。



チャットルーム

―ネイビーさんが入室しました―

―中枢さんが入室しました―


中枢)【ちょっと今テンションあがってます↑↑】

ネイビー)【おや?いつもは冷静な中枢さんが?】

中枢)【久し振りに二従兄弟に会いに行けるんです♪】

ネイビー)【おぉ、その二従兄弟さんはどちらにお住まいなんですか?】

中枢)【フランス←】

ネイビー)【Σ遠っ!】

中枢)【そうですか?一番遠くてブラジルにも親戚いますし】

ネイビー)【うわぁ…中枢さん、外国語話せます?】

中枢)【英語、中国語、韓国語、ロシア語、ヒンディー語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、フランス語、オランダ語、スペイン語、ギリシャ語、ベラルーシ語、ハンガリー語、マレー語、チェコ語、インドネシア語、アラビ】

ネイビー)【すっげぇ…】

中枢)【すいません、字数制限のせいで途中で切れちゃいました】

ネイビー)【Σまだあるの?!】

中枢)【書きましょうか?】

ネイビー)【いや、もういいよ…自分の外国語能力がいかに低いか痛感したから】

中枢)【そんなこと言わないで;】

ネイビー)【ふ、ふふふ…死にたいわぁ…】

中枢)【やめて下さい;】

ネイビー)【はぁ…そう言えば最近、フランスの重要情報のセキュリティが乗っ取られたらしいよ】

中枢)【あぁ、見ました。その2日前にはドイツが乗っ取られたんだよね】

ネイビー)【怪物みたいなハッカー…いや、クラッカー…】

中枢)【…ネイビーさんが言うとなんか怖い;】

中枢)【あ、そろそろフランスに行く用意しなきゃ!今日はこれで!】


―中枢さんが退室しました―


ネイビー)【ノシ】

ネイビー)【じゃ、僕も落ちまーす】


―ネイビーさんが退室しました―

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