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色彩  作者: 帝王星
朱雀の羽
4/12

4色

「来たね」

薄暗い部屋で、よく通る男の声がする。

「12将の第3番手『爪牙のノッカ』です」

「12将の第2番手『知性の蒼』」

部屋の奥にある椅子から、1人の男が立ち上が る。

「それで、休暇をもらっている我等に何のようで?」

蒼は厳しい目をする。男は少し驚いたような顔をし、ニッコリと笑う。

「ちょっと君達2人に頼みがあってね。金龍って知ってるかい?」

男の顔に子供のような笑みが浮かぶ。

「最近中国に出現するあの金龍の事?」

「実はその金龍の鱗が10枚くらい必要でね、良かったら採って来てくれないかい?」

蒼の青い目に影。何かを疑うような目だ。

「…宝珠を作るなら目玉のほうが効率がいい上、能力も高まる。何故鱗だ?」

「…蒼君はいつも利益の事ばかり考えてるよね…理由は単に見た目が格好いいからだよ」

男の突拍子のない返答に、蒼は言葉を失った。「用件も伝えた事だし、そろそろ行ってらっしゃい」

男はそういい、いつの間にか手に持っていたリモコンのボタンを押す。その瞬間、ノッカと蒼の立っていた床が動き、穴が現れる。2人は穴に消えて行った。

「…紫苑君は、あの2人をどう思うかね?」

男がそう言うと部屋の隅の景色が歪み、半月状の目と口が刻まれた仮面の人影が現れる。

「…我にとってはただの人形に過ぎぬ」

紫苑と呼ばれた人影は仮面を取る。現れたのは男とも女とも取れる、中性的な容貌だった。

「それでヘスティア、わざわざ我を呼ぶとは何の用だ?」

ヘスティアと呼ばれた男を、右の紅い瞳で見据える紫苑。

「…実は日本にある妖刀『千桜』を持って来てほしいんだ」

「…皇族血統の陛下である主が、趣味の指輪作りなどに興じてよいのか?」

紫苑の青い左の眼光が、ヘスティアを射抜く。

「ただ祖先が乱暴な権力者なだけだよ。私は普通の人間だ」

ヘスティアは床に開いた穴を見つめる。紫苑も部屋の景色の中に消えて行った。


「ガホッ!ふぅ…陛下って乱暴だなぁ…」

「…落とし穴とは、また大層な仕掛けを作ったものだ」

ノッカと蒼がいるのは、路地裏のゴミ捨て場だった。

「しかも落とされる場所がゴミ捨て場とは…」

蒼は興が削がれたようにため息をつく。

「地味な嫌がらせだね…」

ノッカは服についた埃を叩き落とす。不思議なことに、蒼の服は全く汚れていない。

「はぁ…やはりろくでもないことを頼まれたな…金龍か…」

「僕は嬉しいよ?強力な宝珠が手に入るじゃん」

ノッカの周囲を旋回していた宝珠の1つが、青白い光を出して消える。それと同時に、2人の頭上に巨大な灰色の竜『飛竜』が現れる。

「龍は竜族の中でも貴族・皇族にあたる。金龍は上から16番目の貴族階級の超大物だ」

蒼は険しい表情になる。それほど『龍』は恐ろしく強いのだ。ノッカは『飛竜』の背に飛び乗る。

「じゃあ金龍狩りは保留しよう。まずは蒼の『朱雀狩り』から…だね」

ノッカがそういうと、蒼の冷たい氷河の瞳は暗みを帯びる。

「…いいだろう」

蒼の瞳が暗みを帯びていくのに対し、口元には喜悦の笑みが浮かぶ。

「久しぶりにコレクションを集めに行くか」


「…僕が知ってる金龍の情報は全部話したよ」

加羅は険しい表情のままいう。

「通常攻撃の全てを無効化するのか…厄介にすぎる」

洸雅が珍しく渋い表情を浮かべる。普段滅多に見せないレア顔だ。

「だが、倒せないこともないだろ。いくらなんでも不死身ってわけではなさそうだし」

加羅はふと立ち上がり、部屋を出る前に言った。

「今度は僕も行くよ」

それだけ言って、加羅は部屋から姿を消した。

「通常攻撃の全てを無効化する…恐らく物理攻撃をはじめとする、特殊攻撃の全てを撥ね返されるな」

洸雅は部屋の隅で、金龍対策を練っていた。

「とりあえず、実物を前にして考えよう」

平常を装ってはいるが、俺の内心は荒れまくっていた。

「準備はしっかりするものだが?」

今だけは相棒の無遠慮さに感謝しておく。


「キョウトって初めてですね」

闇に溶け込むような黒の髪を風に靡かせ、1人の少女が歩く。

「月がとても綺麗に見えます」

少女は笑う。まるで、軽く押すだけで壊れてしまいそうな儚い笑みだ。

「えっと…『千桜』でしたよね…今回の獲物」

月の光を受けて、少女の瞳が翠の光を放つ。

「妖刀『千桜』…その刃には『黒の巨人』と『白の巨人』を宿すといわれる封印剣」

少女のソプラノ声とは違う、テノール声が響く。

「『黒の巨人』と『白の巨人』は、巨人族の中でも膨大な術力を持つ。それが刀に封印されてるのさ」

闇の中に、何かが着地する乾いた音が響く。

「説明は終わり。千鶴も事前調査はこのくらいやっておいた方がいい」

声の主は完全に闇に溶け込み、姿は全く見えない。

「『白の巨人』と『黒の巨人』…あの『月の12使者』でさえ数匹しか所持していないという…」

千鶴の表情が険しくなっていく。

「『月の12使者』…あの『人外の者共』を集めてる変人どもか」

その声と共に、闇の中で何かが動いた。


暗闇の中に、1人の少年が立っていた。辺りは一面紅に染まっている。倒れている男は銀達に『朱雀の羽』の回収を依頼した男だった。

「まこっちゃんの言ったとおりだ」

少年の手が薬品棚に伸びる。

「まさか『白龍』と『黒龍』の肝臓まであるとは…」

すると床に倒れていた依頼人の男が、少年の細い足を掴む。

「…頼む…それを持って行かれては我ら一族は…ぐあっ!」

少年の細い足が、依頼人の男の背中を踏み躙る。

「血塗れの手で触らないでくれない?汚れるだろ下種が」

少年は氷のような冷たい声で言い放つと、長い服の袖から針のような物を出す。その針を床に倒れる男に突き刺す。血肉の避ける音。

「…あーあ、死んじゃったぁ…」少年は異物でも見るかのような眼差しで、床に倒れた男を見る。そしてどこからか携帯を出し、電話をかける。

『舜?何か用?』

「やぁまこっちゃん。こっちはうまくいったよ」

少年は先ほどとはまるで違う、鈴のような声で話す。

『…その『まこっちゃん』ってあだ名やめてくれないかい?』

携帯端末の向こうから呆れた声が響く。

『僕は弥生真。何度いったら覚えるの?』

だが、携帯を握る少年の顔は笑みを浮かべたままだった。

「だってまこっちゃんも、影で美影のことヘタレって呼んでるじゃん」

携帯端末の向こう側から、音が消えた。

「あと輝のことも影で馬鹿力って呼んでるよね」

舜と呼ばれた少年が言葉をつむぐ。

「僕優しいから黙っててあげてるのに♪」

声は意地悪そうにそう言う。

「くそっ、これだからお前と蓮だけは気に食わないんだ」

真はそう言って通話を切った。

「ちょっ!ひどっ!はぁ…」

舜はふと薬品棚の横のケー スに目をやる。その途端、少年の瞳が驚愕に見開かれていった。

「なっ…!玄武の毒牙だと…!?」

ケースの中にあったのは、普通より10倍もの大きさを持つ爬虫類の毒牙だった。


ノッカと蒼は、暗い廃墟の前にいた。中から腐った臓物の臭いが漂う。

「…臭い…本当にこんな所に人間すんでるの?」

ノッカは鼻をつまんだまま言う。

「ここの情報は速くて正確だ。それにここにいるのは人間ではない」

蒼は複雑な表情を浮かべ、意味深げな言葉を吐 く。

「…人外の者共か…!」

ノッカの袖口から、銀色に輝く宝珠が出てくる。すると、蒼はノッカの肩を軽くたたく。

「心配するな。『人外の者共』の血を引いているだけだ」

蒼はそういって、廃墟の中に入っていく。ノッカも複雑な表情を浮かべ、蒼の後に続く。

奥に進んで行く2人。通路には白骨化した人体や、動物の血肉などが散らばっている。ノッカは苦渋の表情を浮かべる。

「…こんな劣悪な環境によく生きてられるね…」

「あぁ…だが人気のない場所にしか情報屋はいない」

しばらく進んでいくと、広い空間に出た。宮殿の大広間くらい広い。

「何の用だい?こんな不気味な所に」

暗闇の中から、澄んだ甘い声が響く。

「…これはこれは、ヘスティアお抱えの 12将じゃないかい」

闇に響く声の主は、嘲笑に近い笑みを浮かべている。ノッカの顔に嫌悪感に近い物が浮かぶ。蒼は無表情で1点を見据えていた。

「嫌がらせはほどほどにしろジーク。我らはただ依頼をしに来た」

すると、闇の中から響いていた笑い声が消える。

「…依頼って事は、情報屋の僕に用があるんだね」

ノッカは額に冷や汗を掻いていた。闇の中から足音が響く。

「やぁ、久しぶりだね蒼」

「…今回は私情は抜きだ」

闇の中から現れたのは、色白の優美な顔、黒い短髪、真紅の瞳の青年だった。

「一応挨拶はしておくよ。情報屋『影椿』ことジーク。以後お見知りおきを」

青年が敬礼する。

「貴方があの『武者狩り』で有名な『影椿』…!?」

ノッカは驚きを隠せない。

「とても建物を拳で破壊するようには見えない…」

ジークは薄笑いを浮かべたまま、ノッカを見ている。

「君みたいな子にも名前を覚えてもらっているとは…光栄だね」

ジークは小さく微笑む。

「それで依頼だが…『南雲洸雅』の現在地を特定してほしい」

蒼の頬の青い炎が、不気味に燃え上がるように見えた。

「期限は?」

「出来れば今日中だ」

蒼は間を空けずに言う。現在時刻は午後八時だ。

「いいよ。ただお高くつくけど、いい?」

ジークは全く緊張の色を浮かべずに言う。

「分かった」

蒼がそう言うと、ジークはどこからか黒いノートパソコンを出す。カタカタと、ジークがパソコンのキーボードを打つ音が聞こえる。

「なるほど、依頼を受けて中国に飛んでるね。現在地は大体上海の中央」

ノッカの表情に、悲痛な物が浮かぶ。

「さっきまで君達、その上海にいたんでしょ?わざわざこれだけを聞きに日本まで来るなんて、ご苦労な事だね」

ジークは嘲笑にも似た薄笑いを浮かべる。

「…相変わらず皮肉ってくれるな」

蒼は苦笑しながら言う。

「また何かあったら来る。代金は…」

蒼がそう言うと、ジークはノッカを指差す。

「代金はそこの子でいいよ」

「え?」

ノッカの首に、小さな痛みが生まれた。



チャットルーム


―千尋さんが入室しました―


千尋)【あれっ、まだ誰もいないなぁ…】


―レンさんが入室しました―


千尋)【あっ、レンさんこんばんは!】

レン)【こんばんは♪】

千尋)【何だか自分だけのような気がして心配しました;】

レン)【…この時間ほとんどみんないませんよね】

千尋)【みなさんお風呂にでも入ってるんじゃないですか?】

レン)【今仕事で情報屋に向かってるよb】

千尋)【情報屋ですか!?格好いいです!】

レン)【うんうん…特に情報屋で格好いいって言ったら影椿だなぁ…】

千尋)【影椿?】

レン)【2年前、ベトナムで『人外の者共』が大量発生した事あったよね】

千尋)【…あの事件ですか】

レン)【あそこで『武者狩り』と呼ばれた戦士がいたんだ】

千尋)【知ってます!確か凄い力持ちで、高層ビルも一瞬で壊したあの『武者狩り』ですよね!?】

レン)【実は…その『影椿』と『武者狩り』が同一人物だって噂が流れてるんだ…】

千尋)【えぇぇ!?】

レン)【本当かは知らないけどね♪そろそろ情報屋につくんで、おちます♪】


―レンさんが退室しました―


千尋)【…あのフェロ魔、何か有名になってるね;】


―千尋さんが退室しました―

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