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色彩  作者: 帝王星
京の妖刀
12/12

12色

十二使者達は、例の怪しい液体が入った硝子管の中に入れられていた。

「観客…か、性格悪いな」

美影の顔に苦いものが生まれる。

「なに、彼らには何もしませんよ。あなたが僕を倒せたら、の話ですがね」

影の凛とした声が邪悪味を帯びる。ガラス管の中の11人は既に気を失っている。

「そもそも、僕よりあなたの方が性格悪いのでは?」

影が懐から無数の何かを出す。

「お仲間さんが気を失っていても、表情一つ変えないとは」

相手の指摘通り、美影の表情は終始無表情だ。

「…」

少年の足元から透明の波頭が生まれる。鼻を刺激するのは、気化した酸。現れたのは硫酸だった。

「…結論はいつも変わらない」

少年の手の動きに合わせて、強酸の奔流が影へと襲いかかる。

「…壁を伝っての全方位攻撃ですか…」

若干感心したような声が響く。と同時に、影が強酸の渦に呑み込まれる。

「…ただ勝ちと敗けだけ。観客など不要だ」

美影が冷たく言い捨てる。

「…その勝敗を決めるのは観客なのでは?」

背後に悪寒。酸の戒めを解いた影が、少年のすぐ後ろにいた。 影の周囲で、鈍色に光る何かが遮壁となっている。

「おや、背後が疎かになっていますね」

美影は瞬時に判断。すぐさま何かを影に向け、放つ。

「…」

影の動きが止まる。そして、その場に倒れるように膝を付く。

「…これは…!」

周囲から何かが泡立つような音。 壁や天井が溶けている。

「…」

少年は無言のまま。

「っ…!」

痛みに悶えているかのような素振りの影。だが、突然姿が消える。

「…消えた?」

周囲に集中。気配は感じられない。

「…!?」

突如、美影の右手の甲から血が噴出する。

「…どこから来やがっ た…?」

右手の傷から光が漏れる。即座に細胞を作り出し、傷を治癒しているのだ。

「…やはり、本当だったようですね」

どこからか声が響く。美影の指先から再びのレーザー。壁が貫かれ、少しだけ外の光が漏れてくる。

「妖でも魔でもなく、神の血統でもない…」

顔を照らされた影が独り言のように呟く。

「色箱、式術、特殊武器も持たない能力者…見るのは初めてです」

それでも、美影の表情は変わらないまま。

「…だったら大人しく捕まれ」

美影の掌に銀色の物体が発生。液体のようにも見えるが、瞬時に凝固。無数の針となる。

「あと、後ろの11人を解放してくれると助かる」

美影がそう呟くと同時に、無数の針が影へと襲いかかる。影はすかさず飛んで回避。銀の針は標的をとらえられず、空しく壁を射抜く。

「…これは…水銀か」紅い2つの光が、壁に突き立った針を検分する。針は徐々に液化していき、床に銀の水溜まりを作る。

「…」

紅い光が次第に細くなる。

「飛んでないで降りてこい」

美影の殺意を帯びた言葉。 同時に、複数の青白い光が灯る。それを見た影は青白い光から逃れようと、上空を飛び回る。が…


「主人、どうやら彼の精神が目覚めたようです」

「もう目覚めちゃうの?早いなぁ…」

落ち着いた雰囲気のなか、人影は口笛を吹きながら紅茶を飲む。

「縛り直した方がよいのでは?」

小柄な影はずれた眼鏡を直しながら提案する。

「そうすれば、あの日のような惨事を少し先伸ばしにできますが…」

「…あれからどのくらいたったかな」

「二十年です」

人影の唐突な問いに、相手は即座に答える。人影は懐かしむように椅子に腰かける。

「もうそんなになるのか…」

「過去を懐かしむのもいいですが、できれば仕事をしてください」

相手が冷たく言い放つ。

「そんなだからお子さん方にも愛想を尽かされたのでは?」

相手は頭を押さえて言う。痛い指摘だったのか、人影はハンカチを出して目頭を押さえだす。

「違うもん…そんなんじゃない もん…」

そう呟きながら泣きじゃくる姿はまるで子供のようだ。相手は深い溜め息をつくと、書類の束を差し出す。

「…まずは仕事をしてください」

机の上に容赦なくつまれる書類。数枚が反動で宙に舞い上がる。

「えー?!」

「問答無用です」

そのまま、人影は主人らしき相手を残して去っていった。


「くっ…!」

なんとか炎に標的を確保。このまま弱らせて捕まえる。

「…終わりだ」

徐々に炎の温度を上げていく。ポケットから空の封珠を取り出す。

「…逃げられても面倒だしな…」

部屋中には塩素を充満させてある。…念には念だ。それに、この炎は燃やしたいものしか燃やさない。

恐らく、奴は塩素を吸って動けないはず。そろそろ捕獲作業に移っても大丈夫だろう。

封珠解放…する瞬間、背後に熱反応。

「…っ!?」

すかさず飛んで避け床を見ると、一面が針に覆われている。何本か掠めたのか、頬が熱い。

「おや?まだ生きてらっしゃったのですか」

声は背後からだった。…どういうことだ?つい先程突然熱反応がでた…

「…1つネタバラしをしておきましょう。あなたが燃やしたのは幻です」

…思い出した。夢魔は夢を司る妖、つまり相手の感覚に干渉してくる。

「チッ…相性最悪か…」

流石に実体でない幻を使うもの相手はきつい。となると、対幻覚能力の水無月を呼びたいところだが…

「…こんなものですか?一人で三大龍さえ狩ると言われる『月の十二使者』の実力は」

…打開策を考えろ。まずどうなれば勝てる?

「…仲間の奪還が先か、獲物を捕らえるのが先か…」

飛んでくる無数の凶器を、オゾンの強酸で溶かす。

「…マジうぜぇ」


「銀、ガムを噛む暇があったら仕事に専念しろ」

そう言うあんたは携帯でゲームしてんじゃねーか。仕事か?それ。

「うっせ、ガムくっ付けっぞ」

隣の粗大ごみは黙ってゲームをしている。ごみが携帯を扱うなど、奇怪極まりない光景である。

「まずは封印を施した洞窟を捜索、次に近隣住民から目撃情報を聞く…面倒だな、銀が一人でやればいいものを」

あんたは何がしたいんだ。

「やらなきゃ事務所の経営が苦しくなるだろうが。あと奴が野放しになったってんなら、放っておくわけにはいかない」

洸雅の目になにやら活気が溢れてきた。

「戦闘こそ全て」

…変人戦闘狂がここにいた。俺は面倒を見きれません。

「変人洸雅、洞窟はあれか?」

一瞬洸雅から鋭い怒気が放たれたが、すぐ消えた。

「…間違いないな。あれだ」

俺たちの目の先、約1Km辺りに、誰もが近寄るのを躊躇いそうな洞窟があった。

「うへぇ、何か出そう…」

「銀、お前まさか幽霊など信じているんじゃないだろうな?」

どこをどうやったらそんな発想に辿り着くんだか。

「出るっつってもそっちじゃねぇし」

洸雅の奴は、笑いを堪えているかのように唇を噛み締める。本人の前で勘違いを妄想して笑えるなど、やはり変人だ。

「行くぞ」


洞窟にしてはやけに乾燥している。

「…暑い」

まるで砂漠だ。

「暑いか?まぁ乾燥はしているが…」

こいつは暑いのに強いから感覚が鈍ってるようだ。無視。洞窟の天井や壁には、削り取ったような跡がある。

「気味悪…」

ふと呟くと、それを合図にしたかのように顔に何かが飛びかかってくる。

「うわっ!何だこれ!?」

勢いで後ろに転倒。洸雅は怪訝な顔で堪えている。

「…蝙蝠か。お前の声で反応したが、まさか仕組んでいた訳じゃないよな?」

相棒を疑うなんて最悪なやつだ。

「ちげーし、蝙蝠嫌いだし」

「それもそうだな、銀が動物を手懐けられるはずがない」

「じゃあ洸雅はできんのかよ」

…返答なし。勝った…!

「動物を手懐ける暇があったら闘う」

…この戦闘狂め、今日こそは口に出して言ってやる。

「この戦闘狂め」


「次はどうしましょうか」

眼下には一面に液体が散っている。

「…厄介だな…」

美影の口端には血が滲んでいた。

「月の十二使者と呼ばれるくらいなら、僕を倒して実力を証明して下さいよ」

そういうカエラは、武器を持ってもいない。

「…!」

徐々に息が苦しくなる。カエラは 喉に手を当てて苦渋の表情を浮かべるが、美影の表情は全く変わっ ていない。

「今度こそ捕まえる」

美影の手には再び空の宝珠が握られていた。それを持ったまま、美影はカエラの方へ歩みを進める。

「(ボソッ)…『茴香』抜刀」

「封珠解放」

後はこれを標的に接触させればいいだけだ。喉を押さえてこちらを睨む標的に封珠を投げる。…仕事終了。


「くそっ、本当だったのか…」洞窟の奥の封印は、無惨にも破壊されていた。

「…洸雅、標的を探そう」

洸雅は苦渋に満ちた表情で歯軋りすると、渋々頷いた。

「『白』が壊されてる…誰かが奴を出したんだな」

「…それが色箱?砕けた透明の箱にしか見えないが…」

「色箱は力を失うと色が無くなるんだ」

洸雅の言った通り、封印の核として埋め込んでいた白は、透明の砕けた箱に成り果てていた。これでは色神を呼び出すこともできない。

「…行くぞ」

「うっさいなー、命令すんなよ」

俺がいつものように言い返す。洸雅はいつものように俺の頭に…手を置いた!?

「うわっ!何だよ気持ち悪い!」

即座に振り払う。

「何故嫌がる」

「不吉だからだよ!」

洸雅が俺に優しくしないのは1+1=2並みに明らかだ。

「知り合いが言っていたことを思い出してな。飼い犬をたまに可愛がると躾が上手くいくと」

…やっぱりそういうことか。

「銀、そんなに不満そうな顔をしてどうした?」


「片腕頂戴しました」

真空の層を纏ったカエラは右手に刀、左手に人間の片腕を持っている。

「駄目ですよ、あんな演技に騙されるようでは」

一方美影は床に手を付き、倒れないようにするのが精一杯だ。

「妖刀…だと…!?」

切り落とされた腕は、すでに骨格まで再生されている。

「さぁ、どうします?と言っても、あなた達に残された選択肢はないですけど」

カエラはそう言いながら、無邪気な子供のように微笑む。

「…」

美影は黙って、無事だった左手をあげる。

「今さら攻撃なんて無駄ですよ、物質じゃ真空と異空間の壁は破れません」

「違ぇよ」

その言葉と共に、美影が腕を降り下ろす。

「…失敗ですか、効かないと言ったはず…」

パリン…

後ろからガラスの砕ける音。同時に、液体の流れる音。

「…まさか…!」

カエラが後ろを振り替えると、十一人を閉じ込めていた11本のガラス管が全て割れていた。

「… へっ」

美影の顔には不敵な笑み。

「いてて…ここは…?」

「くぅ…美影!?どうしたのその傷!」

「あ、あいつ今回の標的じゃないか」

カエラにも美影の意図が読めてきた。

「…確かに、この人数相手は少し面倒ですね…」



チャットルーム


―修羅さんが入室しました―


日洋)【ん?新入りさんかな?】

修羅)【はじめまして、修羅です】

日洋)【よろしくー】

修羅)【早速ですけど、質問してもいいですか?】

日洋)【いきなりだな…】

修羅)【いや、ここは情報が豊富だって聞いたので…】

日洋)【あ、もしかして情報目当て?】

修羅)【そんなとこです】

日洋)【んー…情報屋の方がいいんじゃない?】

修羅)【お金無いんです】

日洋)【ありゃ、まぁいいか。質問くらいなら答えるよ】

修羅)【ありがとうございます】

日洋)【知りたい情報ってのは何?】

修羅)【えっと…福神について何か知りません?】

日洋)【福神?あの有名な七福神?それなら知ってるよ、大黒天、布袋、毘沙門天、弁財天…】

修羅)【そっちじゃないです】

日洋)【…それもそうか、七福神ならネットで調べられるし】

修羅)【知りたいのは『神の化身』の方の福神です】

日洋)【…あんまり詳しくは知らないが…】

修羅)【知ってるだけでもいいです】

日洋)【全員不死身。全員元人間。人柱として何かをその身に封じてる。それぞれの能力で人間の欲を満たし、対価として寿命を食らう…このくらいだね】

修羅)【さすがに封印されてる場所までは分からないか…】

日洋)【こんなの知ってどうするつもり?】

修羅)【いや、友人に頼まれてね。ちょっくら捕まえに】

日洋)【…封印の地には人間しか入れないよ。色箱や宝珠なんかの類いは弾かれるし】

修羅)【いや、別にそれでも困らないんじゃ…】

日洋)【それがさ、封印を解くときにそいつらが襲ってくるんだよ。生身じゃ絶対やられるって】

修羅)【…それは厄介だなぁ…どうしよう…あ、そろそろ仕事だ!落ちます!】


―修羅さんが退室しました―


日洋)【ノシ】

日洋)【まぁ、『月の十二使者』だったら可能性はあるな…】


―日洋さんが退室しました―

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