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色彩  作者: 帝王星
京の妖刀
11/12

11色

「よし、乗った」

相変わらずの戦闘愛好ぶりだな。そんなにあの世を拝みたいのなら一人で行ってくれ。俺はあんたの最期の瞬間を傍観するから。

「…俺はそもそも行きたくないんだが?」

途端、洸雅の顔に不快の色が浮かぶ。

「お前が持ってきた依頼だろうが。銀は絶対参加と決まっている」

日本国憲法の『基本的人権の尊重』ガン無視ですか。

「そもそも、なんで奴についての依頼が入るんだ?あいつはもう身動きひとつ取れないはずだ」

依頼を受けた当時から、ずっと気になっていたことだった。

「俺に情報を求めるな」

そして、情報の代わりに洸雅の文句が返ってきた。

「しょうがないじゃん、近くに洸雅しかいなかったんだし。ま、でも依頼の内容が本当ならただじゃおけない」

洸雅の顔にも緊張の表情が浮かび上がる。

「…また奴と殺り合うのか」

声には若干悲哀の念が篭っている。

「感情移入するな、興味も持つな。敵だから倒す、ただそれだけだ」

…自分にしてはやけに冷静すぎる判断だと思った。洸雅は少し驚いたように口を開く。そして歪んだ笑みへと変わっていく。

「銀風情が、なかなか言うようになったな」

洸雅の皮肉混じりの言葉を無視し、俺は依頼内容を一通り確認。標的の現在位置は埼玉県鶴ヶ島。どうやら移動しているようだ。

「…情報屋か?」

「あぁ、こっちの方が早いし」

すると、洸雅の顔に不快の色が浮かぶ。何かあったのだろうか。

「…何かあったのか?」

途端に洸雅が苦々しい顔になる。

「図星だな」

洸雅は顔に出るから分かりやすい。

「…ジークだよ。あいつが俺の一番触れたくない話題に触れやがったんだ。」

洸雅にそんなところがあるとは以外だ。俺も今の今まで知らなかった。

「なんだそのアホ面は」

いきなりアホ呼ばわりですか。

「いや、洸雅にもそんなとこあんだなーって思っただけ」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ」

「脳無し」

返事をした途端、衝撃。見ると、壁に鉛筆が6本突き刺さっている。物は大事にしろと習わなかったのか?

「チッ、外したか」

…あんたのせいで鉛筆6本使えなくなったじゃねーか。洸雅が更に鉛筆を構えたところで、玄関の呼び鈴がなる。

「はい、今行きまーす」

洸雅は獲物を逃した肉食獣のように唸る。

鍵を外して扉を開く。そこには、フードを被って顔全体を被い隠した人がいた。

「依頼主の方でしょうか」

「…はい」

返事を受けて、俺は相手を中へと案内する。電話先の連絡からだと、相手の名前は東宝苓のはずだ。

「ありがとうございます」


「紅茶でも如何です?」

応接用のテーブルに紅茶を差し出す俺の後ろで、洸雅がぶつぶつ文句を言いながら壁に刺さった鉛筆を抜いている。無視だ無視。

「…依頼も聞いてもらって、お茶まで出していただいて…申し訳ないです」

ありふれた会話に、俺は営業用の愛想笑いを返しておく。

「いえ、いつものことです」

そう言いつつ、相手と机を跨いで反対の席へ座る。洸雅がものすごい剣幕で睨んできたが無視。

「それでは本題に移りたいのですが…」

俺の言葉で、その空間全体に緊張感が充満していく。

「…本当に奴なんですね?」

「はい、間違いありません。『白』も手元に戻っているようでした」

…『白の眷属色』の最高峰、純色の『白』か…前回もそうだったが、厄介だな。

「そもそも何故外にいる?」

洸雅の問いに、苓は少し肩を震わせる。それは恐怖によるものではなかった。

「…詳しくはわかりません。ですが、誰かが解いたと思われます」

俺の背中に悪寒が走る。

「…そこら辺の人間に解けるものなのか?」

「いえ…色箱を媒体にした結界ですし、色神一族しか不可能なはず…」

「…いや、色神一族は5年前にほとんど滅びたはずだ」

俺の心の傷口から、無惨に血が流れ落ちてくる。ということは、生き残った俺の兄弟か?


「見れば見るほど趣味の悪い館ね…」

オランダのとある廃城…草木が生い茂り、陽光さえ届かない。そのせいか昼間のはずなのに、懐中電灯がないと安全にも歩けないという状態だ。

「…一列に並んで突入する」

統率者である美影に従い、11人が美影の後ろに並ぶ。先頭の統率者が入り口に手をかける。

「…チタン合金製か。破壊対策用だな」

美影がポツリと呟き、鍵に触れる。途端に鍵が溶けて液化しだす。滴る滴は空中で霧状になって消える。

手を離すと、扉は独りでに開きだす。12人は足音を立てずに中に侵入。中には縦横無尽に道と部屋が広がっている。

「…これは手分けするしかないんじゃない?」

オレンジの髪の少女が、無機質な声で囁く。美影は重々しく頷き、左手を小さく挙げる。

「…バラバラに散って『夢魔』を捜索する。いいな?」

リーダーの指令に、全員が頷く。


舜は出入り口に面した階段を上がっていた。

壁には何やら肖像画らしきものが飾ってあるが、汚れたり破れたりしていて、見るも無惨だ。

階段を登り終えると、長く続く廊下の先にポツリとドアがあった。警戒しながらドアに近づく。

「…趣味悪いな…壁に磔の骸骨とか…」

ゆっくりドアノブに手をかける。錆び付いているせいか、うまく回らない。

「…あぁもうっ!」

舜はイライラしているのか、思い切り回す。

パキリ。

鈍い音と共に、ドアノブだったものが床に落下。脆くなっていたらしく、根本から折れてしまったのだ。

「…まぁ、いーか」

舜は全く気にしない様子で、部屋の中へと入る。

立ち込める臭気。嗅ぎ慣れたこの臭いは、血と薬品の混ざったものだ。

「…何ここ、人体実験でもやってたの?」

闇に覆われた空間を懐中電灯で照らす。遺体や薬品棚らしきものはなかった。壁や床を見渡してみると、黒い染み。

「…やな部屋」

辺りにドアはない。行き止まりのようだ。

一旦戻って美影と合流するか。そう思い、部屋を出ようとする。

ガタンッ…

「…え?」

いきなり床に穴が開く。もちろんそこに立っていた舜は、為す術もなく落下。


真は入ってすぐ左手にある部屋に入った。その部屋にも縦横無尽に部屋があった。

「迷路かよ…ったく」

渋々と1つ1つ部屋を確認していく。幸いなことに、先に続いている部屋は1つだけだった。

「迷うし、道は1つにしてくれよ」

壁や床には黒い染み。真は嫌な思考を振り払うように前へ進む。

…先には何かがある。 …しばらく進むと、比較的広い空間に出た。部屋の隅にはベッドらしきものがあることから、ここは寝室だったのだろう。

…だいぶ使われていないらしく、布団の上は埃まみれだった。

「うわっ、埃だらけじゃん…」

真は布団に積もった埃を見て言う。

「ったく…」

綺麗好きの彼は埃を叩く。そして、布団が床に触れた瞬間…

カチリッ。

何かのスイッチが入るような音がする。

「…何今の音。なんか嫌な予感が…」

ガチャリッ。

突然真の足元の床が抜ける。対侵入者用のトラップのようだ。

「マジで?!そんなのありかよ!」

真は叫びながら、為す術もなく落下。

輝は斜め前にあった階段を上っていた。優れた聴力を持つ彼の耳には、この屋敷に住み着いたネズミが動く音さえも聞こえ る。

「うえぇ…」

天井には見たこともないくらい巨体の蜘蛛。近付くと8つの目玉もはっきり見てとれる。…そんな勇気はないが。

何かが擦れる音。ふと床をみると、世界最大と言われるアナコンダより遥かに巨体の蛇。模様からするとクサリヘビだ。

「なんでこんなにでかいんだよ…」

生理的嫌悪を催す生物達を他所に、輝はひたすら先に続く道を探す。辺りに扉はない。行き止まりだろうか。

「戻ろうかな…」

輝は踵を返し、来た道を戻り始める。すると、巨体の蜘蛛と蛇が騒ぎ出す。

「…?」

輝は生物達が騒いでいるのに気づき、ふと振り返る。

「…うえ、気持ち悪い。見なきゃ良かった…」

顔をしかめ、再び戻ろうと前を向く。…向いてしまった。

「…あぎゃあぁぁああ!」


南は右手奥にある扉に向かっていた。扉を開けて中に入る。埃まみれだが、宝石を象った豪勢なシャンデリアが飾ってある。

「うっへ、埃が酷すぎる」

南は埃を振り払いながら先へと進む。

…段々甘い臭いが鼻先を掠めてくる。誰かいるのだろうか。しかし、この臭いは食べ物の臭いではない。

しばらく進んでいくと、突き当たりに辿り着いた。甘い臭気はこの先から漂ってくる。

「…通路がないのに臭気は来る…てことは、壁のどこかに穴が開いているのか?」

南はすかさず壁を散策し始める。壁は埃や蜘蛛の巣に覆われており、直接触るのには抵抗がある。

南は仕方なく、近くに落ちていた鉄の棒で壁をつつきだす。手応えのある場所を発見。

「あれ、ここひび入ってる」

鉄の棒が当たる度、壁はパラパラと音を立てる。

南は鉄の棒をひびに突き刺し、無理矢理穴を開ける。その穴から隣の部屋を覗く。そこには、綺麗に塗装された壺が安置されたいた。

「…なんで壺…?」

南は心底がっかりした様子だ。

ガチャリッ。

足元の床が突然抜ける。壺に気を取られていた南はそのまま落下 。

「なんでトラップなんか仕掛けてあんのよーっ!」

部屋には彼女が落ち際にはなった、断末魔に近い叫び声がこだまする。


あちこちから途切れとぎれの断末魔が聞こえる。どうやら全員トラップに引っ掛かったようだ。

「…」

少年は黙って正面の階段を上がっていく。

手すりには何かがぶら下がっている。暗闇では分かりにくいが、人の死肉が垂れ下がっていたのだ。

「…」

少年は何も言わず、ただひたすら歩いていく。

しばらく歩いていくと、何やら薬品の強い臭いが漂ってくる。周囲に並んだ硝子管の中には怪しい液体。その中に桃色の物体が浸かっている。

「…人間の内臓か」

桃色の物体をよく見ると、脳に心臓、肺や胃腸に膵臓。その他の内臓が並んでいる。全て怪しい液体の中に浸かっていた。

不意に美影が後方へ跳躍。先ほどまで立っていた場所に、無数の槍が突き立つ。全方に影。幽かに羽音が聞こえる。

「…ここが当たりか」

少年の指先に光。指先からレーザーが放たれる。

影は光速で反応。レーザーは標的を捉えきれず、天井に着弾。周囲に光が跳ねる。

「いきなりレーザーですか…もっとゆっくりなさったらどうです?」

一瞬だけ、相手の冷たい美貌が光に照らされる。光を失った闇で、紅い2つの光が美影を捉える。

「…」

美影もそれに呼応するように、捕食者の目を向ける。

「おや、観客がご到着のようですね」

影は壁の方へと移動。壁際だけが淡い緑の光に照らされる。そこには、美影以外の十二使者が硝子管に捕らえられていた。


チャットルーム


―Agさんが入室しました―

―不死鳥さんが入室しました―


Ag)【…ん?】

不死鳥)【…なんかその名前で、不吉な相棒を連想します】

Ag)【あ、奇遇ですね。俺もです】

不死鳥)【まぁ、ここに来るのは初めてですが、よろしくです】

Ag)【あ、はい】


―中枢さんが入室しました―


中枢)【おや、新入りさんですかね?】

不死鳥)【よろしくです】

中枢)【見たところ、Agさんとリア友か何かですか?】

不死鳥)【あいつと友達などヘドが出る…いえ、Agさんとは初対面のはずです】

Ag)【口調もあいつそっくりだな…不死鳥さんはそんなに腐ってないけど】

中枢)【なんか嫌味を言い合ってるようにしか見えないよ;】

不死鳥)【いえいえ、そんなことはございませんですよ】

Ag)【うんうん。初対面の相手に嫌味だなんて、あり得ませんよ】


―中枢さんが退室しました―


Ag)【あら?もしかして怒っちゃいました?】


―中枢さんが入室しました―


中枢)【いやぁ、ついマウスを握りつぶしちゃって】

不死鳥)【…はい?】

中枢)【スペアのマウスに替えてたら自動退室してたみたいです】

Ag)【マウスって…パソコンのマウスですか?】

中枢)【そうだけど、どうかした?】

不死鳥)【素手で握りつぶせるもんなんですかね…?】

中枢)【さぁねww】

Ag)【あ、そろそろ仕事なんでこれで失礼します】


―Agさんが退室しました―

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