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色彩  作者: 帝王星
京の妖刀
10/12

10色

埼玉のある洞窟、そこに彼はいた。

「…」

洞窟の入り口の鳥居の奥、大きな岩に貼り付けられていた。

「…」

…彼の自由を奪ったのは、当時12歳だった少年だ。

動こうとしても、彼の体を拘束する鎖が許さない。口を開いて何かを言おうとしても、その口に幾重に巻かれた縄が許さない。 目や耳で外の状況を把握しようとしても、周囲に張り巡らされた札と結界式が許さない。

これを解けるのは、あの一族の末裔のみ。動けず、食事もできない状態の彼の命を繋ぎ止めているのは、彼の腹に埋め込まれた『色箱』だった。

《…必ず裁きを下す…色神銀…私をここに封じ込めたこと、後悔させてやる…!》

唯一彼がここに閉じ込められて得たものは、対峙したもの全てを食い殺しそうな殺意の念だった。

「…いいよ、出してあげる」

…耳は聞こえないはずなのに、そんな声が聞こえた気がした。だが今まで一度も、それが本当だったことはない。

《…嘘に決まっている。誰もこんなところまで入ってくるはずがない》

そうだ、例え誰かが来てくれたところでこの結界を破れなければ意味はない。暗転。彼は考えるのを一度やめた。まずは力を蓄えなければならない。自身をこんな目に遭わせた、色神銀を地獄に叩き落とすために…


「起きろ、着いたぞ」

蒼は隣で寝ている少年を叩き起こす。

「あと1時間寝かせて…」

「却下だ」

ノッカの小さな願いすらも、蒼は一言で切り捨てる。

「あいつの情報によると、一旦金龍を倒して日本に戻っているようだな」

携帯の画面を見ながら、彼は仏頂面で呟く。

「じゃ金龍のほうを先に終わらせたら?」

「…嫌でもそうなるか」

ノッカの提案に、渋々賛同する。余程朱雀族を倒したかったのだろう。

「そんな気落とさなくても…別にそれまでに死ぬわけでもないんだし」

「…死んでもらっては困る。奴は俺が倒す」

再び蒼の双眸に復讐の火が点る。

そう言いながらも、2人は中国の大地に立った。

「…ここ最近で膨大なエネルギーが観測されたのは4箇所。うち1箇所が金龍の住処とされる洞窟」

「間違いないな」

蒼も電子地図で場所を確認。2人の顔から表情が消える。

「…殺るぞ」

「了解…♪」

ノッカの服の袖から色とりどり の宝珠が出てくる。そのうちの1つが弾け、見上げるほどの大きさの飛竜が現れる。目があるはずの場所には…ただなにもない空間が存在していた。

ノッカと蒼はその飛竜の背に飛び乗る。同時に、飛竜が2人を乗せて飛び立つ。

「金龍の洞窟に、レッツゴー♪」

「油断はするなよ」

蒼の問いに、ノッカは無邪気な笑みで答える。

「僕が油断したこと、一度でもあった?」

蒼はそれを聞いて、表情を若干和らげた。

「…奴等が洞窟から無事に出たということは、金龍を討伐したか撤退したか…だが今までの経歴からすると、撤退という選択肢はないに等しいな。恐らく倒したのだろう」

無機質な声で蒼は淡々と分析する。

「どうやって倒したか不思議だねー。金龍は結界を貼ってるから、ほとんどの攻撃は効かないのに」

ノッカがそう言うと、蒼の表情が若干歪む。

「…ノッカ、多分そうだろうが、朱雀狩りより金龍狩りを楽しみにしてただろう?」

大正解と言わんばかりに、ノッカの顔に無邪気な笑顔が浮かぶ。

「だって宝珠の材料手に入るじゃん♪」

ノッカは笑いながら、腕全体に巻かれた包帯に手をかける。だが、蒼の手によって止められる。

「…今はまだそれを外す必要はない」

若干緊張感のある声だった。

「何でぇ?」

「…いいから、今は使うな」

まるで、自分にも危害が及ぶような態度だ。

「はいはい」

ノッカは渋々頷き、包帯を解こうとした手を引っ込める。包帯の隙間からは依然小さく赤い光が漏れている。

…流石に、まだ十分に扱えないノッカに『あれ』を使わせるのは自殺行為だ。蒼の額に薄く冷や汗が流れる。

「…ちゃんとコントロールしきれるようになるまでだ」


瓦礫の散らばる洞窟の前に、飛竜がゆっくりと着地する。

「まだ熱気が残っているのか…」

足を踏み入れると、まるでサウナの中にいるかのような蒸し暑い感覚に襲われる。

「岩石も冷えきってない…所々溶けて液体化してるし…」

通常なら見ることはまず不可能な光景に、ノッカは息を飲んだ。

「…まずは金龍の死骸の欠片でも探すか」

蒼は小さくため息をつき、洞窟の奥へと進んでいく。ノッカも蒼のあとに続いて奥へ 進む。

「蒼、大丈夫?玄武族は高温に弱いし…」

ノッカは横で荒い息になっている相方に、水色の宝珠を渡す。宝珠から、透き通った水色の鱗を持つ竜が現れる。

竜族の中では希少種とされる『氷竜』だった。暑さに弱い体質に加え、気温40度超えという環境が蒼の体力を奪っていた。

「氷竜、『凍結』」

ノッカの指示で、氷竜が吹雪の吐息を吐く。すると、溶岩状になっていた壁もみるみる氷に包まれていく。

「これで少しは気温下がったんじゃない?」

ノッカが得意気に言う。 蒼の顔色も、若干良くなっていた。

「…すまない、これでしばらくは持ちそうだ」

立ち上がり、金龍を探すため奥へと進む。ノッカは氷竜でひたすら溶岩状になっている壁を凍らせていく。

「金色の鱗だからな…落ちてたら目立つはずだが…見当たらないな」

蒼の言う通り、金龍の鱗らしきものは見当たらない。

「もしかして…全部なくなっちゃったのかな?」

もしそうなら、新たに金龍を探して討伐しなければならない。

「『磁波針光』」

蒼の指先に、小さい円式が現れる。

「金属質なら、これで探せるはずだ」

円式から細い波が生まれる。すると、積み重なった瓦礫の中から何かが出てくる。

「もしかしてあれじゃない?」

埋もれていたせいか、金色ではないが。 ノッカが中に浮いていた『それ』を摘まむ。

「擦って金色になれば当たり…っと」

そう言い、ノッカは布で一心不乱に磨き始めた。


「洸雅ー、帰ったぞー」

あのあと、青兄さんの墓に花をお いて黙祷を捧げてきた。

「死んでたら返事しろー」

いつものように、軽く冗談をいいながら事務所のドアに手をかける。…開かない。洸雅の奴、鍵でもかけてやがるのか?

「開けろ洸雅」

言いつつ色箱を構える。ドアノブを回すが、依然開かないままだ。…仕方ない、無理矢理こじ開けるしかないか。懐から昔の依頼の報酬にもらったマスターキーを取り出す。

「まさか本当に死んでんの?嬉しいなぁ」

普通の洸雅なら、こう言えば腹を立てて出てくるはずだ。…だが、ドアが開く気配はない。

「…本当に何かあったのか」

すかさず『赤銅色』を開箱。鍵を切ってドアを蹴破る。

「洸雅っ!大丈夫か!」

返事はない。事務所の中は普段と違い、焼け跡の臭いがした。火に炙られたのか、壁や床も黒ずんでいる。手当たり次第に部屋を開け放つ。応接間、事務室、洸雅の部屋…

「洸雅!」

物入れ、裏倉庫、書斎…本当にどこにもいない。ふと床をみる。黒ずんだ床地に、点々と赤い染みが付いている。…俺の嫌いな鉄の臭い…血の臭いだ。赤い染みは2階へと続いている。

「…俺の…部屋か…」

唾を飲み込み、階段を一段一段踏みしめていく。部屋のドアに鍵はかかっていなかった。取っ手をゆっくり回す。

一気にドアを開け放つ。そこには、俺のベッドの上で安らかに眠る洸雅の姿があった。肩の辺りの傷から血潮が流れ出て、俺の布団を赤く染めていく。

「…自分の部屋で寝やがれクソ朱雀!」

叫びながら布団を剥ぎ取る。そもそも止血くらいしろ。

「…なんだ銀、帰ってたのか」

どうやら出なかったのは眠っていたかららしい。

「大体なんだよこの有り様、壁も床も黒焦げだし、なんか焦げ臭いし…」

俺の問いに、洸雅が黙りこんだ。

「…分からない。俺が気付いたときには既にこうなっていた」

「… は?」

だったら事務所をこんな有り様にしたのは、一体誰だというのだろうか。

「それに、いつの間にか刀で斬られていた」

洸雅は自嘲的な笑みを浮かべ、肩の切り傷を押さえる。まだ痛むらしく、洸雅の顔が痛に歪む。

「…刺客か?」

洸雅はどこからか止血用の札を出し、傷口に貼っていく。その上から包帯を巻いていく。

「…無視かよ」

やはりこいつは気に食わない。1階から無粋な電話の音が鳴る。

「雑用係、とっとと行ってこい」

わぁ酷い、心配してくれてた相棒を雑用扱いですか。渋々下へ降り、電話の受話器をとる。

「はい、こちらなんでも屋の色神です」

依頼を受けるときの営業口調で話す。

「始めまして」

声からすると、20前後の女性のようだ。

「始めまして。まずはお名前をお伺いして宜しいでしょうか」

敬語だらけのしゃべり方は性に会わない。

「はい、東宝苓と言います」

…東宝…聞き覚えがあるが思い出せない。

「依頼の内容は、ある輩を倒してほしいのです」

思ったよりシンプルな内容だった。殺人者の駆除や個人的な復讐のための依頼が舞い込んでくることも、そんなに少なくはない。

「分かりました。それで、倒してほしい相手とは?」

そして俺は、次に相手が発した人物の名前で絶句することになる。


鴻章の著書より抜粋。

芸術とは作品であるし、作品を作る技術である。

作品に概念は存在しない。作られるもの全てが作品であると考えられる。

そう捉えると、人間を初めとする地球上の生物の排泄物、二酸化炭素…太陽の発する光さえも作品であると捉えることができる。

だが僕はそんなことに興味はない。僕自身も親の遺伝子から作られた作品であるからだ。

作品とはあくまで人間の言語であるから、人間が生み出したものと思いたい。

僕の考える至高の芸術の1つに、師が育てた弟子がある。

弟子を育てるというのは、宝石の原石をただ磨くという単純作業である。

勿論弟子の元々の素質も大事だ。更に、磨き手である師に必要不可欠なのが技術である。最高級の宝石の原石だろうが、磨くのに失敗して傷がついてしまえば意味はない。

小さな失敗は、徐々に作品全体を蝕んでいく。患部が全体を蝕む前に、失敗は速やかに取り除かなければならないのだ。

師と呼ばれる皆さん、弟子を育てるときには是非覚えていてほしい。短時間で作品は絶対完成しない。焦りは失敗作を生み出す。



チャットルーム


―守銭奴さんが入室しました―


中枢)【新入りさんですか?】

守銭奴)【あぁ。チャットっつーのはあんまやらないから慣れてねーけど、宜しく】

中枢)【こちらこそ】

守銭奴)【…なんか堅苦しいな】

中枢)【いえ、初対面の方に対する礼儀ですよ】

守銭奴)【礼儀というものは、自分の醜態を隠す皮の役割しか果たさない】

中枢)【例えそれが皮でしかなくとも、自分のやりたいようにするだけですが】

守銭奴)【…ほう、ほほう!】

中枢)【どうかしました?】

守銭奴)【まさか俺の会話の流れに乗ってくるやつがいるとは…気に入った!】

中枢)【…いきなりですか;しかもかなり上から目線…】

守銭奴)【あんた、もしかして鴻章?】

中枢)【どうやったらそこに結び付くんですか】

守銭奴)【いやー、自分の利益だけをひたすら考えているその合理的思考は鴻章ではないかなと…】

中枢)【駄目ですよ、ここでは相手の正体を探るなんてタブーです】

守銭奴)【え】

中枢)【あ、最新情報が入った】

守銭奴)【内容はどんな?】

中枢)【埼玉県にある洞窟が大破。原因は相当な規模の破壊系式術と推測される】

守銭奴)【…『白き洞窟』?】

中枢)【…のようです】

守銭奴)【確かそこ、なんかヤバイ化け物が封印されてるって聞いたことあるぜ?】

中枢)【化け物とは?】

守銭奴)【あぁ、聞いた話、白い怪人だってさ】

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