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産廃屋のおっさんシリーズ

産廃屋のおっさん、魔獣肉を食って少しセンチになる

掲載日:2026/04/25

異世界に来てからも、なぜか「何もしていないのに評価が上がる」おっさんの話です。


今回はちょっとだけ雰囲気を変えて、

騒がしい宴のあとに、ほんの少しだけ静かな時間を挟んでみました。


肩の力を抜いて読んでいただければ嬉しいです。

最近、このあたりの森で異変が起きていた。


木の実が、不作らしい。


その影響で――


「また出たぞ!!」


村に緊張が走る。


森から、魔獣が降りてきた。


毛並みは荒れ、明らかに痩せている。

目だけが、ぎらついていた。


飢えている。


(……どっかで聞いた話だな)


ユージはぼそりと呟く。


どこぞの山でクマが出る、みたいな話。

あれだって洒落にならないが――

こっちは、比べものにならない。


「逃げろ!」


村人たちが散る。


子どもが泣く。

荷が倒れる。


混乱。


その中で――


「っ……!」


小さな影が、転んだ。


幼い子どもだ。


立ち上がれない。


魔獣の視線が、そちらに向く。


(あー、これダメなやつだ)


ユージは舌打ちした。


走る。


考える前に体が動いていた。


子どもを抱え上げる。


「ほら、行け!」


背中を押す。


子どもが転びながらも逃げていく。


――そして。


ユージだけが、残った。


魔獣と目が合う。


(よし、最後の手段だ)


ユージは、その場に倒れ込み、全力で死んだふりをした。


しかし、魔獣はお構いなしに襲いかかる。


(ダメだ、終わった…)


次の瞬間。


一閃。


音が、遅れて届いた。


魔獣の首が、地面に落ちる。


ナーチャンが剣を払った。


「……無茶をなさいます」


低い声だった。


ユージは肩をすくめる。


「ありがとう、助かったよ」


「子どもを庇うためとはいえ――」


「気付いたら体が勝手に反応してたんだよ」


それだけだった。


ナーチャンの眉がぴくりと動く。


「その結果、ご自身が危険に晒されているのですが」


ナーチャンが一歩、詰める。


「ナーチャン、近い近い!」


「ユージ様」


視線を外さない。


「あなたは私たちの――いえ、この国にとって重要な方です」


静かに、しかし強く言う。


「もしものことがあれば、どうなるか……ご理解いただけますよね?」


ユージは頭をかく。


「……わかった、悪かったよ」


一応、謝る。


「次からは気をつける」


一拍。


「たぶん」


「たぶんとは何ですか!」


即座に返る。


「もう少し真面目に――」


「ところでさ」


ユージが遮る。


空気が止まる。


ユージは魔獣を指さした。


「説教もいいけど」


一拍。


「こいつの肉って、食えるのか?」


沈黙。


――数秒後。


「……はい。美味とされています」


「じゃあ決まりだな」


何が決まったのかは、誰にも分からなかった。



「……随分と痩せていますね」


アルノルトが魔獣を観察しながら言った。


「脂肪は少ない。筋繊維も硬い」


神楽耶が頷く。


「飢えていた個体だ。当然だな」


「食用としては……やや難ありですね」


少し空気が落ちる。


その時だった。


「いや、問題ない」


ユージが言った。


全員の視線が集まる。


「硬い肉なら、やりようあるだろ」


「……やりよう、ですか?」


アルノルトの目がわずかに光る。


「玉ねぎ、あるか?」


「ありますが……」


「すりおろして漬けとけ」


「……?」


「柔らかくなる」


沈黙。


「あと、薄く切れ」


「厚いと無理だ」


アルノルトがすぐに動く。


「……なるほど」


ナイフが走る。


「繊維を断つ方向でスライス……理に適っています」


「焼きすぎるなよ」


「水分飛ぶと終わる」


「……非常に合理的ですね」


ナーチャンが小さく呟いた。


ユージは適当に答える。


「安い肉食ってると覚えるんだよ」


その言葉に、


なぜか全員が納得した。


「あと、内臓は放置しないでキチンと埋めておいてくれ」


「出来れば石灰かけて」


「腐臭は新たな魔獣を呼ぶからな」


「廃棄物の適正処理は産廃屋の基本だぞ」


(いや、俺たちは産廃屋じゃないんだけど…)


しかしまわりの皆は、その言葉を飲み込んだ。



肉が焼き上がる。


アルノルトが一切れ差し出す。


「試してみてください」


恐る恐る口に運ぶ。


――次の瞬間。


「……おお!」


歓声が上がる。


「柔らかい!」


「うまい!」


「脂がないのに……いくらでも食えるぞ!」


「これは当たりだ!」


空気が一気に変わる。


「おい、もっと焼け!」


「酒持ってこい!」


一瞬で宴が始まった。



「どうせならさ」


ユージが言う。


「みんな呼んで、盛大にやろうぜ」


少し笑う。


「俺、バーベキュー大好きなんだ」


――結果。


宴はさらに膨れ上がった。



宴は、思った以上に盛り上がった。


肉は次々と焼かれ、

酒が回り、

笑い声が絶えない。


気づけば、タケシトが勝手に仕切り始めていた。


「さあ始まりました! 第一回、のど自慢大会!」


「いや誰が許可したんだそれ!」


「優勝者には追加肉!」


「やる!!」


一気に参加者が増える。


そのまま流れで、隠し芸大会まで始まった。


(なんでこうなるんだ……)


ユージは苦笑する。


だが、嫌いではない。


こういうのは、嫌いじゃない。


気づけば、日が落ちていた。


焚き火の明かりだけが、周囲を照らしている。


騒ぎは、少しずつ落ち着いていく。


笑い声も、まばらになる。


その頃になっても――


ユージは、変わらず肉を焼いていた。


誰に言われたわけでもない。


ただ、なんとなく。


焼き続けていた。


ぱちり、と火が弾ける。


煙が、ふっと目に入る。


「……っ」


少しだけ目を細める。


その時だった。


じゅう、と音が鳴る。


肉の脂が落ちて、火が焦げる音。


その音に――


手が止まる。


(……唐揚げ)


一瞬。


ほんの一瞬だけ、思い出す。


昼休み。


コンテナの影。


どうでもいい会話。


どうでもよかったはずの時間。


「……ヨーコちゃん、元気にしてるのかな」


ぽつりと、こぼれた。


そして、チクリと胸が痛んだ。


(あの世界に、まだ俺の居場所はあるのだろうか)



「ユージ様」


ナーチャンの声。


「どうかなさいましたか」


ユージは我に返る。


「ああ、悪い」


肉をひっくり返す。


「ちょっと昔のこと思い出してただけだ」


「昔……」


ナーチャンの胸が、わずかにざわつく。


(元の世界……)


この男には、帰るはずだった場所がある。


だが――


(私は、それを)


思考が止まる。


「……問題はございませんか」


声を落とす。


ユージは一瞬きょとんとしたあと、


にやり、と笑った。


「ん?」


「もしかして」


間を置く。


「俺のこと、心配してくれた?」


「……」


「いやあ、困るなあ」


肩をすくめる。


「モテる男は――」


バシッ!


ボキッ!


「ギブギブギブ!!」


腕が極まる。


「暴力はいかん!!」


「……軽口が過ぎます」


「え、マジで心配してたの?」


ナーチャンのこめかみがぴくりと動く。


「……もう知りません」


踵を返す。


「あーあ、行っちゃったよ」


ユージはぼやく。


「何怒ってるんだ、あいつ」


少し離れた場所で、神楽耶が呟いた。


「……本当に分かっておらぬな」


「何がだよ」


神楽耶は目を細める。


「お主は」


一拍。


「鋭いようで、肝心なところが抜けておる」


ユージは苦笑した。


「そんな器用じゃないんでね」



焚き火の音だけが、静かに響く。


遠くで、まだ笑い声が残っている。


だが、さっきまでの騒ぎはもうない。


――ただ一人。


ナーチャンだけが、少し離れた場所で足を止めていた。


(ヨーコちゃん……)


胸の奥が、わずかに締め付けられる。


(その人は……どんな顔をして彼の隣にいたんだろう)


視線を落とす。


(ユージ様が、帰るはずだった場所の……)


言葉にはしない。


(……誰なんだろう)


小さく息を吐く。


その感情の名前を、


まだ、知らなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


騒がしいだけで終わらず、

ほんの少しだけ「元の世界」を思い出す回にしてみました。


ユージにとっては何気ない記憶でも、

ナーチャンにとってはちょっと重い話になっているのがポイントです。


連載中の本編もよろしくお願いします。

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