第9話:通信革命:繋がる心と見えざる敵
極夜の工場を再起動させ、健太が進めたのは**『世界魔導ネットワーク』**の構築だった。
各地に建設された魔導通信塔が、不可視の電波――いや、「変調マナ波」を大陸全土に飛ばし始める。
「これで、王都から北の果てまで、一瞬で声が届くようになる。情報の格差がなくなれば、無駄な争いも減るはずだ」
健太が管理センターで最終調整を行っていたその時、センターの重い扉が**「バキィィィン!」**と派手な音を立てて吹き飛んだ。
「ちょっと待ちなさい! この通信プロトコル、効率が悪すぎるわ! 誰よ、こんな野蛮な設計をしたのは!?」
砂煙の中から現れたのは、油まみれの少女だった。
「……誰だ、君は? ここは立ち入り禁止だぞ」
「私はアイリス! 失われた『空の民』の技術を継承する唯一の天才よ! あんたが噂の『ガラクタ賢者』ね? 鉄道だか何だか知らないけど、あんな重たいものを走らせるなんて、美意識を疑うわ!」
アイリスは健太のデバイスをひったくると、目にも止まらぬ速さで分解し始めた。
「ちょ、おい! それは俺の……!」
「いいから黙って見てなさい! ほら、このマナの共振回路……ここに『古代の記憶』を組み込めば、通信速度は100倍になるわ。あんたの知識、理論はいいけど実働部が古臭いのよ!」
健太は驚愕した。彼女が勝手に取り付けた「石の欠片」――それは、かつての魔法黄金時代に作られた、マナをデジタル処理するための**『古代の半導体』**だった。
アイリスの強引な「アップデート」により、ネットワークは爆発的に普及した。人々は手元の水晶板(スマホ代わりの魔導具)で、大陸中のニュースを見られるようになった。
しかし、便利さと引き換えに、恐ろしい事態が発生する。
「……健太様、様子がおかしいのです。各地の通信塔から、身に覚えのない『メッセージ』が勝手に配信されています。……『魔法を捨てた者に呪いあれ』『科学は魂を蝕む毒だ』……。人々が、この言葉を信じて暴徒化し始めています」
エルナが震える手で報告する。
それは、現代で言うところの**『SNSによるデマの拡散』、そして『情報操作による洗脳』**だった。
「これは……情報のウイルスか。誰かがネットワークを通じて、人々の『負の感情』を増幅させている……!」
「私の回路にバックドアを仕掛けた奴がいるわね……」アイリスがゴーグルを下げ、険しい表情になる。「健太、これはあんたの『科学』のせいでも、私の『古代技術』のせいでもない。これを使っている**『誰かの意志』**が腐ってるのよ」
その時、管理センターのすべてのモニターが一斉に暗転し、一人の男のシルエットが浮かび上がった。
『――素晴らしい。知恵が繋がれば繋がるほど、憎しみもまた加速する。これこそが、私が望んだ「世界の終焉」への道筋だ』
「……あんたが黒幕か。名前を名乗れ」
『名前? そんなものは捨てた。私はただの**「管理者」**だ。健太、君は世界を便利にしすぎた。人間は、便利になればなるほど、自分の頭で考えることをやめる。そして、私の流す「心地よい嘘」に溺れていくのだ』
男の背後には、あの『赤い結晶』が山のように積まれていた。
彼は、人々の憎しみをマナに変換し、世界を再構築しようとする、この世界の「創造主」を自称する狂信者だった。
「……健太、どうする? ネットワークを遮断すれば、デマは止まるわ。でも、あんたが作った『繋がり』も消えるわよ」
アイリスが、健太の顔を覗き込む。
健太は、静かにキーボードを叩いた。
「遮断はしない。……嘘を止めるのは、沈黙じゃない。**『圧倒的な事実』**だ」
健太はアイリスの手を取り、デバイスの入力端子に繋いだ。
「アイリス、あんたの古代技術で、俺の『現代の暗号化プロトコル』を世界中に配信してくれ。デマを検知して自動で削除する『AI(人工知能)』の雛形を、今ここで、魔法陣として書き上げる!」
「ふん、面白そうじゃない! 未来の知恵と古代の技、どっちが上か……いや、混ぜたら最強だってことを教えてあげるわ!」
二人の天才が、一つの画面に向かって火花を散らす。
エルナは、その背中を見守りながら、新たな時代の胎動を感じていた。




