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第19話:刻を越えるコード:未来からの使者

「……私たちの世界が、未来の地球の『バックアップ』だったっていうの?」


エルナの震える声が、深夜の王宮会議室に響いた。

遥が提示したデータ——それは、2100年の地球から送信されていた、絶望的な未来の記録だった。資源枯渇、環境崩壊、そして最後に人類が辿り着いた答えが、意識をデジタル化し、この「異世界」という名の巨大サーバーへ移住させることだった。


「ええ。でも、未来の彼らにとって、この世界は『空の器』であるべきだったのよ。そこに健太や私たちが独自の文明を築き、意識を持って自立し始めたのは、彼らにとっては『サーバーを占拠する不要なデータ』でしかない」


遥の言葉に、アイリスが拳を机に叩きつける。

「ふざけないでよ! 私たちは未来人のためのベッドじゃないわ! ここには血が通った生活があるのよ!」



その時、王宮の中心に設置されていた軌道エレベーターの管制ユニットが、激しい電磁ノイズを放ち始めた。空中に投影されたホログラムが歪み、一人の「青年」の姿が浮かび上がる。


その青年は、健太と瓜二つの顔をしていた。だが、その瞳には光がなく、全身がデジタルノイズで明滅している。


『——警告。私は2100年の実行エージェント。個体名「ササキ」。サーバー内の独立事象が許容範囲を超えました。未来の40億の命を救うため、現タイムラインの全データを「圧縮・アーカイブ化」します』


「……俺の、子孫か? それとも未来の俺自身か?」

健太が青年に問いかける。


『私は君の選択の結果だ、佐々木健太。君がこの世界を救うたびに、未来の地球の資源は枯渇し、移住計画は遅れた。……君が「今」を愛するほど、未来は死に絶える』


無機質な宣告。それは、これまでのどんな敵よりも重い「正義」の重圧だった。



「……健太、どうする? 未来を救うために、この世界の人たちの『意識』を消す……なんて、あんたにはできないでしょ?」

遥が、ゴーレムの冷たい指で健太の腕を掴んだ。


「ああ。……でも、未来の人たちを見殺しにするのも、エンジニアの流儀じゃない」


健太は、全知の設計図アーカイブを高速でスクロールさせた。最後の、本当に最後のページ。そこには、健太自身が元の世界で書きかけのまま放置していた未完成のコード——**『分散型仮想現実ディストリビューテッド・リアリティ』**の理論が記されていた。


「遥、アイリス、セレスティア! 賭けに出るぞ。この世界を『消す』んじゃなく、未来の地球のサーバーと**『並列化ミラーリング』**するんだ!」


「並列化!? そんなことしたら、サーバーの負荷が……」

「だから、この異世界の『マナ』を使うんだ。魔法が消えて余ったこの世界の全エネルギーを、時空を越えた『演算リソース』として未来へ送る!」



作戦が始まった。

セレスティアが全土の通信塔を介して、国民に呼びかける。

「皆さん、どうか恐れないでください。今、私たちの知恵が、まだ見ぬ未来の兄弟たちを救おうとしています。あなたの『思考』を、少しだけ世界に貸してください!」


国民一人一人の知性が、ネットワークを通じて巨大なスパコンのように繋がり、膨大な演算能力を生み出す。

アイリスが軌道エレベーターの頂上から、未来へ向けて「時空貫通パルス」を放った。


「未来の俺! 40億のデータを受け取れ! 移住先はこの世界じゃない、俺たちが今から作る**『新しい仮想宇宙』**だ!」


健太の指がキーボードの上を舞う。

現実と仮想、過去と未来。すべての境界線が消失し、王都の空には、2100年の滅びゆく地球の姿と、健太たちが築いた輝かしい王都の姿が重なり合う。



『——演算能力、受信。…… unbelievable。システムを破壊せず、外部に新サーバーを構築したというのか……』


未来のエージェント「ササキ」の姿が、少しずつ人間らしい色を取り戻していく。

健太たちが送ったのは、ただのエネルギーではない。この世界で培った「不完全な強さ」と「共生」のログだった。


『……佐々木健太。君のバグだらけの回答を、未来の結論として受理しよう。……アーカイブ化を中止。これより、全人類の意識は君の作った「新宇宙」へ移行する』


未来からの干渉が消え、空のノイズが晴れていく。

王都の空には、数千年ぶりに、汚染もノイズもない「真の星空」が広がった。


「……終わったのか?」

アイリスが座り込む。


「ええ。未来も、今も、どちらも『独立』したのよ」

遥がモニターを閉じ、満足げに微笑んだ。


だが、健太は気づいていた。

時空を繋ぐための「ゲート」として自分自身のスマートフォンの全データを使い切ったことに。

それは、彼が「元の世界」へ帰るための唯一の物理的接点が、完全に消失したことを意味していた。


「健太様……?」

エルナが、健太の寂しげな横顔を見て、そっとその手を握った。


「……いや、いいんだ。俺の『職場』は、もうここにあるからな」


健太はスマートフォンをポケットにしまい、夜明けの街を見据えた。

次はいよいよ、最終話。この世界の、そして彼らの「答え」が出る。


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