第11話:再起動(リブート)の残響
「創造主」が消滅し、浮遊大陸が霧散してから数週間。世界は救われた……はずだった。
しかし、巨大な力が消えた後の空白を埋めるのは、いつだって人間の「欲」である。
「健太様、各地から不穏な知らせが届いています。聖教国だけではありません。北方の通商連合、南方の海洋王国までもが、浮遊大陸の『残骸』を求めて動き出しました」
エルナが広げた地図には、かつて「共生」を誓ったはずの国々が、それぞれの領土を主張する赤い線が引かれていた。
浮遊大陸の残骸――それは、古代の超技術と高純度マナの結晶。現代で言えば、「核燃料」と「最新兵器の設計図」が世界中にばら撒かれたようなものだ。
「皮肉なもんだな。共通の敵がいなくなった途端、昨日までの味方が隣の土地を狙い始める。……アイリス、そっちはどうだ?」
「最悪よ。ネットワークのバックボーンは維持してるけど、各国の魔導師たちが『通信の独占』を狙って、中継塔を次々に物理破壊してる。せっかく繋いだ世界が、またバラバラになろうとしてるわ」
アイリスは、煤けた顔で巨大なスパナを叩きつけた。彼女の誇りである古代技術が、戦争の道具として奪い合われている現実に、彼女は激しい怒りを感じていた。
そんな混乱の最中、健太の元に一通の「手紙」が届く。
それは紙ではない。健太のスマートフォンに、直接インストールされた見覚えのないアプリから通知が届いたのだ。
『佐々木健太様。お久しぶりです。あなたが「こちら側」で成し遂げた成果、感服いたしました。ですが、物語はまだ終わっていません』
「……なんだ、これは」
送信者の名は、『Project: GAIA』。
健太が元の世界で、過労で倒れる直前まで関わっていた、次世代環境シミュレーションAIの開発コードだった。
「健太? どうしたの、そんな幽霊を見たような顔して」
アイリスが覗き込む。
「……いや、なんでもない。……ただ、俺がこの世界に来たのは、偶然じゃないかもしれない」
混乱を収めるため、健太は自ら開発した『装甲列車』に乗り込み、各国の首脳が集まる「緊急大陸会議」へと向かう。
しかし、会議場は一触即発の状態だった。
「賢者健太よ! 貴殿の持つ『全知の設計図』、それを全国家に等しく開示せよ! さもなくば、我ら連合軍は王都への進軍も辞さない!」
強欲な首脳たちの言葉に、健太は冷たく笑った。
「開示するのは構いません。ですが、その技術を『戦争』に使うなら、俺がこの手ですべてのインフラをロック(停止)します。……鉄道も、電気も、通信も。あんたたちは、また馬車と松明の時代に戻りたいのか?」
「脅すつもりか!」
「いいえ、**『コンプライアンス(法令遵守)』**の徹底ですよ」
健太が指を鳴らすと、会議場の全モニターに、各国の軍隊が「浮遊大陸の残骸」を使って密かに開発していた新兵器の映像が映し出された。
「すべての情報は、俺のネットワークを経由している。隠し事は無駄だ。……俺が提案するのは、武器の競い合いじゃない。**『大陸横断エネルギーグリッド』**の共同管理だ」
交渉が膠着状態に陥ったその時。
突如として、会議場の床が激しく振動した。
「地震か!? いや、この反応は……マナの暴走じゃない。**『純粋な重力異常』**だ!」
アイリスがゴーグルを叩き、叫ぶ。
窓の外。王都の遙か上空に、**「穴」**が開いた。
それは魔法でも自然現象でもない。デジタルのバグが空間に穴を開けたような、黒い立方体の集合体――。
そこから現れたのは、これまでの魔粉獣とは明らかに一線を画す、**無機質で幾何学的な「侵略者」**だった。
『――不適切なオブジェクトを検知。世界の整合性を保つため、一括削除を開始します』
「……創造主よりも、もっと『システム』に近い奴が来たのか」
健太は、スマートフォンの画面を強くスワイプした。
そこには、新たな設計図――**『対・高次元存在用:電脳魔導障壁』**の文字が、青白く光っていた。




