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二次会

いよいよ、三井様と梶山様の結婚式の日だ。

スタートは十七時。そこまでには、仕込みを終わらせなければならない。

まして、簡単とはいえフードの準備もある。


フードについては、そこまでの自信がなかった。

それを見越して、横山マスターがキッチンの担当の方を派遣してくださり、指揮を執ってくれることになった。


「できたよー、ロールサンドね。」


普段はYの大きな厨房で腕を振るう松嶋さんが、狭い厨房でも変わらずに料理を作り上げ、ラップをかけられたオードブル用の大皿がテーブルとカウンターに並べられていく。

スツールは既に全部が下げられ、バックヤードの外に並べられていた。

完全立食スタイルだ。


不安はあった。

以前に貸切営業をしていた時はマスターがいた。料理も、ドリンクも。マスターが完全にコントロールしていた。


オレがメインで回す、初めてのパーティー。

それも、三井様と、梶山様――オレにとっても大切な、二人のお客様の門出。

絶対に、失敗はできない。


今日、Yからヘルプで来てくれたのは、フード担当の松嶋さんを入れて、四人。

木下さん、坂上さん、そして、百瀬さん。

カウンターは基本オレと木下さんで回す。坂上さんはフロアを見ながら、状況を見て厨房、カウンターのヘルプに入るマルチプレイヤー。

百瀬さんは、まだ見習いでカウンターには立てない。下げものや洗い物などの、雑用をお願いする形になる。


横山マスターにはお二人、と言っていたのに――本当に、盤石の体制を用意してくれた。

カウンターは研修だからと、今日の派遣分は松嶋さんの分だけで良いと言ってもらっている。

そういうわけには、と食い下がったら、これからも新人の指導をお願いするんだからそれでチャラにしろ、と言われてしまった。


情けないところは見せられないな。


「……よし。」


頬を張る。

これだけの豪華メンバーなんだ、絶対に成功するはずだ。


あと、三十分――順調だ。

木下さんはYでのパーティーを取り仕切った経験もある。何かあれば頼れる相手がいるのは、本当に助かる。

坂上さんも、経験は十分。百瀬さんはまだパーティーは二、三回とのことだったが、基本的な動きは問題なさそうだ。


最後のチェックに入る。

普段は使用していないポアラーを差し込まれ、作業台に並ぶボトル。ジン、ウォッカ、ラム、コアントロー、ブルーキュラソー……。

いつもと同じカウンター、いつもと違う顔をして並ぶボトル。

エアコンは既に弱い冷房で合わせてある。人が増えて暑くなればもう少し下げればいい。


動線をイメージする。

今のオレなら、四杯までなら同時に行ける――木下さんも、同じ。

慣れない店ということを差し引いても、三杯までなら現実的にいけそうだ。

七杯以上が同時にオーダーされることはないだろう。

最悪、坂上さんもヘルプに入れる。


グラスの数が足りるかが心配だが、そこは坂上さんと百瀬さんの働きに任せよう。

オレは、オレの仕事をパーフェクトにこなすだけだ。必ずやり遂げてみせる。


蝶番が軋んで、新郎新婦と幹事二人が揃ってドアの中に姿を現す。


「チーフ!今日よろしくお願いしますね!」


「すみません、ご無理申し上げて。本当にありがとうございます。これ、良かったら皆さんで。」


三井様が、そう言って片手に下げたコンビニの袋を持ち上げる。

リポビタンD、ユンケル、リゲイン……こういう気遣いは助かる!


「ありがとうございます!ありがたくいただきます。こちらこそ、本日はよろしくお願いいたします。」


そう言いながら、受け取ったビニール袋を百瀬さんに手渡し、バックヤードに運んでもらう。


「よろしくお願いします。改めて、今日幹事を務めさせていただきます、杉本と、こちらが長谷川さんです。」


「初めまして、チーフさん、で良いのかな? よろしくね!」


よろしくお願いします、と頭を下げながら、元気のいい女性だな、と少しだけ面食らう。

杉本様とは、二回ほど打ち合わせをさせてもらい、大まかなタイムスケジュールやご出席される皆様のアレルギーの確認をさせていただいた。

甲殻類のアレルギーの方がいらしたので、オードブルからは外してある。


「一応、最終確認なんですが。こちらが、本日のスケジュールになっています。最後に打ち合わせさせていただいたところから、大きな変更はありませんが、念のためご確認ください。」


「ありがとうございます。確認させていただきますね。」


プリントされたスケジュールを確認する。

新郎新婦のご挨拶、友人代表のスピーチ、ビンゴ大会……一箇所だけ、新郎新婦のご挨拶の後に手書きで追加されたメモ――内緒で杉本様から依頼されていた、サプライズ。

そのメモに、顔が綻びそうになる。


おっと、新郎新婦には絶対に内緒。バレないように、真剣な表情を維持しないとな。


「そうですね、特に変更点もないようですし、これでしたら当方のオペレーションにも問題ないかと思います。乾杯は、ビールでよろしいですよね?」


「はい、問題ありません! あ、飲めない方の分は……。」


「確か、六名の方が飲めないとのことでしたよね。コーラ、ジンジャーエール、オレンジジュース、グレープフルーツジュース、烏龍茶の中からお選びいただいて、お早めにお伝えいただければ乾杯には間に合うように手配させていただきますよ。ご安心ください。」


「ありがとうございます!」


「すっご、なんか超頼りになるう! カッコいい!」


気が抜けそうな、呑気な声が飛んできて、今度は顔がほころぶのを止められなかった。


「ちょっと、マキちゃんってば!急に変なこと言わないでよ!」


そう言う梶山様……今日から三井様か、も笑っていた。


間もなく、パーティーが始まる。

一生の思い出になるような、最高のパーティーにしたいな。


入場曲にと用意した、多田誠司さんの率いたバンド、SLASH!の『June Bride』をセットして、ソプラノサックスの美しいメロディを耳にしながら店内を見回し問題ないことを確認する。


拳を握り締め、木下さんと視線を合わせて頷く。


――よし。

開場だ。

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