秋の実
三題噺もどき―ななひゃくななじゅう。
時計の針が、とうに真上を過ぎたころ。
真っ暗な住宅街を、いつものように歩いている。
頭上には、糸のようにか細い月が浮かんでいる。
あと数日で新月を迎えるのだろう。それからまた、少しずつ満たしていく。
「……、」
小さく、冷たい風が吹く。
今日はさほど強くもないが、それでも体は冷える寒さだ。
なんとなく、昨日よりは寒くないようなきもするが……これは体が寒さに慣れてきたのか、それともほんの少しだけ今日は気温が高いのか。
「……」
着ている服装はたいして変わっていないはずだが。
足さばきが悪くならないように、細身のパンツ。少しサイズが大き目のパーカー。……あぁでも昨日はこれに上着を羽織っていたのだった。
やはり今日は昨日に比べたら温かいのだろう。
「……」
風は変わらず冷たいけれど。
毎日これくらいの気温だとありがたいのだが、そういうわけにもいかないのだろう。
雨が降れば気温は下がるし、季節が廻れば北風が吹く。
もういっそ、寒いのなら寒いで良いのだけど……これが暖かくなったり寒くなったりすると、これまた困るのだから。
「……」
ジャリ―と、足の裏でアスファルトがこすれる。
車通りもそれなりにある道だから、きっとどこかが削れたりしているんだろう。
時々小さな小石のようなものも見かける。
子供たちはこれを蹴って遊んだりしているらしい。
「……」
特に目的もなく、行く当てもなく、ぶらぶらと歩いている。
久しぶりに公園にでも行こうかと思ったのだが、どうにもあまり気が乗らなかった。
墓場は……アレに絡まれると面倒なので、更に足が遠のいてしまった。あの子の事も気にはなるのだが、それこそアレが面倒だ。
「……」
こうして歩いている途中にでも、出くわす可能性はあるので、油断ならないから……嫌いだ。アレはほんとに、隠れる事だけは上手い。
だからまぁ、探ることもしないのだけど、一応の警戒くらいはしている。
「……はぁ」
なんの溜息か分からないが、思わず声が漏れた。
気分転換も兼ねた散歩なのに、気も休まらない。
かと言って、外に出ないというのもあまり良くないからな。
「……」
面倒だ面倒だと思いながらも、最低限の警戒をしつつ、歩いていく。
もうかなり歩きなれた道ではあるが、毎回ちょっとした発見がある。
―今日もその発見があった、
「……、」
道の先に、赤い、何かが落ちていた。
木のみのように見えるが、少々大ぶりだ。
色から見ると、りんごか何かのようにも思えるが……こんな所にりんごの木が生えていただろうか。そもそも、りんごは自生するような植物だったか。
「……」
何かと思い、近づいてみると。
それはそもそも赤色ではなかった。つまりはりんごでもない。
そして、上を見上げると、同じ色の木の実が所々になっていた。
「……柿か」
橙色の熟れた柿が落ちたようだ。
崩れてはいないから、鴉か何かが落としたんだろうか……柿はたまに落ちていたりするが、大抵はつぶれているからな。
影のせいで赤く見えたのか、光のせいで赤く見えたのか分からないが、これをりんごと間違えるとは、私も落ちたものだな。
「……」
なんとなく、触る気にはならなかったので、軽く、足でよけて置く。
そのうち鳥か虫に食われるだろう。
その前に子供たちが気づくか、車が轢くか。
「……」
あぁ、しかし。
柿が食べたくなってきたな。
このままいつものスーパーに寄って買って帰ろうか。
もう時期は来ているだろうから、売っているだろう。
それに、柿のスイーツというのもなかなかうまそうだ。
「……」
そうと決まれば、さっさと行くとしよう。
あまり遅いとうるさいのが居るからな。
「ただいま」
「おかえ……何を買って来たんですか」
「柿だ」
「……今日はもう食べられませんよ」
「明日で良い」
「……冷蔵庫に入れておいてくださいね」
お題:りんご・雨・月




