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三題噺もどき4

秋の実

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくななじゅう。

 




 時計の針が、とうに真上を過ぎたころ。

 真っ暗な住宅街を、いつものように歩いている。

 頭上には、糸のようにか細い月が浮かんでいる。

 あと数日で新月を迎えるのだろう。それからまた、少しずつ満たしていく。

「……、」

 小さく、冷たい風が吹く。

 今日はさほど強くもないが、それでも体は冷える寒さだ。

 なんとなく、昨日よりは寒くないようなきもするが……これは体が寒さに慣れてきたのか、それともほんの少しだけ今日は気温が高いのか。

「……」

 着ている服装はたいして変わっていないはずだが。

 足さばきが悪くならないように、細身のパンツ。少しサイズが大き目のパーカー。……あぁでも昨日はこれに上着を羽織っていたのだった。

 やはり今日は昨日に比べたら温かいのだろう。

「……」

 風は変わらず冷たいけれど。

 毎日これくらいの気温だとありがたいのだが、そういうわけにもいかないのだろう。

 雨が降れば気温は下がるし、季節が廻れば北風が吹く。

 もういっそ、寒いのなら寒いで良いのだけど……これが暖かくなったり寒くなったりすると、これまた困るのだから。

「……」

 ジャリ―と、足の裏でアスファルトがこすれる。

 車通りもそれなりにある道だから、きっとどこかが削れたりしているんだろう。

 時々小さな小石のようなものも見かける。

 子供たちはこれを蹴って遊んだりしているらしい。

「……」

 特に目的もなく、行く当てもなく、ぶらぶらと歩いている。

 久しぶりに公園にでも行こうかと思ったのだが、どうにもあまり気が乗らなかった。

 墓場は……アレに絡まれると面倒なので、更に足が遠のいてしまった。あの子の事も気にはなるのだが、それこそアレが面倒だ。

「……」

 こうして歩いている途中にでも、出くわす可能性はあるので、油断ならないから……嫌いだ。アレはほんとに、隠れる事だけは上手い。

 だからまぁ、探ることもしないのだけど、一応の警戒くらいはしている。

「……はぁ」

 なんの溜息か分からないが、思わず声が漏れた。

 気分転換も兼ねた散歩なのに、気も休まらない。

 かと言って、外に出ないというのもあまり良くないからな。

「……」

 面倒だ面倒だと思いながらも、最低限の警戒をしつつ、歩いていく。

 もうかなり歩きなれた道ではあるが、毎回ちょっとした発見がある。

 ―今日もその発見があった、

「……、」

 道の先に、赤い、何かが落ちていた。

 木のみのように見えるが、少々大ぶりだ。

 色から見ると、りんごか何かのようにも思えるが……こんな所にりんごの木が生えていただろうか。そもそも、りんごは自生するような植物だったか。

「……」

 何かと思い、近づいてみると。

 それはそもそも赤色ではなかった。つまりはりんごでもない。

 そして、上を見上げると、同じ色の木の実が所々になっていた。

「……柿か」

 橙色の熟れた柿が落ちたようだ。

 崩れてはいないから、鴉か何かが落としたんだろうか……柿はたまに落ちていたりするが、大抵はつぶれているからな。

 影のせいで赤く見えたのか、光のせいで赤く見えたのか分からないが、これをりんごと間違えるとは、私も落ちたものだな。

「……」

 なんとなく、触る気にはならなかったので、軽く、足でよけて置く。

 そのうち鳥か虫に食われるだろう。

 その前に子供たちが気づくか、車が轢くか。

「……」

 あぁ、しかし。

 柿が食べたくなってきたな。

 このままいつものスーパーに寄って買って帰ろうか。

 もう時期は来ているだろうから、売っているだろう。

 それに、柿のスイーツというのもなかなかうまそうだ。

「……」

 そうと決まれば、さっさと行くとしよう。

 あまり遅いとうるさいのが居るからな。





「ただいま」

「おかえ……何を買って来たんですか」

「柿だ」

「……今日はもう食べられませんよ」

「明日で良い」

「……冷蔵庫に入れておいてくださいね」














 お題:りんご・雨・月

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