【第9章 かわる 第80話 デジャブという別宇宙の出来事】
〈From:安田美咲 Subject:悠太君が言うので念の為のご報告 Body:第二子が出来た訳ではありません。小学校時代の後輩から誘われたので、費用向こう持ちで私と悠太君と翔子と、その他数人の私と悠太君の友人知人も合わせて、共産主義国に旅行に行ってきます。後輩の上司の上司のずっと先の上司の国家主席からの提案らしいので、念のため悠太君が冴子さんに伝えるようにと言っています。どうであれ私は行きますけど。では〉
NSSの外事課の会議室には、課長の上村と特殊案件係長の冴子、介入班の光也と真理雄が座っていた。
朝から呼び出され、自分のペースを乱された光也は不機嫌そうに言った。
「いいじゃん。なんで会議なんてやる必要があるの?日本国民には移動の自由が保障された憲法22条があるんだから。楽しんできてね~だよ。こんなもん」
上村課長が光也を睨みつける。
「光也、憲法なんて理想の空論持ち出してるんじゃねえよ、バカ!冴子、その後輩の立場はなんだ?なんで国家主席が出てくるんだ?共産主義国の狙いは何だ?」
「光也。あなたの言う通りなんだけれど、国家主席が絡んでいるとなれば、話は全然別よ。国と国の政治になる。今調べさせていますが、現状不明。まず事実共有からと思いました。日時も不明なので」
ゆっくりと小さく手を上げる真理雄。
「あの、すみませんが、僕も誘われています。皆さんの記憶にどんな形でどこまで残っているかは不明なのですが、僕、悠太君とは小学生時代からのスイミング仲間でして」
その言葉で課長の上村と冴子は驚いた表情を見せた。
「え?初耳よ?」
光也はそっぽを向いたまま言った。
「僕は何か知っている気がするよ。僕が詳細を覚えていないなんてめったにない事だけれどね。水泳だかなんかモザイクかかってるけど、なんだったっけかな?」
光也の言葉に真理雄は少し驚いた表情をして言った。
「課長のご質問ですが、その後輩はチェン・ロウさんです。日本生まれの日本育ち。父親は日本人で元応慶大学の助教授。母親が共産主義国人で国費留学として応慶大学へ。お二人はそこで知り合っています。チェン・ロウさんも応慶幼児舎に入りましたが、幼児舎卒業と同時に、家族全員で共産主義国へ移動しています。チェンさんを身ごもったお母さんは、お父さんに言わずに秘密で日本国内で出産。大学にも顔を出さなくなったお母さんを心配して、お父さんは共産主義国大使館に相談し、お父さんは事実を知ることとなる。出生時にお父さんは未婚であり、当然出生前認知もしていないので、チェンさんには日本国籍が自動で付与されることはなかった。出生後日本国内で婚姻届けを出して、共産主義国側にも領事登録をした。まあ、お母さんは当初婚姻を拒んだそうです。自分は共産主義国に帰るからと。それを聞いたお父さんは、自分も共産主義国に行くと仰ったそうです。当初仕事の都合上5年後位を目途としていたらしいですが、チェンさんの教育環境なども鑑みて、小学校卒業までと先延ばし後に共産主義国へ移った」
課長が眉間にしわを寄せて言った。
「おい真理雄、お前は見て来たことみたいに言うなぁ。なんでそんなこと事前調査しているんだよ?」
「いえいえ。聞いた話です。チェン・ロウさんはその後、共産主義国内の清華大学に進み、その有能さから人民解放軍の情報部にスカウトされた。情報部では当時教育官として活動していた現在主席警護官であるワン・チエンから諜報を学んだ。その後、日本語や日本文化についてネイティブであることから、情報部配下、海外文化戦略・対外認知工作処に籍を移し、OSINT、公開情報収集分析の専門家になった。これがチェン・ロウさんの立場ですね。国家主席が出てくる理由は、おそらくワン警護官との三極関係。目的はまあ、アリシアじゃないですか?リウ主席って好奇心の塊のような人だから、何かしらでアリシアの開発者を知った。調べてみたら、とても有能な女性だった。もしかしたら日本のMORSウイルスの制御のキーマンだったということも知っている。だから話してみたいと思った。こんなところですかね」
課長が何かを言いかけたが、大きな声で被せるように光也が言った。
「全部バレているってこと?まあ、バレるよね。ちゃんと隠していないしね。真理雄は行くの?」
「僕は冴子係長に従います。職場が職場なので」
またしても課長が何かを言いかけたが、今度は冴子が被せてきた。
「向こうはあなたがNSSだと知っても受け入れるかしら?出来れば一緒に行って美咲さんの警護を……まあ、一人じゃ警護も何もないか。真理雄が行きたいなら行って楽しんできなさいよ。憲法22条があるんだから」
課長は首を左右に振りながら、両手の甲で三人に会議室から出て行けとジェスチャーをした。
中巻も明日が最終話となります。長い時間をお付き合いいただいたことに心からの感謝を。
下巻も8割書き終えております。さあ、美咲、どうするんだ?どうするんだよ??と私が美咲に問いかけている状況であります。
美咲がどのような落としどころを見せてくれるのかわかりませんが、美しく頭の良い美咲に私がついて行き、その様子を文字に起こしたいと思います。
明日の11時で中巻最終話。心より、お付き合いいただきありがとうございました。




