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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第1章 きっかけ

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【第1章 きっかけ 第8話 誰にも理解されなくてもあの人にはわかってほしい】

「カンパーイ!」


 3人は五反田の海産物バーベキュー店に入り、焼き網の上に海産物を載せた後、生ビールの中ジョッキで乾杯をした。


「花楓先輩も変わらないですね。お会いできてうれしいです」


「やあね、ジュジュ。そんな大人っぽい『ですます調』言葉なんて使って。あの頃のまま、生意気なアンタでいいのよ」


「えへへ。美咲さんはお元気ですか?」


「あんたは美咲一派だったもんね。超少数派だったけれど。元気よ、子どもも生まれたしね」


「え~!会いたいなぁ~。そうかぁ……お子さんも生まれたんですね」


「相変わらず、旦那ラブラブの気持ち悪い女よ?」


「気持ち悪いなんてそんなことない!私は美咲一派ではないけれど、美咲さんの大ファンだし、美咲さんは恩人なんだから。だから悪く言わないでください」


「そうそう、それでこそアンタよ。でもジュジュが言うほど、ジュジュの為にって訳じゃないわよ?あの時の美咲の行動は」


「それはわかっています。でもそれでも、私にとって特別な人なんです」


 エミが中ジョッキを片手に、飲みながら言った。

「ジュジュは幼児舎時代から、美咲先輩、美咲先輩って真似ばかりしていたもんね」


「だって格好いいんだもん。私もあんなふうになりたいって、今でも目標よ?」


 花楓が手を叩きながら大爆笑した。

「おススメはしないわよ?美咲のそばに居ようなんて変わり者は、旦那とあたししかいないじゃない。孤独はね、相当な耐性が無いとキツイものよ?言い換えればただの自分勝手だしね。美咲は」


 チェンは天井を眺めながら、せつない表情で言った。

「あの頃、共産主義国人、共産主義国人って陰で言われて、孤立して孤独だった私……確かにつらかったぁ」

 

 エミは、チェンの頭を撫でた。

「私もあの頃は、自分がハブられるの怖くって、距離置いちゃってたもんね」


 チェンは首を左右に振った。

「ううん、エミはずっと陰で声をかけていてくれたから。うれしかったよ」


 花楓は笑いながら言った。

「美咲はね、もう生まれた瞬間から圧倒的な自信の塊で、理解を求めていなかったからね。誰にも。母乳も結構ですと断ったって噂があるくらい。私はそんな美咲が面白くって付き合っていたけれど。誰かとつるんでいたいと考えていない美咲だから、私の存在なんて関係ないの。だから私が美咲に距離を置かれることはなかった。だって、そもそも近寄れないんだもん。初めから近寄れていないから、何があっても距離を置かれることはない」


 チェンはジョッキの中の泡をじっと見つめながら、ゆっくりと語り出した

「あの日、誰かが黒板に『共産主義国人は自分の国へ帰れ』とか書いていて、自分の席で泣くのを必死に我慢していたら、突然美咲さんと花楓先輩が教室に入ってきて、美咲さんは黒板を叩いて『誰が書いた?』って凄んで。馬鹿な男子3人が立ち上がって美咲さんに詰め寄っていったら、あっという間に投げ飛ばされて。そのあとメソメソしていた私の胸ぐらつかんで『共産主義国人とか日本人とか、黒人とか白人とか、そんな事はどうでもいいの。問題なのはあなたかそれ以外か。わたしかそれ以外か。それだけ。あなたはあなたを認めて、自分の足で立ち、自分の足で歩き始めなさい。自分から始めなければ、誰もあなたを認めない。あなたはあなたを承認してスタートラインに立ちなさい!』って。もうしびれたなんてもんじゃなかったぁ……あれだけの美人に胸ぐらつかまれて、あんなこと言われたら。小学生の言葉じゃないわよね」


 花楓はまたも手を叩きながら大爆笑をした。

「ただの暴力女じゃないの。その後も、美咲の暴力沙汰は何度かあったからね。自分の価値観以外は一切関係なかったのよ。いまでもあんまり変わっていないけれど。ジュジュの胸ぐらつかんだ後で、私が美咲に『なに?さっきのは?』って聞いたらなんて言ったと思う?」


 エミも笑いながら、花楓と声を合わせて言った。

「バカは嫌いなの」

 

 3人は同時に大爆笑をした。


**


 ちょうどその頃、神奈川県のマンションでは、安田美咲がくしゃみをしていた。


「クション、クション」


 それを見た夫の悠太が美咲に声をかけた。

「あれ?美咲ちゃん、花粉症の季節でもないよね。掃除も行き届いていると思うし。風邪?」


「いや……このくしゃみはたぶん、花楓が私の悪口を言っている時に出るやつね」


「へぇ、美咲ちゃんがそんな民間伝承を言い出すなんて意外」


「私じゃなくってね、花楓の民間伝承呪いが強いから」


「さすが美咲ちゃんの親友だね。科学と理論の子である美咲ちゃんを、民間伝承呪いでくしゃみさせるなんて……」


 悠太は真剣な面持ちで首を振った。


**


 翌日、ホテルをチェックアウトしたチェンは、バスで羽田空港に向かっていた。


――帰りは羽田便が使えるからラク。とりあえず……昨日の夜は楽しかったな。今度は美咲さんにも会いたいな。美咲さんの子どもならきっと、すっごい可愛いんだろうな……

 屋外で極秘情報をパソコン入力することなどできる訳もなく、チェンは脳内で今回の流れをまとめていた。


――仮説を実証に近づけていく為には、それなりに製薬技術の実績を持つそれぞれの国で、同じようなタイミングでの電力消費量やロジスティックからの動きを把握する必要もある。つまり日本以外で作られたという可能性の排除作業。

 現状私は思い込みがゼロという訳では無いけれど、それでも今回のプロテオブロックの製造は、日本で行われた可能性が高いと考える。


 その根拠の一つ目は、ワン警護官が持ち出した『きっかけ』である、ミシン目付きのPTP容器についてだ。小さく細かい技術は相変わらず日本が強いといえる現実があり、弁理士の意見として製造の技術的側面から、日本の工場でしか量産できないという意見もある。


 そもそも本体ではなく容器に、それだけのリソースを割くというのは、やはり日本人の価値観以外には考えられない。


 タイミングから見ても、日本のPTP容器工場がそれらを製造したという状況証拠は出そろっている。例えば日本以外の国の容器工場の動きを調査して、同じタイミングでの動きを把握する行動の重要性の高さはどうか?


 無意味ではないが、今の状態であれば日本で作られたことを前提に、事実確認を進める方が重要なのではないか?状況証拠を物的証拠に入れ替えていく作業の方が。


 この作業で行き詰ったタイミングで、同じ調査を日本以外の国で行う。この道の方がゴールまでの時間は少なくて済む。


 日本国内で作られたそれらのPTPケースが、日本国内の製薬工場に運び込まれ、それらの製薬工場もまた、その後で24時間体制と言える電力消費量を記録しているのだ。この事実一つ取っても、プロテオブロックは日本の製薬工場で作られたという結論が見えているのではないか?


 これらの工場から世界各国への輸送に関しては、閃電白虎に頼めば何かしらの糸口はつかめるだろうから、日本で作られ世界に配送されたという事実を積み重ねたほうが早いだろう。



 私が訪れた工場では、プロテオブロックという言葉を出した途端、受付は厚生労働省だと突き返された。


 この事実だけでも、もう日本じゃん……これは私の認知バイアスがもたらす思考の偏りなのだろうか?誰が聞いてもそうであるのだろうか?


 その判断は、ワン警護官に任せよう。

 ……とりあえず、私のやるべきことは完了としておこう。


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