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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第9章 かわる

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【第9章 かわる 第79話 本当の空気を読む力】

 エキドナが重要な会議を行っていた夜、リウとの接見を終え自宅に戻ったチェンは、緊張をほぐすべく深呼吸をしてからスマホを手にした。


「日本語でこう言うのよね。ええい、ままよ」

 独り言をつぶやくと、チェンは日本で使われるSNSの美咲とのチャットスペースを開き、通話ボタンをタップした。


「チェンさんね。ちょっと今、翔子とお風呂に入っているから、10分後にかけ直すので良いかしら?」


 なぜかチェンは顔を真っ赤にした。

「はい、すみません。お待ちしています」


 チェンは通話を終了させてから、大きな息を吐いた。

「美咲さん裸だったんだ。スマホを持ってお風呂に入るのかしら?それとも悠太さんがお風呂に持っていってくれたのかな?」

 なぜかやや興奮気味にチェンは独り言をつぶやいていた。


 ピッタリ10分後に、チェンのスマホは呼び出し音を鳴らした。

「ごめんね。どうしたの?」


「はい、夜分にすみません。そして先日は失礼しました」


 チェンが言うと、美咲は少し笑いながら返した。


「どうやらチェンさんの、私に迷惑がかかるという心配は、及ばぬものだったようね。あなたのリラックスした声で理解できた」


「あの時は、本当にすみませんでした」


「チェンさんのお仲間は信じるに値する人たちだったってことね」


「はい。私の仲間というには少し距離が、いえ、かなり距離がある方なのですが、私の上司の上司のずっと先の上司のような方がですね、どうしてもアリシアを作った美咲さんとお話がしたいと申しておりまして。ぜひ共産主義国にご招待したいと仰られているのですが、私も美咲さんに私の住む国を紹介したいですし、お時間取っていただくことはできないでしょうか?」


 美咲は少し驚いた声になった。


「え?私を共産主義国に招待してくれるの?」


「はい。悠太さんも翔子ちゃんもご一緒に。いかがでしょうか?」


「チェンさん、スピーカーホンで良いかしら?」


「はいもちろん」


「悠太君。チェンさんの上司がね、私達を共産主義国に招待したいんだって。アリシアのことを聞きたいらしいの。チェンさんが自分の国を紹介したい気持ちもあるって言うのだけれど、私はチェンさんが日本を知ってくれているのだから、私たちに来て欲しいという気持ちは大事にしたいと思うの。どう?」


「それ自体はやぶさかではないけれど、チェンさんの上司の人ってどんな人なの?お金も結構かかるだろうし、僕らは僕らの貯金で行った方が良くない?またチェンさんの気持ちが苦しくなるのもなんだし。アリシアのM&Aのお金があるから、家族3人で共産主義国に旅行に行くことくらいできるよ。全然」


「だそうだけれど、チェンさんのその上司の上司って、どんな方なの?」


 チェンは一瞬戸惑ったが、軽くうなずいて言った。

「はい。この国の最高責任者であるリウ・ジエン国家主席です」


 電話の向こうで悠太のせき込む声が聞こえた。

「まあ、共産主義なんだから、上司の上司はそうかもしれないけれど……。でも美咲ちゃん。だとすると、どっちのお金で行ったとしても、ただの旅行って訳にもいかないから、NSSの冴子さんに、なんだ?了解を得るってのも変だけれど、一言相談はした方が良いと思う」


 悠太が言い終えると美咲が言った。

「だそうよ。チェンさん。悠太君は大人よね。私だったら自分が決めたらそのまま行っちゃうけれど。でも今まで本当に色々なことがあってね、その冴子さんっていう日本の内閣官房の職員の女性にはお世話になっているから、彼女に一声かけてからであれば喜んでお邪魔するわ?」


 チェンは嬉しさのあまり、またしても顔が真っ赤になっていた。

「美咲さん、悠太さん、本当にうれしいです。もしよければ……私がこんなこと勝手に言ったら怒られちゃうかもしれないけれど、花楓さんやエミも呼んで、本場で萬珍樓会議を行うってのはどうですか?私、お願いしてみるんで。何ならそれが美咲さんが来る条件だって言えば、絶対にOKを出してくれます!」


 美咲は笑い出した。

「ははは。それは楽しそうね。皆の仕事の都合もあるでしょうけれど、共産主義国の国家主席のお招きとなれば、それぞれの職場も嫌とは言えないわよね。2泊3日くらいならどうにかなるでしょ。北海道から沖縄行くより、羽田から北京の方が近いくらいだしね。改めて。私の友達も一緒に連れていく。それが私がそちらにお邪魔する条件。私を呼びたいのであれば、その位のことはしてくれないと行かないから。そうお伝えしてくれる?」


 チェンは美咲のこのような言葉の選び方に、ずっとあこがれを持っていることに気が付いた。嬉しくて涙が溢れていた。


 ここ最近のチェンは、色々な不安や不信に苦しめられてきたが、今まで思いもしなかった夢のような話だ。自分が大好きな日本の友人たちを、自分の国に呼べるなんて。


 自分の国の自慢したいことはたくさんある。なんで気が付かなかったんだろう。皆に来てもらうなんて。なんてすばらしいことだろう。


 私の給料ではみんなを呼ぶなんてできないけれど、多くの人にこの国に来てもらって、本当のこの国を知って欲しい。実際に来て、触れて欲しい。国家として、そういうことができないか、チャンスが有ったら尊敬するラオシーにも相談してみたい。きっとわかってくれるはず。


 チェンは幸せの真っただ中にいた。


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