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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第9章 かわる

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【第9章 かわる 第77話 プロテオブロックの生まれ】

 ソファーに座ったチェンは、向かい合わせに座るワンの目を見て言った。

「まとまっていませんが――」


 珍しくチェンの言葉を遮るようにワンは言う。

「チェン。私と話すときには言葉を選ぶ必要はない。私はそこまでバカではない」


 チェンは軽くうなずくと、呼吸を整えて話し始めた。

「昨日、ワン警護官はジュネーブで得たアリスという有能でプロテオブロックに関わっている可能性が高いとされる人物は、アリシアという日本のAIではないか?という仮定をお話しされました」


 ワンはうなずく。

「その数時間前に、ある人物が私に接触してきまして、彼はその事実を私に告げていました」


「ほう」


「その人物は、私が調査を進めていたスーパーコンピューター富岳を使った文部科学省が行った演算について、アリシアが自発的に富岳と協業してプロテオブロックを開発したものだとも言いました」


 さすがにワンの眉毛が上がった。黙っているワンを見てチェンは続ける。


「次の日、ワン警護官はご自身の勘ではあるが、アリシアが自発的にプロテオブロックの設計を行ったのではないかという仮説を述べられました。つまりその人物が私に告げていたことを、次の日にワン警護官が私に告げた。どちらも確証はないが、あまりにも同じ内容です。私には彼があたかも、このタイミングでワン警護官がそれらに気づき私に伝えることを知っていたように感じたのです」


 ワンは静かに口を開いた。

「チェン。その彼という人物はいったい誰なんだ?」


「アリシアを設計し、子どもの頃の私を助けてくれた、安田美咲さんという医師の親友です。そして日本の内閣国家安全局NSSの職員です」


 ワンは少し間をおいて言う。

「チェンの身元が把握されていた?」


「彼は最初NSSとしての発言ではないと言い、その後でNSSの職員としての発言だと言い直し、俳優が演技でもするようにこれから起こることを述べ始めました」


「チェン、そもそもだな、アリシアの製作者はその安田美咲という医師であるという、とても大きな情報をお前は何気なく述べていることについては?」


「……私は安田美咲さんに迷惑がかかることは絶対に容認できません。ですが本人に確認しました。彼女は簡単に言いました、アリシアは自分とその夫の安田悠太氏が作ったものだと。プロテオブロックは自分が作ったわけではないから、自分の口から言うことはできないとも」


 ワンはソファーに深く座り直して深い呼吸を一つした。

「ですがそのNSSの職員である真理雄という人物は、プロテオブロックはAIアリシアが国立感染症研究所のデータから、人造ウイルスである可能性を指摘し、その確認作業を行う為に富岳と協業し、その際に『ついで』に設計したと言っていました」


「チェン。さすがの私もお前があまりに軽く、次々に重要な答えを提示するから途惑っている。だがお前が初めに言った通り、何一つ確定情報が無い、つまり証拠がない答えだと言えるな」


「はい……」


「だがチェン。ここまでの話では、お前がそこまで慌てる内容でもない気がするがな」

 チェンはワンと視線を合わせた。


「真理雄さんが私にそれらを告げた目的は、主席の暗殺を止めてほしいからだと言っていました。相手は国家所属ではない『エキドナ』という団体だそうです」


 その言葉に表情を少し硬くしたワンは、スマホで何かを入力し始めた。それが終わるとチェンに視線を戻した。


「チェン。閃電白虎に確認作業を依頼した。アリシアの設計者が安田美咲と安田悠太という人物であること。プロテオブロックは国立感染症研究所のデータをもとに、アリシアが富岳と協業して『ついで』に設計したということ。エキドナが主席の暗殺計画を企てているということ。お前は知らないかもしれないが、エキドナは存在する。本来は主席に近い考えを持つ集団だ。人類が正しい情報で正しい判断ができるようにすることを目的として活動していると認識している。デジタルハッキングの技術は、閃電白虎を軽く超える存在だ」


 チェンは驚いた表情を示した。

「そうだな。閃電白虎を軽く超える存在と言われれば驚くよな。だがそれが事実だ。私は今日からしばらくの間、状況が把握できるまで、主席の警護を人間というアナログな形で増強しておこうと考えている。用心に超したことは無いからな。チェンに確認しておきたいのは、閃電白虎で裏が取れた場合、私は主席にアリシアの設計者とプロテオブロックの設計経緯を主席にお伝えすることになる。これは理解してもらえるな?」


「美咲さんにアリシアの設計者が誰なのかを聞いたときに言われました。私の仲間は信用できない集団なのかと。私はリウ主席もワン警護官も信用しています。だから私が知りえたこと、お伝えしました。美咲さんにご迷惑が掛からないことを切に願っています」


 ワンは優しい笑顔を見せた。

「信頼に感謝する。お前の想像通り主席は安田美咲医師に迷惑をかけるような行動はとらんよ。そういうお方だ」


 チェンの表情は、二日間続いた緊張が解けるように和らいでいった。


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