【第1章 きっかけ 第7話 理想は境界を越えて】
首相官邸の地下にある、CCCで、NSS(内閣官房国家安全保障局)情報分析課情報技術解析係のエンジニアが、恐る恐る質問した。
「佐藤特殊戦術係長。世界一路構想とはいったい何ですか?」
「ああ、そうよね。アリシア、真理雄はどこにいるの?ボイスチャットに参加させられる?」
「冴子、了解しました……真理雄さんは現在栃木県内を自動車で移動中です。数分前に移動速度がゼロになったので、おそらく佐野サービスエリアに入ったと推測します……真理雄さんがボイスチャットに参加できるようです」
「冴子さん、真理雄です。ちょっとした確認で足尾銅山跡地に来ていました。ちょうど帰りにサービスエリアに入ったところで」
悪戯好きな光也が、東北自動車道、佐野サービスエリアの監視カメラをハッキングして、CCCの大画面には、トイレから出て、歩いて車に戻る近藤真理雄の姿が映し出されていた。
「真理雄。電力会社に何者かがハッキングを仕掛けて、それを光也が見つけたので、情報技術解析係とサイバー戦を行っていたのだけれど、共産主義国の閃電白虎の可能性を鑑みるうえで、真理雄が以前言っていた、共産主義国の世界一路構想という計画について、共有したかったの」
「ああ、了解しました。ええと、僕が以前一緒に働いたことがある、共産主義国の諜報員からの情報で、簡単に言ってしまえば地球上のすべての国が、一つの共同体になってしまえば色々と良いよね。という計画ですね」
「ははは、真理雄、あなた簡単に言いすぎよ」
「そうですか?西側の価値観で言えば、地球上の国を共産主義国の植民地にしちゃえ計画です。攻め込んで自国とするのではなく、色々な計画を地球規模で仲良く実行していこうね計画です。共産主義国が強制権を持った国連になっちゃおう計画です。僕に情報をくれた共産主義国の諜報員は、環境問題や資源問題など、誰かの利得ではなく、人間全体のこととして考えるべきタイミングにこの地球はなっていると、ポジティブに語っていましたが。仲間になった国が、主権を失う時点でアウトっぽいですけどね。政治体制や国名は今まで通りだけれど、単独で決定執行を許さないという点で、まあ地球規模の共産主義や社会主義化と言えますよね」
エンジニアが言った。
「真理雄さん、いま真理雄さんが言った世界一路構想と、佐藤係長が言った世界一路構想を鑑みると、今回のハッキングを仕掛けてきたのが、共産主義国の閃電白虎の可能性が高いという言葉がつながらないのですが……」
「ああ、重要なところ抜けてますね。埋めます。その世界一路構想は、当然西側の多くの政治家や資産家に潰されちゃうので、共産主義国は自分たちで作ったウイルスで世界を崩壊させて軍事で押すか、そのウイルスに対するワクチンと引き換えに、世界一路構想に参加するかを選ばせるという、力業に出ようとしていた。らしい。だがその計画も、WHOが開発したとなっている、ウイルス無効薬によってとん挫させられた。共産主義国は自分たちで作ったウイルスだから、事前にワクチンが作れたけれど、なんでWHOがそれに近いことができたんだ?となって、それを探りに来ている。となるんじゃないですかね?冴子さん」
「そうね。プロテオブロックが本当はWHOによって作られた訳では無いのは、ちょっと考えればわかる。じゃあどこの誰が作ったんだ?どうやって作ったんだ?を見つけて対策を取らないと、世界一路構想は実現できない。それが目的で共産主義国は調査をする中で、日本なのではないか?という何かをつかんだって流れが考えられるってことじゃないかしら?が私の意見」
「なるほど。真理雄さん、佐藤係長、理解できました。MORSウイルスの世界パンデミック明けた現在、薬についてハッキングを用いて調べるとすれば、共産主義国の閃電白虎の可能性が高いこと、理解出来ました」
世界の誰も知らないところで、静かな戦いが通り過ぎた。
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時間を進め戻して、チェンがSNSでエミに連絡をした後、数十秒後には返信があった。
「いきなり連絡よこして、あと3日で帰るってホント急よね。まったく。じゃあ明日の夜、飲みに行こうよ」
チェンはクスっと笑いながら返信を打った。
「ごめんね、今回は色々急だったのよ。場所は任せるから後で連絡ちょうだいね」
「海産物バーベキューがあるの。五反田駅のそばなんだけれど、ホテルの場所は大丈夫かな?URL送るね」
チェンはお店の情報を見ながら、つぶやいた。
「岩牡蛎焼きとか、たまんないじゃないの……」
チェンは翌日約束の時間に、JR五反田駅の北口改札で待っていると、「ジュジュ!」という声に振り向いた。
駅構内から、エミが手を振っていた。その隣で応慶幼児舎の2年先輩である、花楓も手を振っていた。チェンの顔は春風に撫でられたようにフワッと笑顔になって、手を振り返した。
花楓の顔がトリガーになったかのように、チェンの頭の中には応慶幼児舎で経験した様々なことがよぎっていた。
自分の名前が共産主義国人の名前だったことから、クラスの中で浮いてしまっていたこと。そんな時に花楓と一緒に居た黒田美咲の言葉に、強く助けられたこと。感情が揺れた。
「え?どうして花楓先輩も?」
花楓はチェンをハグしながら言った。
「久しぶりね、ジュジュ。実はね、私、エミのお姉さんになったのよ」
「え?どういうことですか?」
ちょっと照れ臭そうにエミが言った。
「双子の篤アニキと花楓先輩が結婚してね、木下花楓姉さんになったの」
「え~!驚き!」
「なんとなく、花楓姉さんにジュジュと会うっていったら、来てくれるっていうからね、誘った」
3人はしゃべりながら、海産物バーベキューのお店に向かった。




