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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第8章 はじまり

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【第8章 はじまり 第67話 世界同時多発感染拡大】

 会場はニューヨーク・ミッドタウンにあるファイザー本社のプレスルーム。背後に青いロゴが並ぶ中、CEOに続いて登壇したのは、白髪交じりの中年の科学者だった。胸の名札には「スチュアート・ヘンリー博士/主席感染症研究官」とある。


 マイクの前に立った彼は、口元にわずかな緊張をにじませながら語り始めた。

「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。今朝、我々ファイザーは、RNA型多価ワクチンの量産体制に入りました。7週間ほど前から続いたGSOウイルス感染拡大、すなわち今回の世界同時多発的感染拡大に対応するための体制は、今まさに現場に届こうとしています」


 一瞬、会場に静寂が流れた。

『GSO』という単語に眉をひそめる記者が数人いた。


 若い女性記者が手を挙げる。

「GSO……とはどういう意味ですか?」


 ヘンリー博士は、軽く頷き、背後のスクリーンを指差した。

 そこには、世界地図が表示され、同時に赤い点が世界中に点滅していた。


「Global Simultaneous Outbreak……世界同時感染発生。私たちはこの新型ウイルスが、ほぼ同時に複数の大陸で出現したことに驚きと脅威を感じました。GSOという呼称は、社内およびCDC・WHOとの連携の中で使われていた略称です。今後の報道、情報共有の簡素化のため、公式にこの名称を用いることで、WHAをはじめ各機関との調整は完了しております」


 会場の記者たちがざわめき始めた。

「つまり……すでに世界の専門家たちの間ではGSOという呼び名で通用しているという事ですか?」


「はい、その通りです。過去のあらゆるパンデミックと異なり、初動から地球規模で感染が確認されたという事実だけは揺るぎません。それは、今後の感染対策の構え方を根本から変えるものです」


 最後にヘンリー博士は、やや疲れた微笑みを浮かべながら言った。

「ウイルスが地球規模で出現したのなら、我々も地球規模で立ち向かうしかありません。

GSOという言葉が、不安の象徴ではなく、連携の合言葉として使われることを願います」

 フラッシュが一斉にたかれた。



 ファイザー製薬での記者会見が終了してから数時間後。スイスのジュネーブ国際会議センター、第2ホールの会見主催者が座る席の背面スクリーンに映されているのは、青い橋のロゴに『Bridge Alliance』(ブリッジアライアンス・連携の架け橋)と文字。右端には『ジュネーブコンパクト財団』と書かれている。


「ただ今よりスイス連邦認可公益財団『ジュネーブコンパクト』が世界保健総会であるWHAから承認を受けたシステムの運用開始につきまして、全世界の政府、医療、運輸関係者の方々へ、お知らせがございます」


 シュトルツ財団理事長が話し出すと、背景のスクリーンには案内文のようなものが映し出される。

「我々のWEBサイトにアップされております本日のレジュメがございます。我々財団は、3年前に世界を襲ったMORSウイルスの収束直後に作られた財団でございます。開設目的は、団体や国といった枠を超えて人類が何かと戦う必要がある時に、情報の集約についてどのように行うべきか?これを実現させるために開設された財団です」


 背景画面がまた変わる。

「現在我々の財団に参加協力いただいているのは、33の政府及び国際機関、一般機関及び民間団体が87団体の合計120団体となっておりまして、これらの団体の皆様の中ではすでにパイロット版の運用を開始させていただいているところです」


 背景画面が表に変化する。

「我々が今回世界にお届けするのは『ブリッジアライアンス』というシステムで、例えば先ほどファイザーが発表したGSOワクチンの製造予定や在庫情報をブリッジアライアンスに登録します。参加いただける運送会社にも必要情報を入力していただきます。そのうえで、ある医療機関が必要とするワクチン量を、このブリッジアライアンスに登録すると、これらの情報からブリッジアライアンスがロジスティックス計画を作成し、スムーズに間違いなく、ある医療機関にGSOワクチンを送り届けることができる。つまり正しい情報を、国や団体の枠を超えて道を通して共有していくシステムとなります」


 隣に座る、WHO・GOARNの事務局長代理が後を引き継いだ。

「我々財団の職員が、ワクチンというモノを、物流の最短の経路で、患者というユーザーに届ける計画を提案する訳ではなく、それらの判断や実行はAIが行いますので、24時間対応を続けますし、財団があるスイスをパンデミックが襲っても、電力さえ確保されていれば、自動的にそれぞれの国の言語で情報の処理と伝達は続けられます。また、わざわざヘルプページを開かなくても、自分がやりたいことを入力すれば、AIの案内で作業が完了します。今回のようなワクチンの物流に限らず、情報をこのシステムに乗せて必要としている人に届けるという点において、大変有効なシステムとなっております。そこには常にAIが補佐する体制で準備をしていますので、世界と共有するための文章を考え入力する人的リソースを、本当に必要なことに振ることができます」


 再度シュトルツ財団理事長がマイクを取った。

「先ほどワクチン開発完了の発表をしたファイザー製薬は、当財団の参加者でありますので、パイロット版の運用に参加いただいております。ファイザーより開示されたゲノム情報を元に、今後ワクチン製造にかかわる製薬会社も、それらの運搬を担える陸路、空路の運送会社も、各国の医療機関や医薬品取扱店、政府や行政の方々も、規模の大小、個人法人での参加の拒否などは一切ありません。世界の人々との間に、正しい情報を素早く行き来させることが目的のこのシステム。一人でも多くの方々にご参加いただく事を切に願います。WEBサイトに参加方法が表示されていますのでご確認ください」


 理事長がマイクを置くと、一斉にカメラのフラッシュがホール内を純白に染めた。


 夜静まり返った23時のNSS戦術介入班室で、それを見ていた光也が独り言をつぶやく。

「なんか、アリシアそのものだよね……」


――


 ファイザーがワクチン開発に成功、量産を開始したというニュースが発表されてから1週間後、まったく同じように世界同時多発的に、まったく新しいウイルス感染が発見された。


 この新しいウイルスを伝えるニュースはGSO-2と呼んでいた。ニュースでは世界の混沌状況を伝えていた。


 そのころ、日本国内でも感染が蔓延し、死亡者も多数発生していた。


 NSSの戦術介入班ルームでは、光也がテレビニュースを見ながらパソコンで世界中の情報を集めていた。

「ねえ、冴ちゃん。MORSウイルスの時のような情報完全封鎖ってわけではないんだけれどさぁ、共産主義国では多分、情報統制がかかっているっぽいね。出てくる情報が何だか変な感じだ」


「なんなの?変な感じって」


「そうだなぁ、一昔前の共産主義国とか今も続く北朝鮮、もっというなら太平洋戦争の時代の日本みたいに、ポジティブというか問題ないです的な情報しか出てこない。共産主義国内の感染状況とか具体的な感染者数とかが全く出てこない。世界で感染症が拡大しているから、マスクと手洗いをやりましょうね的なことしか。僕が調べる限りでは、病院も通常営業。いつもと同じ感じの様子しか出てこない」


「……共産主義国内では感染者が出ていないってこと?」


「そうだねぇ、やっぱりなんかあるよね……それとも新しい主席特別秘書官とやらが、やたらと有能で、MORSの時の日本みたいに感染を止めているのか、はたまた滅茶苦茶になっているけれど、情報統制しているのか、もしくは理由があって本当に感染者を出していないか」


 冴子は少し考えてから言った。

「理由があって感染者を出していない?」


 光也は笑いながら返した。

「MORSウイルスの時は、諸外国で同じ言葉が日本に対して使われていたんだろうね。感染者が出ていないって何?ってさ」


「笑い事じゃないわよ……だとしたら……アレよね?」


 光也はシベリアを大きな口に咥えて言った。

「そうそう。自分たちで作ったウイルスだから、ウイルス感染拡大前に、ワクチンも摂取拡大させていたんだろうね」


 冴子は首を左右に振った。


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