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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第7章 つなぐ

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【第7章 つなぐ 第64話 誰なの?これ】

 ワンが弁明書に書いた感情を表すような詩を読んだ、ワンの学生時代からの友人である、外交部副部長のソンは、この文章が何を意味するのかすぐに理解できた。


 ワンとソンは学生時代に、当時の主席を『赤い燕』と呼び方を変えて、本来許されない政治に対する批判などを論じていた。それが故にワンが書いた詩の1行目の『赤い燕』という文字が目に飛び込んだ瞬間に、ワンが自分に対するメッセージを送ってきたと認識できたし、続きを読むことにより、この国で大変な事が起こっている可能性を知る事が出来た。


 ソンはワンが懇意にしていた、出版社の代表に相談を持ち掛けた。 だがその次の日に、ソンは規律委員会の取り調べを受けた。

 それを知った出版社の代表は、事の重大性を改めて認識し、極秘裏に動くことを心に決めた。


 ソンはワンが書いた詩に2行つぎ足して、自分が毎朝同じルートを散歩していること。それを利用して、チェンと接点を持ちたいことを便箋に書き記した。そして出版社の代表は、この便箋をチェンに極秘裏に渡す手はずを整えた。


――


自分は毎朝同じ時間に外周路がある公園を歩いている。

>青き燕の子の一つは、毎朝同じ時刻に同じ路を飛んでいる。


チェンが時計と反対方向にこの外周路を動いてくれれば、何度か接触のチャンスがある。

>妹という時計の針の一本が逆さに動けば、止まらずとも何度も出会いすれ違える


――


 公園の外周路で拾ったポケットティッシュに仕込まれた、ソンからの手紙を読んだチェンは、ワンが危惧するこの国の危機を、自宅のシャワーから水が流れる音を聞きながら把握した。


 チェンは指で出来る限りこの手紙を細かく切り、3回に分けてトイレに流した。

 正直に言えば、今この瞬間のチェンの頭の中は、大きすぎる事態のサイズに何をどうして良いものか、一切思考ができない状態であったが、動かなければならないことは把握していた。


 翌日の月曜日の朝、いつもの月曜日と同じように、訓練を受けるために少し早めに家を出たチェン。


 職場についてトレーニングウェアに着替えていると、同僚が声をかけてきた。

「おはようチェン。ニュース見た?」


「え?」


「人民解放軍の諜報部の閃電白虎の科長が、ワン警護官と共に主席暗殺計画の嫌疑で規律委員会に捕まったって」

 チェンは自分の身の危険さを改めて思い知った。


 ワンと閃電白虎の力が使えないチェンは、いったい何をどのようにしたら、この国の陰でうごめく力を把握して食い止めることができるのか、何もできないまま途方に暮れていた。



 その三日後に、驚く発表がされた。


 いつものように定刻15分前には自分のデスクに座り、仕事の準備を始めていたチェン。あとからやってくる同僚とあいさつを交わして、自分の今日の手順を確認していると、室内がザワつき始める。


「チェン、見た?」

 後ろに座る先輩の女性が椅子を回してチェンに身体を向けて言った。


 チェンも振り向いた。

「何をですか?」


 チェンが言うと、先輩は自分のパソコンに表示させてある、政府共有イントラネットにある『中央組織部通知』という高官人事についての通知に関するお知らせのページにあった、人事発令に関する情報。


『中央決定により、ツァイ・シェン(蔡振)を中央警護局 副局長、国家主席警護官代理および主席特別秘書官に任命する』という文章であった。


 チェンは言葉を失った。


「特別秘書官って、いったい何なのかしらね……それに今までのワン主席警護官は規律委員会の査問下に置かれたっていうし、何が起こっているのかしら……」

 先輩は画面を見ながらつぶやいた。


 画面下部には、通常そのような添付ファイルは無いが『ツァイ新国家主席警護官代理兼主席特別秘書官からの訓示』という動画ファイルが有った。

 先輩はその動画をクリックした。


 画面にはツァイが誇らしげに映し出されていた。


「同志諸君。このたび、国家主席は国家運営の根幹たる戦略的計画に、全精神を傾けることを決意されました。それゆえ、主席は本日をもって、しばらくの間、あらゆる表舞台から身を退かれ、完全なる集中環境に移行されます。今後、主席から発せられるすべてのご意思、ご指示、ご命令は、国家主席特別秘書官である私、ツァイ・シェンが責任を持って伝達いたします。私の言葉を疑う者は、主席を疑う者と見なされる。私の命令を軽んじる者は、主席の命令を軽んじる者である。心して聞きなさい。これからの国家の未来は、私が主席の代理として導くのです」


 語り終えたツァイは、自己陶酔の極みといえる笑顔を見せていた。


「誰なの?これ……」

 チェンの先輩は、表情を曇らせた。


 その隣でチェンは、もっと強く表情を曇らせていた。


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