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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第7章 つなぐ

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【第7章 つなぐ 第60話 拾ったポケットティッシュ】

 チェンは何一つ変わらぬ素振りでソンとすれ違った。ソンも同じように、何一つ変わらずにチェンとすれ違った。


 チェンはキャップなどかぶっていない。ソンと目が合った。ソンからの動きに何も無かったことが、呼び出した張本人がソンであると言う証だ。


「次は今のままもう一度。そこで何も起こらなければ、その次は歩いてみよう」

 チェンは誰にも聞こえない独り言をつぶやいた。


 ソンは歩いており、チェンは走っている。よってすれ違う場所は先ほどとは違う場所になる。


 再度チェンの視界にソンが入り、眼があったような気がした。徐々に近づいてきた次の瞬間、ソンはその場で止まり、ポケットからタオルを取り出して額の汗をぬぐい始めた。


 ソンがポケットからタオルを取り出そうとしたときに、おそらくポケットティッシュが落ちた。目立つ派手な黄色いカンガルーのシルエット。メイトゥアン(美団)という、ウーバーイーツのような、出前専門の会社のマークだ。


 ソンとすれ違った1分後、チェンは立ち止まった。


――このままでは、先ほどすれ違った場所より手前ですれ違う。先ほどの落し物が、私への何かであれば……。


 チェンは方向を変えて、Uターンして時計方向に走り始めた。


 1分後、先ほどソンとすれ違った場所。ここにはもうソンはいない。そしてメイトゥアンのポケットティッシュが、誰かを待つように周回路の端の方に佇んでいる。


 チェンはそれを拾い、自分のウエストバッグにしまうと、また方向を変えて時計と反対回りで走り始めた。


「どうする?回収したポケットティッシュが答えなのか?それともただのポケットティッシュなのか?もう一周して、もう一度すれ違うべきなのか?もうすれ違わない方が良いのか?」


 チェンはまた誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

「一番避けるべきは、答えを誰かに奪われること。ポケットティッシュが答えではないのであれば、それは次のチャンスにかけよう。もし私が手にしたものが答えであれば、これを奪われない次の行動に私が移れるか」


 チェンは一人頷くと、次に見えた東門からトアンジエフー公園を出た。

 公園を出ると、走るのではないが自然な速足で湖沿いの道を一駅分歩いた。


 駅についたチェンは、くるりと背を向けて、大通りを走るタクシーを止めるとそのまま乗車。20分くらい走った大きめの駅の近くで降りると、中堅のビジネスホテルの中に入った。


 堂々とロビーを素通りして、トイレに直行したチェンは、個室に入るとウエストバッグからメイトゥアンのカンガルーシルエットが書かれた、黄色いポケットティッシュを取り出した。


 ビニールの包みから中身を取り出す。黄色いカンガルーが描かれた表紙。折りたたまれたティッシュ。その中間に折りたたまれた便箋を見つけると、右足のミズノを脱いで、インソールを外してその下に入れた。


 ミズノのシューズを履き直し、トイレを出るとここまで42秒。トイレの出口にあるゴミ箱にビニールの包みとティッシュを捨てると、ホテル内に直通されている地下鉄の駅舎に向かって歩き出すチェン。


 地下鉄に乗ると、小さな深呼吸。

「奪われない位置までもう少し」

 チェンは自分が住む官舎の二つ先の駅で降り、タクシーを捕まえて自宅まで戻った。


 チェンが住む官舎は、共産主義国では一般的な作りである、衛生間といわれるシャワーと洗面所とトイレが一体となった、浴槽がない広めのユニットバスのようなバスルームとなっている。


 チェンはトレーニングウェアを着たままでバスルームに入り、カーテンを閉めてシャワーを出した。


 シャワーから出てくるお湯には当たらないトイレに座ると、チェンは三日がかりでたどり着いた紙を取り出した。


「ふぅ」


 軽く息を吐くと、チェンは折りたたまれた紙を丁寧に広げ読み始めた。


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