表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第7章 つなぐ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/81

【第7章 つなぐ 第56話 デジタルではない理由】

 OSINTの座談会の日の木曜日、いつもと変わらぬ目立たない紺色のスーツを着たチェンは、いつもより1時間早いロッカー室でトレーニングウェアに着替えた。チェンが働く文化交流情報処では、毎週月曜日と木曜日に任意の体力訓練を実施している。


 体力訓練の日のチェンはいつもより1時間早く来て、45分間の軽いトレーニングを行う。  せっかく軍隊のトレーナーが指導してくれるチャンスなので、仕事柄座りっぱなしになってしまうチェンは、週2回の訓練に必ず参加していた。


 おかげでジョギング程度の速度であれば、長い時間走り続ける体力は維持していた。


 トレーニングが終われば、出勤時に着ていた紺色のスーツに着替えて、いつもと同じような仕事が始まる。


 木曜日だったこの日は上司であるソウが、学術座談会の参加を業務扱いとしてくれたため、いつもより1時間早い16:30に仕事を切り上げ、電車に乗って『華東文化出版社』の本社3階にある多目的ホールに向かった。


 17:00から始まった座談会では、出版社の編集者たちが集めたOSINTに関する一般論文などについての座談を行い、時代の変化と共にデジタルでの情報収集一本になってきている問題点などが熱く語られた。


 定刻より10分遅れの18:40に会が終了すると、今回チェンに誘いをかけてきた、ソンの先輩の後輩であるヤンという編集者が声をかけてきた。


 ヤンは30代後半の男性で、落ち着いた雰囲気を持つ男だ。

「チェンさん、今日はご足労頂きありがとうございました。今後の為にご感想をお聞かせいただきたいのですが」


 100人以上の参加者が集まったホールで、よく初対面になるチェンを見つけられたと、心の奥で不思議な感心を覚えていたチェンは笑顔で答えた。

「はい、お誘いいただきありがとうございました。私の卒業論文にも高い評価をいただいているとお聞きしています。心から感謝を。内容につきましては、私がOSINTに関わり始めた時にはすでに、世界の情報はデジタルデータの中にある世界でした。それ以前は本当に大変だったんだろうなと、先輩方の苦労を想像すると、私も今より高いレベルでの調査分析を実行していこうと考える次第であります」


 ヤンも笑顔で返す。

「そうですね。テレビの録画データや週刊誌などを集め読み、それらを紙に文字としてまとめていく時代であれば、私などは本当に使い物にならなかったと恐怖を感じます」


「かかる時間が違いますよね。華族や華僑たちが現地での放送をビデオテープで録画して、それを郵送で送ってくれる。それを再生するわけですから、情報が発信されてから手に入れるまでに今より多くの時間がかかり、それをまとめて報告するにも時間がかかる。ですがそれと同時に、今ほどの速度で世界が変わっていくこともなかった時代。どちらが過ごしやすかったのかは、なんとも微妙ですね」


 チェンの笑顔に少し照れるような表情を浮かべたヤンは、自分のカバンから一昔前の親指大のUSBメモリを取り出してチェンに渡した。

「実は私なりの論文を書いてみたのですが、ぜひチェンさんにご一読願いたく持ってきたのです。お忙しいとは思いますが、読んでご感想をいただけませんか?」


 想定外の展開に、少し驚いた表情を浮かべたチェンだったが、すぐに笑顔に戻りUSBメモリを受け取った。

「確かに私はプロとしてOSINTに関わっていますが、文章のプロであるヤンさんの論文評価が正しくできるかは自信がありません。それでもご縁があってのことですから、しっかり読ませてもらいますね」


 ヤンは手帳に何かを書き出して、そのメモを破いてチェンに渡した。

「これは私の編集部の電話番号と私の内線番号です。お読みいただいたご意見は、お電話で頂ければありがたいです」


 チェンはヤンの顔を覗き込むように言った。

「座談会の続きではないですが、メールやSNSなどのデジタルではなくて、編集部の電話がご希望なのですね?」


 ヤンは意味ありげに深くうなずいた。

「はい。編集部の電話でよろしくお願いします」

 チェンはヤンの意味ありげな態度に、少しの戸惑いを含めた表情になった。


 チェンが会場の出版社多目的ホールを出ると、廊下で二人の黒いスーツを着た男に声をかけられた。

「チェン同士。我々は中央規律検査委員会の者です。先ほど受け取ったUSBメモリーの中身を確認させてください」


 最近ではすっかり慣れたチェンではあったが、尾行されている事には気が付いていなかった。少し驚きながらも、自分のカバンにしまったUSBメモリーを規律委員会の男に手渡した。


 規律委員会の男は手慣れた手つきで、小型のノートパソコンにメモリを接続させると、その内容であるOSINTに関する論文データをコピーしてチェンに返した。

「何かしらのメモも受け取っていましたよね?」


 規律委員会の男に質問をされたので、チェンは財布の中にしまったメモを出した。

「論文の感想を知らせてほしいと言われて、編集者の電話番号と内線番号を受け取りましたけど?」


 規律委員会の男はそのメモも、スマホで写真を撮りチェンに返した。

「ご協力ありがとうございます。本日はお帰りですか?」


「そうですね。もう夜ですので家に帰って食事にします」

 チェンは規律委員会の男に敬礼をして、電車の駅に向かって歩いた。


 チェンが住む官舎に近い駅を降りたところで、チェンは財布からメモを取り出してヤンの編集部に自分のスマホから電話をかけた。


「さすがにもう帰っているわよね」


 3コールでヤンが電話に出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ