【第1章 きっかけ 第5話 把握情報からの想定】
翌日、チェンは閃電白虎が抜き出したデータを分析していた。電力使用量が増加していたパッケージ工場の中で、出荷先が成田空港の近くの倉庫であるとなっていたのは、ニプラという包装会社。
このニプラが成田空港付近の倉庫に輸送したものが、ミシン目付きのPTP包装材だとすれば、海外でプロテオブロックが作られた可能性も残る。ニプラは他の包装工場と違い、様々な容器を製造している。さて、この可能性をつぶすには……
チェンが思考を重ねていると、馬場弁護士からの電話が入った。
「もしもし、チェンです」
「どうも、馬場弁護事務所の馬場です。情報がそれなりに集まってきていますので、ご報告をと思いまして。お電話で大丈夫ですか?私、午後から別件で出っぱなしになってしまうので」
「お気遣いありがとうございます。ではお電話でお聞かせ願います」
「はいはい。えぇとですね、まず特許は取得されていますね。国際登録に関しましては最終確認待ちですが、どうやら登録されている可能性が高いようです。パテント使用で海外の工場でも作成は可能ですが、弁理士曰く、技術的事由により日本の工場でしか作れない可能性が高いとのことでした」
「なるほど、ありがとうございます。追加でお願いしたい事があるのですが、ニプラという工場が製造したミシン目付き容器について、輸出されているという情報を得たのですが、ミシン目付きのPTP容器がどの国へ輸出されたのか、輸出証明書などから確認することは可能でしょうか?」
「わかりました、うまくできるか保証はできませんが、ちょっと調べてみますね」
「すみませんが、よろしくお願いします」
電話を切ったチェンは、腕を組んで思考を巡らせた。
――私の目的は、プロテオブロックが日本で作られたのかを確かめること。だとすると、輸出された可能性がある容器について、どこに輸出されたかを探るのは優先順位が低い。いま把握できている、ミシン目付きのPTP容器が運び込まれた、3つの日本国内の製薬工場で何に使われたのかを探る方が重要だな。どのようにそれを探るか……私よりも閃電白虎に調べてもらった方が、確実で早いわよね……まずは前提条件を潰しちゃおう。
チェンはスマホでワンにメッセージを送った。
「正大製薬、第一共薬、竹田医薬の各工場の電力消費量を調べてください。また、それらの工場で電力消費量の増加が認められた場合には、同じタイミングの日本国内製薬工場で、同じように電力消費量が増加している工場を調査してください」
――調査結果として、ミシン目付きPTP包装材が運び込まれた製薬工場の電力消費量が増加していれば、状況証拠はそろった形になる。あとは、そのタイミングで電力消費量が増加した理由が『プロテオブロック』を作っていたからだという物的証拠をどうやってつかむか……
チェンは眉間にしわを寄せて考え込んでいた。
その日の夕方には、馬場弁護士からショートメールで連絡があった。
「チェンさん、先ほど追加で頂いた調査についての報告です。ニプラが成田空港から輸出した品物は、バイアルと言われる注射薬のガラス製容器であることが判明しました。PTP包装ではなく、海外製薬会社がRNAワクチンの容器として発注したもののようです。何かあればご連絡ください」
――なるほど。ニプラの電力消費量がミシン目付きPTP包装材の製造の為だったのか、バイアルの為だったのかは判別できないけれど、ミシン目付きPTP包装材を海外に輸出した線は無くなったってことね。
「早速の調査、ありがとうございます。また依頼があるときにはご連絡いたします」
続いてワンから閃電白虎の調査結果情報が電子メールで届いた。
「FW:ワン警護官。ご依頼の製薬会社の電力消費量は、ご提示いただいた3工場ともに、電力消費量が倍以上に増加しています。これと同じタイミングで、電力消費量が増加している製薬工場を、ご指摘いただいた3工場以外に8工場確認いたしました。つまり日本国内において、同じタイミングで11の製薬工場が、前年同期の倍以上の電力消費が行われた事実を確認しました」
――なるほど……と言う事は、PTP包装工場と同じで、24時間稼働した製薬工場が11ヶ所あった訳ね。
チェンは頭の中でパズルを組み立てながら眠りについた。
翌日チェンは、ここまでで把握できたことを、ワンに報告する為の文章を書き始めた。
――確か、製薬ラインの標準生産量は1ラインで30万錠だったはず。臨時的な特別対応で10倍にまで跳ね上がった事例もある……
以前の共産主義国内の製薬業界調査で学んだ内容を、チェンは記憶から呼び起こした。
「ワン警護官。今回ご指示いただいた、プロテオブロックの製造と、日本の関係についての調査報告をいたします。ご指摘されていた通り、ミシン目付きのPTP包装材は日本で作られており、WHOのプロテオブロック世界配布発表のタイミング3か月以内に、PTP包装材が5工場で24時間体制で作られた可能性が高いといえます。
この5工場が作成したPTP包装材の全ては、日本国内の製薬工場に運び込まれました。特定できている製薬工場は3工場、可能性が高い工場は1工場。これらの製薬工場は、同じタイミングで24時間対応で稼働したことは把握できています。電力消費量から、同じタイミングで、同じように24時間体制で稼働していたと推測できる製薬工場は、日本国内で11工場存在します。
過去の分析調査と公開情報で確認した結果としまして、通常では1ラインで、1日30万錠の生産となりますが、特例的な集中製造を実施すれば、1日300万錠の製造が可能である過去事実を提示します。1工場20ラインと考えた時に、11工場で1日6億6千万錠が製造上限。
1週間で46億錠の製造上限となり、1か月で198億錠が製造上限となり、180億錠の生産は十分可能であると試算できます。
よって、プロテオブロックの製造が、日本1国内で完了した可能性を否定する根拠は提示できないという結果となります。また、このミシン目付きPTP包装材を使用して、海外で製薬製造がおこなわれた可能性は、大変低いという情報もあります。
結論としまして、ミシン目付きの容器は日本だけで作られている可能性が高く、これらの製造工場の稼働率が上がったタイミングで、日本国内の製薬工場の稼働率も上がった。そのタイミングはWHOがプロテオブロックの発表をした直前である。よってプロテオブロックと日本の関係を否定することはできない。ワン警護官からのご指示が無い場合、3日後、夕方の便で帰国して報告を行いたいと考えます」
――さて。何もなければ、3日間は確認作業だけかな。
「3日後には帰国する可能性が高いけど、それまでは割と余裕があるよ」
チェンはSNSで、エミに連絡をした。




