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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第6章 ひらく

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【第6章 ひらく 第49話 母親が違うアリシアの姉妹】

 尋常ではない雰囲気を察知し、静かに部屋の椅子の上に座り、声を出さないように涙を流している翔子。


 悠太は檻の中の床に転がっている響子の手を、翔子に見えないように握っていた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……僕が……僕らがアリシアなんて作ったせいで……ごめんなさい……」


 悠太は誰にも聞こえないような小声で、呪文のようにつぶやき続けていた。


 響子はそっと悠太の手を握り返して小声で言った。

「安田さんは翔子ちゃんを守るために、今できることを全力で」


 悠太は震える手で響子の手を強く握りなおした。


 自分が着ていたパジャマを脱いで響子にかけると、下着だけになった悠太は監視カメラに向かって大きな声を出した。


「紙とボールペンをください。アリシアを作るために必要な機材をお願いしたいので、紙とボールペンをください!」

 何かにすがりつくような声で、何かに懇願するような声で悠太は言った。


 しばらくすると小隊長が部屋に入ってきて、ノートととても短い鉛筆を檻の隅に置いた。

「ボールペンはその女兵士の武器になる可能性があるので、これしか渡せません」


 悠太はすぐに書き始めた。

「ちょっとそこで待っていてください。すぐに書くので」


 悠太はノートに文字を書きながら、言葉でも小隊長に必要なものを伝えていった。

「高性能GPUが積まれたワークステーションを1台、OSはUbuntuで。必要なPythonライブラリは全てオフラインでミラーしてあること。外部ネット接続は不要だけど、過去のアリシアの初期バージョンと設計資料、それに僕が残していたバックアップファイル。これは僕が働いているエリシオン社のサーバーにあります……それがあれば、やれる可能性はある。これは最低限必要なものです。これが無ければ、僕にはできない。アリシアなんていくらでも作ってあげるから、これを準備してください」


 そういうと悠太は、ノートの1ページを破いて小隊長に渡した。

 小隊長は無言のままで、その紙を握りしめて部屋を出ていった。


 その日の夜には、翔子が座っている長テーブルに、悠太が依頼した機材が届けられた。エキドナはエキドナであるがゆえに、エリシオン社のネットワークに侵入し、悠太が残していたバックアップファイルや設定資料を盗み出し、外付けの記憶媒体に複写して悠太に渡した。


 下着姿の悠太は、さっそく機材を接続して使える状態にして、隣に翔子を座らせてキーボードを叩き始めた。


 翔子は黙って悠太の太ももの上に手を置いて、時々悠太の顔を見上げた。

 悠太と目が合うと、二人とも無言で微笑みあった。


 夜じゅう悠太はアリシアの制作を行った。翔子は悠太の太ももの上に頭を乗せて眠っていた。


 次の日の朝、3人分の朝食が運ばれてきて、悠太は檻の中に戻されて昼まで休むように言われた。


 檻の中で眠る悠太は、悠太のパジャマを着た響子の手を握って眠った。


 昼食が運ばれてくると悠太は檻から出されて、昼食を食べながらキーボードを叩き始めた。


 夜になって、複数の兵士がやってきて響子がいる檻に近付いたときに、悠太は大きな声で叫んだ。

「邪魔だ!この部屋から出ていけ!もしお前たちが彼女を連れて行ったのならば、僕は今後作業は続けない!翔子が殺されたって、僕の喉にナイフを突きつけたって、僕は作業をしない!わかったらさっさと出ていけ!」


 悠太は兵士たちを見て、そして最後は監視カメラを指さして大きな声で怒鳴った。


 兵士の一人のスマホが鳴って、スマホに映ったテキストを確認した後、兵士たちは不満そうな表情を浮かべて部屋から出て行った。


 翔子の隣に座り、キーボードを叩き続ける悠太は、誰にも聞こえないような小さな声で言った。

「翔子、怖がらせてゴメンね。僕が守るからね。全部僕が守ってみせるからね……」

 翔子は聞こえないふりをして、悠太の太ももの上に置いた手で悠太に信頼を伝えた。


 また朝まで作業を続けた悠太は、朝食と共に檻に戻されて、睡眠をとるように指示された。

 檻に戻った悠太と、パジャマ姿の響子は手を握り合って眠りについた。


 疲れ切っていた悠太は夢を見ていた。誰もいないプールを一人で泳ぐ夢。自由に、自分の好きに、クロールで泳ぐ夢。心地よい水に抱かれるような、心が落ち着くような夢。


 ふと気が付くと、響子の太ももの上に、頭を乗せて膝枕のような姿で眠っていた。


 誰にも気が付かれないように、響子の唇は悠太の唇と重なった。

 悠太は響子の手を強く握った。


 その後も、昼食が運ばれてくるタイミングから、次の日の朝まで20時間の間、悠太は休みなくキーボードを叩き、朝から昼までの4時間檻の中で響子に抱かれて睡眠をとった。


 そんなことを5日間繰り返した朝、悠太は監視カメラに向かって言った。

「終わったよ。僕たちを家に帰してくれ」


 翔子はこの5日間で、初めて本当の笑顔を浮かべた。


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