表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第6章 ひらく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/81

【第6章 ひらく 第47話 醜い安堵と支払わせた対価】

 悠太は黒いワンボックスカーの中で、厚めの黒い布製の袋を頭に被せられ、首のところを紐で絞られていたため、光が全く入ってこない状態で座席に座らされていた。後頭部に空気の入れ替えを可能にする穴が開いており、とにかく後ろの方から音が聞こえるので、悠太は音を聞き分けるために、落ち着きなく頭を動かしていた。


 指示されたコンビニの前に止まっていたワンボックスカーのスライドドアの前に立っていた男の顔は見た目も日本人の様だし、言葉も流暢な日本語を話している。

 「安田さん。我々はあなたを傷つけたくはない。我々の仕事は安全にあなたを娘さんの下に届ける事だ。それ以外のことは知らない。私はあなたの手足の自由を奪いたくはないが、あなたが協力してくれないのであれば、手足の自由を奪うことになる。協力していただけますか?」


 頭に袋を被せられている悠太は、今しゃべっている相手がどっちにいるのかわからないので、キョロキョロと顔の向きを変えながら言った。

「もちろん。僕はあなた達のメッセージに従って、単独独自で来た。目的は翔子の場所まで連れて行ってもらう事です。協力しないのであれば、初めから来ません」


「ありがたいです。トイレは私たちの指示したタイミングだけになります。それ以外のタイミングで我慢できない場合には、そのまま垂れ流しになります」


「あの、すみませんがどのくらいの時間で翔子の下にたどり着けるのでしょうか?すぐであれば心配はしませんが、長時間であれば、水分補給とトイレのバランスを考えねばと思って……」


「時間はなんとも言えませんが、まあ、安田さんが思っているより、遠くに感じるかもしれません」


「え?遠いんですか?」


「視覚を奪われている時、人間はやたらと時間がゆっくり流れるような気がするものです」

 その後、悠太が重ねて質問をしたが、それ以降は返事が無かった。隣に座っている気配はあるが。


 隣に座る男とは違う声での会話が悠太の耳に届いた。

「Shouldn’t we tie him up tighter, sir? Just in case?」


 隣の男が返した。

「He said he wouldn't resist as long as he gets to see his daughter. It's easier this way.」


 はじめの男が鼻で笑って言った。

「You're too soft, sir.」


 隣に座る男は冷静な声で返した。

「Times have changed. Even soldiers shouldn't be savages outside combat. Not in my squad. Bad optics for the company.」


「Yeah, yeah. Got it.」


 悠太は必死に聞き取ろうとしていた。


――英語だ。誰かが僕を縛った方が良いのではないか?と言った。サーと言っていたから。日本人の人が上司ってことか。


本人が娘に会うまで協力すると言ったから、この方が自分たちがラクだ。みたいな感じかな……


――サーは優しすぎると言ったら、時代は変わったから、コンバットの外、戦闘以外では野蛮人ではいけない。この会社の悪い印象になる。そんな意味だと思う。


最後はわかりました。みたいな感じか……美咲ちゃんだったら普通にしゃべれるだろうけれど、僕はどうにか言っている意味が分かる程度だなぁ……


――でも、会社で軍隊で戦闘で……日本だと警備会社とかが限界だけど、アメリカには民間軍事会社があるって話だし。この人たちは誰かに雇われた民間軍事会社の人なのではないか?だとしたら、僕がおかしなことをしなければ、とりあえず安心して大丈夫だろう……


 悠太は相手がプロである以上、ある程度信頼してよいのではないか?という結論に達した。


 ずっと袋を被せられ、何の情報もない真っ暗な世界で時間を過ごしている悠太は、確かに自分の想像よりもずっと時間の流れがわからなくなっていた。


 悠太は隣の日本語人と思しき人に言った。

「すみません、今何時ですか?」


 確かに彼の声で返事があった。

「A secret.」


――英語で答えたという事は、本当はアメリカ人なのかな?

 悠太はそれ以上の質問はせず、そのまま静かにしていた。


――この車には、運転手、助手席に一人。僕は真ん中の列に座っていて、隣には日本人らしき人。後ろの席に、たぶん一人。僕を入れて合計5人が乗っているのではないか?


高速道路には一度も乗っていないのはわかる。車の速度が、上がったり下がったり、止まったりウインカーが出たり。どう考えても高速道路ではないと思う。


――何度かのトイレは、たぶん公衆トイレのバリアフリーとか多機能トイレと言われている、車椅子の人とかも使える個室トイレだった。その後で乗り込んだ車が明らかに違うと気が付ける時もあったし、同じ車だった時もあると思う。たぶん4回は車を乗り換えているはずだけれど。


 相当な時間がたって、やがて車が右に左にと峠道のような動きを始めた。しばらくするとタイヤの音が、砂利道を走る音に変わった。そして車が止まり、悠太の頭から黒い袋が外された。


「降りてください」

 止まった車の中で頭にかぶされた袋を外された悠太。明るさに視界が確保できなかったが、目が慣れてくると午前の日差しが悠太を包んでいた。穏やかな英語が数人の口から聞こえる。同じ車に乗っていた男たちが車から降りるとタバコを吸ったりしていた。地面は土と砂利で、ほんの少しひんやりとした空気が肌をなでた。


 そこは山間の施設のようだった。山ではあるが、広い範囲で枯れ木が山を覆っている。遠くの山は緑の木々に溢れているが、自分がいる周囲の山は岩が出ていたり、枯れ木が山を覆っている。古い研究所跡か、あるいは廃工場のような建物。


 悠太が乗っていたワンボックスカーから降りてきた男たちは、全員が黒い戦闘服を着ており、手には自動小銃、H&K社G36Cを持っている。腰のホルスターにはGlock19が刺さっている。その様子は、明らかに訓練を受けた傭兵そのもの。


 悠太に日本語で話しかけていたこの日本人のように見える男は、今回の作戦を担当する小隊の隊長。

「安田さん。翔子さんのところまでご案内しますので、ついてきてください」


 悠太が彼の後について歩き始めた時に、荒っぽい運転で悠太が乗ったワンボックスと同じ車が到着した。


 横のスライドドアが開くと同時に、全裸の響子が車内の傭兵に蹴り出され、宙を舞うように飛び出してきたかと思うと、地面に転がった。


 響子は顔を上げると血だらけであり、身体も傷だらけになっている。


 悠太は、その状況に釘付けになった。


 胸が焼けるように熱くなった。叫びそうになる喉を、奥歯で押しとどめる。


――いま騒いだら、何のためにここに来たかわからない。翔子を……


響子がふらつきながら立ち上がった。その髪を無造作に掴む手。後方の車両にいた隊員の一人が、鼻で笑うように英語で言った。悠太は段々と、耳が英語に慣れてきていた。

「小隊長。気が強いけれどなかなか具合が良い女だ。うちの班は楽しんだから、今夜は小隊長の班の連中も、この女を使ってパーティーでもやったらどうだ?」


 悠太が乗ってきた車を運転していた兵士が口笛で賛成の意思を表示した。


 悠太はこみ上げてくるものを、唇を噛むことで押さえつけた。


 小隊長が英語で返した。

「班長、なぜ私の指示を守らない?動物じみた真似を許した覚えはないぞ?」


 全裸の響子の髪の毛をつかんで、引きずる様に歩いている班長が言った。

「小隊長、仕方ないでしょ。あんたたちの後を追ってきたこの女兵士。こいつは明らかに訓練された兵士だ。小隊長の班のバックアップの為に俺たちがいるんだ。小隊長の邪魔をするやつをやっつけるのが俺たちの仕事でしょうが?違うんですか?」


「ああ、もういい。この女も一緒に連れていく」


「いやいや小隊長。これから俺らの班が、この女兵士の身体に情報を聞き出してやりますよ」


「黙れ、もう一度言うぞ、この女も一緒に連れていく」


「ちぇ。ヘイヘイ。うちの小隊長は本当の戦場を知らないからな」


 その時、建物の入口のドアが開き、中から翔子が現れた。



 悠太の足元から、何かが崩れ落ちるような音がした。響子の苦しみより、翔子の姿を見て自分が一瞬安堵してしまった事実に、自分自身が腹立たしくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ