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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第5章 あざむく

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【第5章 あざむく 第46話 テレプレゼンスを切り裂く超ロングストライド】

 光也が何かに気が付いたように言った。

「ねえ、さっき紗耶香ちゃんが悠太君が見ているテレビ局を確認してくれたのは、おそらくライブで録画しているテレビ番組のデータなんだろうけれど、紗耶香ちゃんが見たNHKの映像には地震速報のテロップも出ていた?」


 紗耶香はハッとした顔をして、すぐに先ほどの映像を再度確認する。

「光也さん、無いです。なぜか情報収集係が集めた映像にはテロップはない」


 慌てた声で冴子が確認をする。

「紗耶香ちゃん、それらのデータ収集はCCC、つまり首相官邸で行われているの?別の場所?」


「首相官邸の道路向こう、光也さんが今いる合同庁舎8号館のNSS本部で行っています」


 この会話を打ち消すような大声を出したのは光也。

「やばい!みんなぁ!」


 光也が共有した画面。悠太がいるリビングを映しているライブ映像。悠太が一瞬天井に顔を向け、振り向くようにどこかを見て、何かをつぶやいて立ち上がり玄関の方に向かって歩いて行った。


 さらに慌てる声の冴子。

「アリシア、セーフハウスの待機室にいる響子ちゃんを呼んで!」


「……冴子、御殿山セーフハウスにいる響子と連絡が取れません。……緊急事態です、御殿山セーフハウスが一般通信網からドロップアウトしています。御殿山セーフハウスが通信網から脱落して通信出来ません」


 CCC内の外務省職員が御殿山セーフハウスの警備員のスマホに直接電話をする。

「……あれ?電源が入っていないって……」


 すぐに全員がキーボードを叩きだし、現状を確認する作業に入る。当然のように誰かが「携帯は?!」や「モバイルデータは?!」と怒鳴るような声を上げる。

 応えたのはアリシア。

「一切のモバイル通信でもアクセスできません」


 その直後に冴子。

「さっきから響子ちゃんに電話しているけど、通常通話でもSNS通話でもダメ。電源が入っていないか電波が届かないってことは……」


 光也が諦めたように言った。

「冴ちゃん、ジャミングだよ。やられた……とにかく御殿山セーフハウスが情報通信的に孤立させられた」


「光也が仕掛けさせたPLCは生きているんでしょ?!」


「通信とはいいがたい通信だからね。生きているよ」


「それもう一つ仕掛けたんでしょ?!さっさとこの音声チャットにつなぎなさい!」


 光也はキーボードを叩き、セーフハウスのスタッフルームに設置したPLCとアリシアの音声チャットをつないだ。

「……音声だけつないだよ!」


 冴子は大きな声を出した。

「響子ちゃん!1秒でも早く起動!安田悠太がエントランスから外に出ることを阻止!」


 驚いたように百瀬の声で返信。

「いま響ちゃんは、ものすごい勢いで出て行きました。僕も追従でOKですか?」


「おそらくエキドナにより、その建物の通信は封鎖されている。ハッキングもされている。モバイル通信もおそらくジャミングで阻害されている。妨害電波範囲がどの程度の範囲かまだわからない。悠太氏はテレビを見ていて突然飛び出していった。可能性としてジャミング電波のシステムを使って、この地域だけのテレビ放送に、字幕テロップを使ってメッセージを伝えた可能性がある。御殿山セーフハウスがある品川区と隣の大田区の住民から、テレビ局に何かしらの電話が殺到中である事実を鑑みると、よくわからないメッセージが放送されて、そのクレームや問い合わせだと予想。でも私たちは具体的内容はわからないから、悠太氏がどのような行動に出るかが予測できない。とにかく動きを止めさせて!」

「通信はここに戻ってから。了解行動開始」


 静寂になったヘッドセットの向こう側。初めにみんなの心に刺さったトゲに触れたのは光也。

「ただのデジタルデータと現実を勘違いしちゃうよね。僕の目の前にいた悠太君に、部屋に戻っておとなしくしていてねって、声をかける事すらできない。実際には遠くにいる事実を、つい忘れちゃうよ」

 全員同じ気持ちを噛みしめていた。


――


 肉食動物が獲物を見定めて狩猟行動を開始したような速度で、エントランスから飛び出した響子。全速力で走りながら首を左右に振って情報を収集していた。

「……いない、外に出た、きっかけがあった、自発的であれ強制的であれ、ランドマークが必要ということは左」


 響子は自分が見定めた獲物が、道路を左に歩いて行ったことを見ていたような勢いで、長い脚から繰り広げられる、ピョンピョン飛んでいるような超ロングストライドの歩幅を縮める事もなく、猛スピードのままで左に曲がった。


 高層ビルの足元に整備された、大きな公園のような緑地帯。大使館や学校などと古い住宅街が混在するこの地域は、東京23区でも都会的な場所であるとは思えないほど、深夜は暗く静寂に包まれている。


 細い道路にもところどころの街灯があるだけで、この時間、建物からの照明は期待できない。


 薄暗い道路を跳ねるように前に進む響子には、次の十字路の周辺が明るくなっている事の意味が把握できていた。あの十字路を右に曲がって200メートル程度先にコンビニがある。今日の夕方、百瀬と二人で食べ物と飲み物を買いに来ていた。

「悠太氏が自分で何かを望んだのであればコンビニに買い物、強制的だとすればここに来いというわかりやすい目印が必要だから、やっぱりコンビニ一択なんだよな。この深夜の御殿山では」


 脳内で独り言が少しだけ言葉に漏れながら、速度を抑えきれなかった響子が、十字路をやや大回りに右に曲がると、コンビニの駐車場のワンボックスカーに乗り込む悠太を遠くに視認。


――ああ、間に合わない


 響子はとっさに大きな声を出した。

「止まれ!止まりなさい!公安だ!!


 一瞬振りむいた悠太、隣にいる黒ずくめの人間に促されるようにワンボックスカーに乗った。

 次の瞬間ワンボックスカーはタイヤをきしませ急発進した。


――諦めない。信号待ちとか色々あって、深夜でも都内ならまだ追いつく可能性は残っている。冴子さんがバックアップもかけてくれているはず。脚を止めない、諦めない。


 響子はその速度を保ったままで、ワンボックスカーが走り去った方向に向けて走り続けた。


 ワンボックスカーがウインカーを出さずに次の交差点を左に曲がる。

「あそこからは大通りだから信号もある。むしろ確率が上がる、諦めない」


 響子はさらに速度を上げるようにワンボックスカーが左に曲がった交差点を、自分も左に曲がった次の瞬間、前だけを見て車道を走っていた響子の後ろから来た別のワンボックスカーが脇に並ぶと、スライドドアが開いて車の中に引きずり込まれた。


 そこから2キロほど進んだ道路上には、響子が着ていた衣類のすべてと、響子が持っていたスマホが投げ捨てるように転がっていた。


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