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縁の理(えにしのことわり)中巻~ReTake.ZERO~悪(あく)のいない世界の片隅で、なぜ銃は火を噴いたのか?  作者: 平瀬川神木
第5章 あざむく

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【第5章 あざむく 第44話 粉飾された優しさ】

 美咲と結婚してからというもの、23時前にはベッドに入る習慣を持っていた悠太だったが、今日はどうにも目を閉じると嫌なことばかり映像となって出てくるため、なかなか眠りにつけないでいた。慣れない環境だということもあるかもしれないが、セーフハウスのベッドルームから美咲を起こさないようにそっと出てきて、リビングでテレビを見ていた。

 民法のバラエティー的な番組は神経に触ったので、興味はなかったがNHKで放送している、有名な世界のテニス大会の様子を見ていた。


 ボールの行き来や、解説者の説明、定期的に挟み込まれるニュースをぼんやり見ていると、だんだん眠れるかな?という気分になってきた悠太。

「明日からの為、ちゃんと眠ろう」


 そう小さな声で呟いた時に、テレビ画面の上部に、緊急速報のテロップが表示された。


「26時00分ごろ地震がありました

 各地の震度は次の通りです」


 悠太は自分のスマホを確認すると、午前2時。

「……最近は午前2時を26時と表現するのかな?……」


 テレビ画面のテロップが変わる。


「震度2600 安田市 黒田市 

 setImmediate(() => trace("Shoko"));Location: ministep.now: yuta===1」


 悠太は皮肉めいた笑顔でつぶやいた。

「いくら深夜だからって、入力ミスにもほどがあるでしょ。いまどき、自動入力じゃないのかな……震度2600ってなに?間違えて時間を入れちゃった?……」

 

 違和感を感じた悠太は、寝転がっていたソファーから慌てて立ち上がり、テレビ画面に近寄った。

「……安田市と黒田市ってなんだよ……僕の苗字と美咲ちゃんの旧姓じゃん。setImmediateってプログラミング言語のJavaScriptで『即時非同期実行』の意味を持つコード……、 trace"Shoko”、翔子の痕跡、Location、位置、 ministep.now、コンビニのミニステップに今? yuta……僕だ……===1は1だけ……あ……2600は世界的なハッカーの機関紙名、これはハッカーからハッカーへのメッセージという意味……今すぐ、誰とも同期せず、僕一人でミニステップに行くことが翔子の居場所までの痕跡を知るたった一つの方法?」


 テレビでは繰り返し地震速報のテロップが流されている。3回読み直して、自分の思考を確認した悠太。


――誰が何のためにかはわからないけれど、パトカーがマシンガンで襲われたんだ。なんでも有りだ。誰かが僕に連絡をしてきている。安全ではないことは理解したうえで、翔子につながる道が今僕の目の前にある以上、行かない手段を僕は持ち合わせていない。

 悠太は一度天井を見上げて、美咲が寝ているベッドルームの扉を見た。

――美咲ちゃんへの裏切りかな……わかってもらえなければ……仕方ない……


 悠太はリビングを抜けて靴を履き、そっと玄関を出てエレベータは使わずに階段で1階のエントランスホールに向かった。


 悠太はエントランスの受付デスクに行くと、そこにいた警備員に声をかけた。

「すみません。娘のことを考えると全く眠れなくって……妻には内緒なんですが、若いころタバコを吸っていた頃がありまして。もしお持ちだったら一本いただけないでしょうか?」

 警備員は心配や同情を表す表情で、自分のポケットからタバコ一本と、使い捨てライターを手渡した。


「喫煙者の方で助かりました。気持ちを落ち着けたいので、玄関先で夜風に当たりながら吸っていいですか?とてもじゃないけれど、医者である妻がいる部屋では吸えないので」


 悠太が言うと警備員はなんとも微妙な表情を浮かべていた。何とかこの若い父親の力になりたい。そんな風に警備員は思った。

「本当はあなたを外に出すのは規則違反なんですが……遠くには出ないでくださいね。それからスマホも持って出ないでください。脅威対象に居場所がバレてしまいますから」


 悠太はこれから迷惑をかけるであろうことを、心の奥で深く詫びながら言った。

「手ぶらです。頂いたタバコ以外は」


 悠太が精一杯のつくり笑顔を見せると、警備員の操作でゆっくりと開く特殊防弾ガラス製の自動ドア。


 悠太は安全と混沌の境界線を、迷いなく踏み越えた。


 警備員は受付カウンターから、チラチラ自動ドア越しに悠太を確認しようとしているが、午前2時過ぎであり、エントランスホールの外の照明は落とされている。


 明るいエントランスホール内からガラス越しに外を見た時、屋外の様子はよく見えない。その最大の理由は、この建物の全部のガラスがそうであるが、エントランスの出入り口に使われている大きなガラス製自動ドアも、2トントラック程度が突っ込んできても突き破れない、大変分厚い特殊防弾ガラスで作られている。


 その為、普通のガラスと比べて可視光線の通過が少なくなっているうえ、狙撃や襲撃を防ぐ為に、銃の狙いを定めるのにつかわれる、レーザーポインターの赤や緑の可視光線を歪ませたり、止めたりする性能も持っているので、特に夜間において建物内から外を見た時に、外部の様子を正しく可視光線で把握するのは難しい状態となる。


 警備員がいるカウンターデスクには、セーフハウス門扉の外道路の右と左に向けたカメラ。門扉から自動ドアの方を向いたカメラ、自動ドアから門扉を向けたカメラの4台のカメラの映像が、警備員のカウンターにある4台のモニターに表示されている。


 悠太の様子を直接視認できなかった警備員は、そのモニターに目をやりながら、道路に面した入り口門扉からエントランス自動ドアまでの車3台分程度のスロープの様子や、門扉の外の様子を監視カメラで周囲の警戒を行い、エントランス自動ドアのすぐ前で、悠太がタバコを吸っている姿を目で確認していた。

 

 次の瞬間、セーフハウス1階の奥にあるスタッフ待機室のドアが激しく開くと、響子が猛ダッシュで廊下をエントランスに向かって走ってきた。


 片手にスマホを持った響子は怒鳴るように警備員に言った。

「ドアを開けて!」


 警備員は慌てて左手でロック解除ボタンを押しながら、右手で開閉ボタンを押した。

 ゆっくりと自動ドアが開きだすと、全力で走ってきた勢いのままに響子は外に飛び出した。

 警備員が見たものは、誰もいないエントランスの外。実際には響子が門扉まで走って行っているにもかかわらず、悠太がタバコを吸っている平和な夜を映し出す監視モニター。


 この建物は外務省管轄である為、警備員も外務省の職員ということになるが、あとから早足でやってきた外務省FSBの百瀬は警備員に言った。

「この建物ごとハックされているようだ。安田悠太さんを元気付けたかったのかもしれないが、外に出すべきではなかった……」


 警備員の心臓は全力疾走をしている響子より高鳴り、頭から血液が一気に引いて、真っ青な顔色になっていった。


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