【第4章 うごく 第35話 村山庁舎のノバシーク】
アリシアの設計者が美咲であったことを知って、選ぶことが出来ずに苦しんでいたが、美咲のアドバイスに従って、ワンを信じて報告した結果、心の重さを回避できたチェン。
ワンに言われた通り、自分のやり方でプロテオブロックの設計者を探すための手順を思考していた。
今回日本に来る前に、自分の仕事であるOSINTでの日本の情報収集の中で、自分の仮説に届く直前まで来ていたことを思い出したチェンは、ノートパソコンを開き、その時に思考をまとめる為に作成した、ジートゥアプリ(共産主義国が開発したマイクロソフトのパワーポイントのようなアプリ)のデータを表示させていた。
その一部には「厚生労働省高次情報解析独立支援機構」という言葉と「パンデミック調整官」というタグが張られており、「どんな仕事?」「人員規模は?」「誰?」というタグが張り付けられてある。
その下には「各省庁の調整であれば厚生労働省ではないはず」「病院と製薬、ウイルス研究などの調整?」というタグ。
チェンは少しずつ、その時に自分の頭に浮かんだ仮説を掘り返していた。
――あの時私は、MORSウイルスの感染拡大のタイミングに近いタイミングで新規に立ち上がった、この長い名前の高次情報解析独立機構という施設のような名前の部門に違和感を覚えた。そして雑誌などで出てくる、パンデミック調整官という役職に対して、この人物の個人名が全く出てこないことに違和感を覚えた。
ん?美咲さんが応慶大学病院の医師という立場から、厚労省に出向していたという事実。これは……
チェンはスマホを取り出して、SNSのメッセージを送信した。
「美咲さん。答えられない場合はスルーで結構です。美咲さんが厚労省に出向していたというお話がありましたが、この長い部門名の厚生労働省高次情報解析独立支援機構という部門の、仕事内容がよくわからない名前のパンデミック調整官というのが美咲さんですか?」
返信まで数日かかるかもと考えていたチェンの予想を裏切って、すぐに返信があった。
「元気出たみたいね。良かった。上司が良い人でなにより。それは私よ。任命書を受け取りに行った時に、何を求められているのかわからない名前だと室長という責任者に聞いたら、厚生労働大臣が考えた名前だと、困った顔をして言っていた。私の仕事はそれまでも応慶大学病院を産休で休んでいたから自宅でやっていたんだけれど、アリシアとウイルスの感染拡大を日本国内に持ち込ませないための作戦を話し合う役割だった」
……どうしてこんな風に、まっすぐに歩けないんだろう……私は……
「ありがとうございます。普段の私の仕事は、世界中の情報に目を通す仕事でして、日本語が得意な私は、特に日本の情報に触れる事が多いのです。役職名が謎だったので気になっていたのですが、美咲さんのお話の中で、マッチする事が多かったので、美咲さんなのかな?と疑問を持って聞いてみました」
チェンは笑顔でスマホをテーブルの上において、ノートパソコンに注意を向けた。
――つまり美咲さんはアリシアと会話する事により、ウイルス対策を紡ぎだしていた。それを全省庁のプラットフォームとなっていたアリシアは、全省庁と共有していた。
……でもよ?さすがの美咲さんだって、全省庁のウイルスに関する問題点を一人で見つけて話し合うなんて無理よね。つまりアリシアが見つけて、アリシアが自分でその対処方法を考えて対処し、自分で判断できないと考えた場合、その案件についての相談を、美咲さんに持ち掛ける。
つまりワン警護官が言っていたとおりに、アリシアというAIは誰かの指示があって答えを出すのではなく、自分で何かを探しに行く存在。自発的に問題を把握し、それに対する対策を考える存在。場合によって、その思考を美咲さんに投げかけ、アリシア自身が自分の思考にずれがないか、問題がないかを確認していた。普通のAIと人間の関係が逆転している関係……
チェンは閃電白虎に依頼メッセージを送る。
「MORSウイルスの感染拡大タイミングと近しいタイミングで、厚生労働省内に高次情報解析独立支援機構という部門が設立されました。調査してもらいたいのは二点。この部門の設立経緯とこの部門の設立タイミングに近しいタイミングで、各省庁配下に新規設立された部門についての調査をお願いします」
――オープンソースでは発表されていないかもしれない新規部門の立ち上げ。この情報から何かにつながるかもしれない。
チェンは自分の仮説に焦点を当てた。
――あの時考えたのは、感染症が起点になっているのだから、厚労省が主導権を握るのはおかしい話ではない。高次情報解析という文言から、この部門はウイルス自体の解析や、私のように様々な情報を解析する部門である可能性を感じた。
このパンデミック調整官という人物からの指示で、誰かがプロテオブロックを設計したのではないか?と思った。それは美咲さんだった。自分がプロテオブロックの設計をしたわけではないと言った。アリシアが設計したのであれば、私がしたのではないという発言につながるのかしら……
やはりそこには他の人間が存在しているのではないかしら?
依頼してから数分しか経過していなかったが、閃電白虎からの返信が届いた。
「チェン同士。ワン警護官からあなたの依頼は最優先事項という指示が出ております。厚生労働省の配下に、国立感染症研究所というものがあります。これは新宿区にある外山庁舎と武蔵村山市にある村山庁舎、東村山市にあるハンセン病研究センターが存在しますが、村山庁舎にRNAワクチン設計部という部門が新設されました。公開情報にも上がっておりますが、ノバシークという生物遺伝子を解析する機械を購入したのも同じタイミングですので、日本国内で国立研究所としてRNAワクチンの開発を行う事を目的に設立されたと予測しています。このタイミングでは、例えば海外の資本が日本国内の土地を購入する事を制限した法律が制定され、これを管理する部門の新設や、沖縄本島、北海道感染症特区の存在なども合わせまして、数えきれない数の新設部門が設立されています。全件のデータが必要であればお渡ししますが、チェン同士の目的を推測する限りにおきましては、この村山庁舎の件がキーであると考えます」
――さすが閃電白虎ね。もしこの情報から入口が見つけられない時には、他の情報をもらって、一つ一つつぶしていくしかないわね……
チェンはジートゥに「RNAワクチン設計部」「アリシア」「富岳」と三つのタグを貼り付けた。




