【第3章 みちびく 第26話 初めての材木座海岸】
身体のサイズに対して、オーバー目に摂取したカロリーを消費するべく、15分くらい歩いて、材木座海岸にやってきた二人は、砂浜に座って海の風を吸っていた。
憧れの美咲と色々な話をして、すっかり気持ちが緩みがちになっているチェンは、海を見ながら美咲に言った。
「日本の厚生労働省で務めているという『アリス』という人物がとても有能らしくてですね、その人を見つけてほしいなんて依頼もあったのですが、日本人でカタカナで『アリス』って名前の人は見つけられず、こっちの方はあきらめようかななんて思っています」
それを聞いて笑いながら美咲が言った。
「そうね。いないとは言えないけれど、アリスって名前は少ないでしょうね。その昔ね、私が自分で簡易的なAIを作ったんだけれど、自分一人では進化させるのに限界を感じた時に花楓に紹介してもらったのが悠太君なのよ。悠太君が初めにやる事として挙げたのが、そのAIに名前を付けるってことで。アリシアと、何だったかもう一つ候補を出した時に、面倒だからアリスにするって言ったら、それでは不思議の国に迷い込んでしまうから、アリシアで決定ってなったのよね。もう、ホント悠太君てば、大好き」
あれだけクールな美咲が、夫の事になるとバカになるとは聞いていたけれど、デレデレになっている美咲を見て、なんだか楽しくなってしまったチェンは大笑い。
二人はパンを買って鎌倉駅の方に向かって歩いたが、時間的にも甘味処はまた今度という事になった。
チェンにとっては夢心地の時間はあっという間に過ぎていき、なんだかフワフワした心境のままホテルに戻った。
しつこいくらい、本当にまた甘味処に連れて行って欲しいとお願いをしたことを恥ずかしく思い、反省をしていた。
自分の仕事のことなどまったく考えていなかったので、ホテルに戻ってスマホを取り出すと、ワンからのメッセージがあった。
「チェン。日本には灯台下暗しという言葉があるのだが、日本の全ての医療機関や、全省庁が使用しているプラットフォームが『アリシア』という名前のシステムであることに気が付いた。共産主義国の力が及ぶ日本の病院経由で確認を取ったが、これが過日ジュネーブのWHOでのインタビューで出ていた『アリス』の正体ではないのだろうかという考えを持った。ジュネーブには再度この線で確認作業に当たらさせている」
チェンは少し心配になってきた。今日美咲と一緒に行動したのは、あくまでも個人であるジュジュと呼ばれている自分であるが、美咲が言っていたアリシアと名前が同じであることは事実だ。だが美咲が15歳の時に作った簡易AIだと言っていたし、美咲はその後プログラマーになったのではなく、医師になったのだから関係ないだろう。そう思い込もうとしている自分に気が付いているチェンは、心の中に生まれたモヤモヤが消せずにいた。
共産主義国内では、ワンがこのプラットフォームアリシアについて調査の指示を出した。
閃電白虎や共産主義国マネーが注入されている、日本の病院経由で、様々な考察が進められた結果の仮報告書が添付されていた。
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【報告書:アリシア・システムに関する非公式調査概要(エンドユーザーアカウント経由)】
■ 調査対象
日本国内の医療機関において導入されているとされるアリシアというシステム(以下、本システム)。現在、厚生労働省系の電子カルテや医療支援システムに間接的に連携しているのと同時に、各省庁間の共通プラットフォームとして使用されている。
本報告は、侵入またはソースコードレベルでの解析を行っていない状態において、正規の医療機関エンドユーザーアカウント経由で取得可能な表層動作・通信ログ・UI挙動・応答特徴等をもとに判断された予備的技術分析である。
■ 観察事項と見解
構造的洗練度の違和感
本システムは「応答精度・業務適応性」に優れる一方で、下記の観点から異質な設計アーキテクチャが疑われる。
UI/UXコンポーネントのコード最適化不足
クライアントUIにおけるフォーム設計や入力補完ロジックが、一般的な大規模言語モデル(LLM)搭載AIとは不整合な挙動を示す。たとえば、文脈理解が深い一方で、UI反応が遅延しており、非統一的なJavaScript/HTMLテンプレート群が組まれている可能性がある。
応答文法が日本語に強く依存
出力ログを解析したところ、日本語の語順と助詞構造に強く最適化された生成文法を採用しており、これは汎用LLMベース(英語コア)との設計思想の差異を示唆する。
特に、係り受け解析精度が異様に高く、逆に語彙の汎化(embeddingの一般性)が不自然な狭さを見せている。
モジュール連携の個人開発的設計痕跡
本システムには、業務モジュール(服薬支援・介護記録支援など)との連携構造が“密結合型”となっており、これは大規模AIが避ける『疎結合による可搬性設計』の原則に反する構成である。
さらに、ログに残された一部レスポンスに『//debug_temp_3 や function testBackupOverride()』などのプレフィックス付き応答が散見されており、『製品版に残留する開発者向けデバッグ記述』の存在は、個人あるいは極小規模の開発体制である可能性を示唆する。
通信インフラ・セキュリティ挙動
通信はHTTPS over 443 port(標準)ではあるが、セッションタイムアウトや更新頻度において、クライアント―サーバ間のポーリング間隔が非常に短く設定されており、メモリ最適化が施されていないと見られる。
アカウントごとのセッションキー発行は都度トークン制だが、ログイン時のIP固定化が行われておらず、セキュアエリア管理が緩い設計である可能性がある(※逆に言えば、意図的な匿名性担保機能かもしれない)。
■ 仮説と戦略的示唆
本システム「アリシア」は、国家主導のAIではなく、個人または限定された少人数チームによって設計・運用されている可能性が高い。
根幹アルゴリズムは、日本語構文解析と意思決定補助に特化しており、英語をベースとした外来AIとは異質な言語モデルである可能性あり。
開発者が日本語圏の人物(または育成環境)である場合、当該人物への直接的接触が戦略的価値を持つ。
■ 次段階提案
非公式にログレベルの監視強化(エンドユーザー側からの逆解析)
厚生労働省との接点を持つ医療機関、特に中堅~小規模施設への資本投下調査(共産主義国企業との接点あり)
「アリシア」名称に近い商標登録、APIキー提供元、関連コードレポジトリ(GitHub等)等のオープンデータOSINT分析強化
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ITの専門家ではないが、普段の仕事柄一般人よりも詳しい程度のチェンは、眉間にしわを寄せて脳内で解析していた。




