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【第2章 すすむ 第15話 予兆と侵入】

 チェンが早朝5時の公園で、カレーパンをほおばる2時間前。

 警告灯が黄色になっている、首相官邸地下のさらに深い場所にあるCCCサイバーコマンドセンターでは、40代前半の、やせ形で長身の清水彩夫(しみずあやお)副係長がヘッドセットに向って言った。


「アリシア、どうやらこれは、夜間監視体制の4人では厳しい状況になりつつあると考えるんだ。係長に緊急呼び出しをかけるレベルだと思うのだけれど、どう思う?」


「はい、彩夫あやお。まったくの同意です。大規模攻撃は避けられない情勢といえるでしょう」


「了解アリシア。向上係長に緊急通報を。現状報告も進めてください。あと謝っといて。力不足で深夜にゴメンって」

 

「彩夫、向上係長とボイスチャットを繋げました。紗耶香。おはようございます。この時間であれば公用車を向かわせるより、タクシーの方が10分以上早いので、手配済みです。7分後に到着予定」


「アリシアありがとう。おはようございます、清水さん。着替えながらだから画面見てる暇がないの。可能な範囲で口頭説明をお願いしたいです」


「おはようございます。本日の夜間監視は私を含めて4人。谷口はDNSモニタを、関口と若林は物理サーバ側のパケット監視とログ監査を継続中です。緊急呼び出しの理由は、以前向上係長が佐藤冴子係長の助言で、民間の製薬会社のサーバーに仕掛けたと言っていた、トリップワイヤが27分前に検知発報しました」

※トリップワイヤとは、ネットワークの改ざんなどを発見通知するシステム


「トリップワイヤを仕掛けて以来、誤作動が1時間に1報くらい起こっていたもんね。トリップワイヤの弱点よね。ちょっとでも不審な挙動だと、すぐに発報してくるからね」


「まあ、それはそれとして、通常通り確認作業に入った訳ですが、これも佐藤係長が言っていた『新薬』とか『創薬』、『プロテオブロック』などの名前を付けた『ハニーポット』も次から次へとアラート飛ばし始めました。確認作業は進めていましたが、アラートがかかる量と速さがどんどんエスカレートしている状況です。こちらから反転攻勢を仕掛けないと、大規模攻勢には対応しきれません。サイバー攻撃対策係と連携対応して、ブロックは進めてくれていますが、既に後手に回っている状況と判断しました」

※ハニーポットとは、敵対者が興味を示しそうな名前のファイルを設置しておき、敵対者の情報を収集するシステム


「了解です。ここまでご苦労様。まず私が到着するまではイエローシグナルプロトコルを維持。到着と同時にレッドシグナルに更新する可能性を前提に行動。サイバー攻撃対策係の状況を把握していないけれど、防壁とDNSフィルタリング、入り口門戸のしきい値強化を実行してもらって下さい。被害範囲の確認と、相手の足取りデータの保存。強制切断の準備も同時にお願いします。あ、前に清水さんが作った、逆ハッキング機能付きの超攻撃型ハニーポットも設置してくれる?それを起点に脅威対象の読了速度と連続アクセスパターンから、人為的か自動化プログラムかを分析。ついでに遅延応答爆弾を投入して、脅威対象のCPU負荷をじわじわ上げてイラつかせといて」


「了解です。防壁と入り口制御のしきい値強化はサイバー対策班が実行済み。被害確認範囲の確認は私達で実行中。強化型の蜜壺はこれから設置しておきます。向上係長が到着する頃には、ある程度の足取りがつかめているかもしれません。遅延爆弾はたった今設置完了。徐々に負荷率が上昇中」


「さすが対応が早いわね。たぶん30分かからずに到着できると思います。責任範疇を超える状況変更があれば、いつでも声をかけてね」


 紗耶香はチャットで指示を出しながら、着替えを完了させて、すでに靴を履き始めていた。


**


 さらにその30分前の共産主義国内、人民解放軍のサイバー部隊「閃電白虎」の地下施設では、背が高く、がっしりとした体格。ダークグレーの軍服を着た40代中盤の男性主任技術官シュー(徐)が20人のSEに指示を飛ばしていた。

「特別対応の指示による作戦だ。初期ターゲットは日本の大手民間製薬会社10社が使っているクラウドサーバ―に対する攻撃。Aチームの5名は自動プログラムでトリップワイヤ対策として複数か所からの侵入で誤動作を誘発。B,C,Dチームのそれぞれ5名は、Aチームの誤動作誘発に紛れて、手動でアタック。狙いは日本の製薬会社のデータの中から、我々が2週間前に抜き出したデータの中にあった[治験申請として、薬効評価テストの申請文章(仮)]というテキスト配下の[富岳シミュレートにより臨床試験の短縮を許可するものである]に記述された『別送ファイル』の存在確認とその抜出。1時間後にDチームは、神戸の理化学研究所にある富岳の過去スケジュールとそれら個別の内容や使用者のデータの収集だ。準備は良いか?」


「Aチーム、OK」

「Bチーム、OK」

「Cチーム、OK」

「Dチーム、2段階共に準備完了」


 シュー主任は、大型スクリーンを指さして言った。

「それでは諸君、作戦開始」


 室内は薄暗くなり、作戦実行中を示す為に、大型スクリーンの周囲が赤く照らし出された。

「Aチームより。自動プログラムによるトリップワイヤの誤動作進行から5分経過。各チームは行動開始」


「了解」


「Cチームより、ハニーポットの存在把握。こちらのログが収集され始めています」


 シュー主任は大型スクリーンを眺めながら指示。

「気にするな。VPNで日本国内経由になっている。5か国を通してのアクセスだ。ここにたどり着くにはまだまだ時間がかかる。踏みつぶして進め」


「了解」


「シュー主任、該当するファイル名でいくと、30%程度がハニーポットです。踏み進めてもよろしいですか?すでに100ファイルを超えるハニーポットに接触しています」


「予想より大規模にトラップを敷いているな。Cチームは、日本国内経由の別ルートを準備しろ。1分ごとにルート変更して相手を引き回して疲れさせろ。しょせん操作しているのは人間だ」


「了解」


「Cチームは別ルート作成後、一度通過したルートはログアウトせずに何もしないセッションを残せ。残骸をたくさん残して、相手が確認しなくてはならないセッションを大量にプレゼントしてやれ」


「Cチーム、幽霊セッション設置了解」


「Aチームより。作戦開始から32分経過。ターゲットである別送ファイルらしきものは見当たりません。それと主任、相手の対応に変化が見られます」


「あと45分はこのまま土足で暴れろ。相手もおそらく夜間警戒体制から、反転攻勢に出るつもりだろう。別送ファイル探しも目的だが、こっちは揺動扱いで構わない。28分後に開始する、Dチームの富岳の過去スケジュールデータ抜き出しを成功させる為にお祭りを続けろ」


「了解」


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