第3ラウンド:女性と先住民
あすか:「第3ラウンドを始めます。ここまで西部劇の理想と現実、暴力と正義について議論してきましたが、重要な視点が抜けていました。女性と先住民の存在です」
(クロノスに、西部開拓時代の女性たちと先住民の写真が映し出される)
あすか:「ジェーンさん、西部における女性の立場について、改めて詳しくお聞かせください」
ジェーン:「どこから話せばいいか...」
(ウィスキーを一口飲んで、考える)
ジェーン:「まず、数が少なかった。男10人に女1人くらいの割合だった場所もある」
ウェイン:「それは...大変だったでしょうね」
ジェーン:「大変?」
(苦笑する)
ジェーン:「地獄さ。女ってだけで、獲物扱いされる。道を歩けば視線が突き刺さる。夜は鍵をかけても安心できない」
レオーネ:「だから男装を?」
ジェーン:「そうだ。髪を切って、胸を潰して、声を低くして。それでも時々バレた」
アープ:「ジェーンの男装は、確かに見事だった。最初会った時、本当に男だと思った」
ジェーン:「褒め言葉として受け取っとくよ」
(でも、表情は暗い)
ジェーン:「でもな、男のふりをするってことは、自分を殺すってことでもあった」
あすか:「自分を殺す?」
ジェーン:「女としての自分をな。好きな服も着られない、好きな髪型もできない、優しい言葉も使えない」
ウェイン:「それは...辛かったでしょう」
ジェーン:「辛い?」
(首を振る)
ジェーン:「最初はな。でも、慣れる。怖いことに、だんだん本当に男みたいになっていく」
レオーネ:「アイデンティティの喪失」
ジェーン:「難しい言葉は分からねぇが、確かに自分が誰だか分からなくなる時があった」
(ウィスキーのボトルを見つめる)
ジェーン:「鏡を見ても、知らない奴が映ってる。女でも男でもない、何か別のもの」
アープ:「でも、それで生き延びた」
ジェーン:「ああ、生き延びた。代償は大きかったがな」
あすか:「他の女性たちは、どう生きていたんですか?」
ジェーン:「大きく分けて三種類だ」
(指を折る)
ジェーン:「まず、誰かの妻。これが一番『まとも』とされた生き方。でも...」
ウェイン:「でも?」
ジェーン:「奴隷と変わらねぇ」
(きっぱりと)
ジェーン:「朝から晩まで働いて、子供を産んで育てて、夫の機嫌を取って。殴られても文句言えない。逃げ場もない」
レオーネ:「法的には夫の所有物」
ジェーン:「そうだ。売買こそされないが、実質的にはモノ扱い」
アープ:「確かに、そういう面はあった」
(認める)
アープ:「家庭内暴力なんて、よくある話だった。保安官として介入しようとしても、『家庭の問題』で片付けられた」
ウェイン:「しかし、愛し合って結婚した夫婦も...」
ジェーン:「いたさ。でも少数派だ」
(皮肉な笑み)
ジェーン:「大半は、生きるための結婚。女は保護者が必要で、男は家事をする奴が必要。ビジネスさ」
あすか:「二番目の生き方は?」
ジェーン:「売春婦だ」
(ためらいなく言う)
ジェーン:「需要と供給の問題でな。男ばっかりの町で、女の体には高値がついた」
ウェイン:「...」
(居心地悪そうに身じろぎする)
ジェーン:「どうした、ジョン?映画じゃ描かない部分か?」
ウェイン:「いや、その...家族向けの映画では...」
ジェーン:「家族向け?」
(大笑いする)
ジェーン:「西部に家族向けなんてあるか!みんな必死で生きてただけだ」
レオーネ:「売春は、ある意味で最も正直な商売だった」
ジェーン:「正直...まあ、そうかもな」
(真顔になる)
ジェーン:「金と体の交換。はっきりしてる。偽善もない」
アープ:「売春宿は、町の重要な施設だった」
(事実を述べる)
アープ:「税収源でもあり、情報収集の場でもあり、時には避難所にもなった」
ウェイン:「避難所?」
アープ:「ああ。売春宿のマダムは、たいてい頭が切れる女だった。困った女を匿うこともあった」
ジェーン:「そうそう!ビッグ・ノーズ・ケイトって知ってるか?」
アープ:「ドク・ホリデイの女か」
ジェーン:「あいつは賢かった。売春婦だったが、読み書きができて、商売の才能もあった」
レオーネ:「知性と美貌を武器に」
ジェーン:「武器...確かにそうだな」
(うなずく)
ジェーン:「体だけじゃ長続きしない。頭を使わなきゃ、使い捨てにされる」
あすか:「三番目の生き方は?」
ジェーン:「俺みたいな生き方さ」
(自嘲的に笑う)
ジェーン:「男のふりをして、男の仕事をする。危険だが、一番自由だった」
ウェイン:「他にもそういう女性が?」
ジェーン:「何人かいた。ステージコーチ・メアリーとか、シャーロット・パーカーとか」
アープ:「ああ、メアリーは会ったことがある。すごい女だった」
ジェーン:「だろ?あいつは俺より度胸があった」
(懐かしそうに)
ジェーン:「郵便配達をやってた。インディアンも追い剥ぎも恐れない。『メアリーが来たら道を空けろ』って言われてた」
レオーネ:「なぜ映画では、そういう女性が描かれない?」
ウェイン:「...市場が求めていなかった」
ジェーン:「市場?」
ウェイン:「観客は、美しいヒロインを求めていた。守られる女性、愛される女性を」
ジェーン:「ふざけるな!」
(ウィスキーのボトルを叩きつける)
ジェーン:「俺たちだって愛されたかった!でも、その前に生き延びなきゃならなかった!」
(立ち上がる)
ジェーン:「あんたの映画の女は、いつも男を待ってる。助けを待ってる。愛を待ってる。待ってる暇なんかなかった!」
ウェイン:「...すまない」
(頭を下げる)
レオーネ:「私も謝罪すべきだな」
(葉巻を置く)
レオーネ:「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』で、クラウディア・カルディナーレは強い女性を演じたが、結局は男たちの欲望の対象だった」
アープ:「映画だけじゃない。現実でもそうだった」
(重い口調で)
アープ:「俺たち男は、女を人間として見ていなかった。所有物か、獲物か、せいぜい保護対象」
あすか:「アープさんも?」
アープ:「...ああ」
(正直に認める)
アープ:「若い頃は特にな。女は弱いもの、守るべきもの、あるいは楽しむものだと思ってた」
ジェーン:「少なくとも正直だな」
(座り直す)
アープ:「年を取って、考えが変わった。特に、ジェーンみたいな女を見てから」
ジェーン:「俺が?」
アープ:「ああ。最初会った時、衝撃だった。女が銃を撃ち、酒を飲み、男と対等に渡り合う」
ジェーン:「対等...」
(苦い笑み)
ジェーン:「本当に対等だったか?俺は常に『女のくせに』って目で見られてた」
レオーネ:「二重の基準」
ジェーン:「そうだ。男がやれば勇敢、女がやれば下品。男が怒れば正義、女が怒ればヒステリー」
あすか:「今でもその傾向は...」
ジェーン:「2025年でもか?」
あすか:「完全には無くなっていません」
ジェーン:「ちっ、100年以上経っても変わらねぇのか」
(ウィスキーを飲む)
ウェイン:「しかし、進歩はしているはずだ」
ジェーン:「進歩ね...」
あすか:「ジェーンさん、個人的な質問ですが、恋愛は?」
ジェーン:「恋愛?」
(一瞬、表情が柔らかくなる)
ジェーン:「...あった」
アープ:「ワイルド・ビルか」
ジェーン:「ビルは...複雑だった」
(遠い目をする)
ジェーン:「確かに惚れてた。でも、向こうはどうだったか...」
レオーネ:「片思い?」
ジェーン:「分からねぇ。奴も複雑な男だった」
(首を振る)
ジェーン:「ただ、一つ確かなのは、普通の恋愛なんてできなかった」
ウェイン:「なぜ?」
ジェーン:「男として生きてる俺が、どうやって男を愛する?」
(自嘲的に笑う)
ジェーン:「かといって、女に戻ることもできない。戻ったら、ただの獲物だ」
あすか:「辛い選択でしたね」
ジェーン:「選択?選択なんかなかった」
(きっぱりと)
ジェーン:「生きるか死ぬか。それだけだ。恋愛は贅沢品だった」
レオーネ:「愛も暴力に支配されていた」
ジェーン:「そうさ。愛してる相手でも、生きるためなら裏切る。それが西部だ」
ウェイン:「それでも、純粋な愛も...」
ジェーン:「あったかもな。でも、長続きしない」
(ウィスキーを見つめる)
ジェーン:「愛する相手が死ぬか、変わるか、裏切るか。どれかだ」
アープ:「...俺も、妻を何人か亡くした」
(重い声で)
アープ:「最初の妻は病気で。二番目は...まあ、いろいろあって別れた」
あすか:「西部での結婚生活は?」
アープ:「地獄だった」
(単純に)
アープ:「いつ撃たれるか分からない夫を待つ妻。それがどんなに辛いか」
ウェイン:「でも、支え合って...」
アープ:「支え合う?」
(首を振る)
アープ:「一方的に支えさせてただけだ。俺は仕事を理由に、家庭を顧みなかった」
レオーネ:「西部劇の英雄の、もう一つの顔」
アープ:「英雄?家では最低の夫だった」
ジェーン:「それでも結婚したがる女がいたんだから、不思議なもんだ」
アープ:「生きるためさ。独身の女は、もっと大変だった」
あすか:「ここで、もう一つの重要なテーマに移りましょう」
(クロノスを操作し、先住民の写真を大きく映し出す)
あすか:「先住民、当時の言葉でインディアンと呼ばれた人々について。先ほど少しだけ触れましたが、改めて深くお話を聞かせてください」
(全員の表情が一層重くなる)
ウェイン:「...いくら話しても話し足りないだろう。これは避けて通れない話だ」
レオーネ:「アメリカ最大の罪」
アープ:「罪...そうだな」
(深いため息)
アープ:「若い頃は、単純に敵だと思ってた。文明の敵、進歩の敵」
ジェーン:「俺もだ」
(正直に認める)
ジェーン:「野蛮人、人間以下の存在。そう教えられて、信じてた」
ウェイン:「私の映画でも...」
(言葉に詰まる)
ウェイン:「最悪の描き方をしていた。今思えば、恥ずかしい」
レオーネ:「なぜ、そんな描き方を?」
ウェイン:「時代の空気、としか言えない。みんながそう思っていた」
アープ:「いや、違う」
(きっぱりと)
アープ:「都合が良かったんだ。相手を人間以下だと思えば、土地を奪うのも、殺すのも正当化できる」
ジェーン:「その通りだ」
(うなずく)
ジェーン:「『神が与えた土地』『明白な運命』。きれいな言葉で飾った侵略」
あすか:「でも、ジェーンさんには先住民の友人もいたと」
ジェーン:「ああ、何人かいた」
(表情が和らぐ)
ジェーン:「最初は偏見だらけだった。でも、実際に付き合ってみると...」
レオーネ:「どうだった?」
ジェーン:「俺たちと変わらねぇ」
(シンプルに)
ジェーン:「家族を愛し、子供を大事にし、自然と共に生きてた。むしろ、俺たちより文明的だった」
アープ:「文明的...確かに」
(同意する)
アープ:「彼らには彼らの法があり、秩序があり、文化があった。俺たちが理解しようとしなかっただけだ」
ウェイン:「しかし、衝突は避けられなかった」
アープ:「なぜだ?」
ウェイン:「土地を巡って...」
アープ:「違う」
(首を振る)
アープ:「俺たちが一方的に奪ったんだ。衝突じゃない、侵略だ」
レオーネ:「その通り。ヨーロッパ人がアメリカ大陸に来た時から、運命は決まっていた」
ジェーン:「でも、全部が敵対してたわけじゃない」
(思い出すように)
ジェーン:「交易もあった。助け合いもあった。結婚する奴もいた」
あすか:「異人種間の結婚も?」
ジェーン:「ああ。山男なんかは、インディアンの女と結婚するのが普通だった」
アープ:「だが、社会的には認められなかった」
ジェーン:「そうだ。『スクウォウ・マン』って呼ばれて、蔑まれた」
ウェイン:「私も、そういう映画を...」
(頭を抱える)
ウェイン:「『捜索者』では、インディアンと暮らした白人女性を『汚れた』と描いた」
レオーネ:「人種差別の極致」
ウェイン:「弁解の余地はない」
あすか:「アープさんは、実際にどんな場面を目撃しましたか?」
アープ:「...話したくない話ばかりだ」
(しかし、続ける)
アープ:「居留地への強制移住を見た。何百人もの人間が、家を追われて歩かされる」
ジェーン:「『涙の道』か」
アープ:「老人は途中で倒れ、子供は泣き叫び、女は...」
(言葉を切る)
レオーネ:「続けてくれ」
アープ:「兵士たちの慰み者にされた」
(拳を握る)
アープ:「俺は保安官として、『秩序維持』のために同行した。何もできなかった。いや、しなかった」
ウェイン:「それは...」
アープ:「言い訳は聞きたくない」
(鋭く)
アープ:「俺も共犯者だ。見て見ぬふりをした」
ジェーン:「俺もだ」
(ウィスキーを飲む)
ジェーン:「インディアンの友人がいたくせに、虐殺を止めようとはしなかった」
レオーネ:「個人にできることは限られていた」
ジェーン:「それも言い訳だ」
(首を振る)
ジェーン:「本当は、巻き込まれたくなかった。自分の身が大事だった」
あすか:「でも、抵抗した人もいたのでは?」
アープ:「いた。ごく少数だが」
(遠い目)
アープ:「ある宣教師は、インディアンの権利を訴えた。町から追い出された」
ウェイン:「軍人でも?」
アープ:「いた。虐殺命令を拒否した将校もいた。軍法会議にかけられた」
レオーネ:「システムに逆らう者は排除される」
あすか:「ジェーンさんの先住民の友人は、どうなりましたか?」
ジェーン:「...死んだ」
(短く)
ジェーン:「病気で死んだ奴、撃たれた奴、居留地で餓死した奴。いろいろだ」
ウェイン:「病気も多かった...」
アープ:「俺たちが持ち込んだ病気だ」
(苦い声で)
アープ:「天然痘、はしか、インフルエンザ。免疫のない彼らには致命的だった」
レオーネ:「生物兵器」
アープ:「意図的じゃなくても、結果は同じだ」
ジェーン:「意図的な奴もいた」
(怒りを込めて)
ジェーン:「天然痘の患者が使った毛布を、わざと配る奴もいた」
ウェイン:「それは...人間のすることじゃない」
ジェーン:「人間がやったんだよ、ジョン」
(真っ直ぐ見る)
ジェーン:「普通の、善良な市民がな。『インディアンを減らすため』って」
レオーネ:「普通の人間が、最も残酷になれる」
あすか:「先住民の側から見た西部開拓とは?」
アープ:「侵略、破壊、絶滅」
(一言ずつ区切って)
アープ:「彼らにとって、俺たちは疫病だった。すべてを奪い、すべてを壊す」
ジェーン:「でも、抵抗もした」
(少し声に力を込めて)
ジェーン:「クレイジー・ホース、ジェロニモ、シッティング・ブル。勇敢に戦った」
ウェイン:「映画では悪役として...」
ジェーン:「悪役?自分の土地を守っただけだ!」
(声を荒げる)
ジェーン:「家族を守り、文化を守り、生き方を守ろうとした。それのどこが悪い?」
レオーネ:「視点の問題」
アープ:「そうだ。俺たちには『進歩』でも、彼らには『破滅』だった」
あすか:「実際に戦闘に参加したことは?」
アープ:「...ある」
(重い沈黙の後)
アープ:「若い頃、民兵として参加した。『インディアン討伐』と呼ばれた」
ジェーン:「討伐...まるで害獣扱いだ」
アープ:「実際、そう思ってた」
(自己嫌悪を込めて)
アープ:「人間じゃない、危険な獣だと。だから撃てた」
ウェイン:「どんな...どんな戦いだった?」
アープ:「戦い?違う」
(首を振る)
アープ:「一方的な虐殺だ。村を襲い、小屋を燃やし、逃げる者を撃った」
レオーネ:「女子供も?」
アープ:「...ああ」
(ほとんど聞こえない声で)
ジェーン:「俺は、そこまではしなかった」
(でも、すぐに付け加える)
ジェーン:「偉そうなことは言えねぇ。見て見ぬふりをしたのは同じだ」
あすか:「なぜ、そこまでの憎しみが?」
レオーネ:「恐怖だ」
(葉巻を回しながら)
レオーネ:「未知のものへの恐怖。異なる文化への恐怖。そして、自分たちの罪への恐怖」
ウェイン:「罪への恐怖?」
レオーネ:「そうだ。奪っている自覚があるから、余計に相手を悪魔化する必要があった」
アープ:「...鋭い指摘だ」
(認める)
アープ:「確かに、心の奥では分かってた。俺たちが間違ってることを」
ジェーン:「だから酒を飲んだ」
(ウィスキーのボトルを掲げる)
ジェーン:「良心を麻痺させるために」
ウェイン:「私は...私は映画で、その罪を覆い隠していた」
(苦しそうに)
ウェイン:「正義の騎兵隊、勇敢な開拓者。すべて、加害者を英雄に描いていた」
レオーネ:「だから、私は別の視点を提示しようとした」
あすか:「レオーネ監督の映画では?」
レオーネ:「完全ではないが、少なくとも『文明対野蛮』という単純な図式は避けた」
(煙を吐く)
レオーネ:「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』では、進歩の名の下の破壊を描いた」
ジェーン:「でも、インディアンは出てこないだろ?」
レオーネ:「...そうだ。私も限界があった」
(認める)
レオーネ:「不在によって存在を示す、という言い訳もできるが...」
アープ:「言い訳は要らない。描かなかったという事実だけだ」
あすか:「今、振り返って、どう思いますか?」
アープ:「取り返しがつかない」
(単純に)
アープ:「失われた文化、失われた言語、失われた命。何も取り戻せない」
ジェーン:「でも、まだ生き残ってる部族もいる」
ウェイン:「居留地で...」
ジェーン:「居留地」
(吐き捨てるように)
ジェーン:「強制収容所の言い換えだ」
アープ:「最も貧しい土地に押し込められ、文化を奪われ、言語を禁じられ」
レオーネ:「文化的ジェノサイド」
ウェイン:「しかし、今は...」
あすか:「2025年現在も、多くの問題が残っています」
ジェーン:「100年以上経っても?」
あすか:「はい。貧困、差別、文化の喪失...」
ジェーン:「ちくしょう」
(ウィスキーを飲む)
ジェーン:「何も変わってねぇのか」
アープ:「傷が深すぎる」
(首を振る)
アープ:「一度壊したものは、簡単には戻らない」
レオーネ:「だからこそ、記憶することが重要だ」
ウェイン:「記憶...」
(考え込む)
ウェイン:「私の映画は、間違った記憶を植え付けていた」
レオーネ:「認識することが第一歩」
あすか:「ジェーンさん、女性として、先住民の女性たちをどう見ていましたか?」
ジェーン:「...複雑だった」
(正直に)
ジェーン:「最初は、見下してた。『野蛮人の女』って」
ウェイン:「しかし?」
ジェーン:「実際に会ってみると、俺より自由だった」
(苦笑する)
ジェーン:「部族によるが、女性の地位が高い所も多かった。財産権もあり、離婚の権利もあり」
アープ:「確かに、母系社会の部族もあった」
ジェーン:「皮肉だよな」
(ウィスキーを回す)
ジェーン:「『文明化』された俺たちの方が、女を奴隷扱いしてた」
レオーネ:「文明の逆説」
あすか:「具体的に、どんな女性と?」
ジェーン:「名前は...もう覚えてない」
(申し訳なさそうに)
ジェーン:「でも、顔は覚えてる。誇り高い顔だった」
ウェイン:「どんな出会いだった?」
ジェーン:「交易所でな。俺が男装してるのを、一目で見抜いた」
(懐かしそうに)
ジェーン:「最初はびびった。でも、彼女は笑って、手話で『あなたも大変ね』って」
アープ:「理解があった」
ジェーン:「ああ。彼女の部族では、性別を超えた存在が認められてた」
レオーネ:「第三の性」
ジェーン:「そんな感じだ。男でも女でもない、特別な存在として」
(少し微笑む)
ジェーン:「初めて、ありのままの自分を認められた気がした」
ウェイン:「それは...素晴らしい経験だ」
ジェーン:「ああ。でも、長くは続かなかった」
(表情が曇る)
ジェーン:「彼女の部族も、やがて居留地に送られた。その後は...分からない」
あすか:「文化の多様性が失われたんですね」
アープ:「そうだ。画一的な『文明』の押し付け」
レオーネ:「アメリカン・ドリームの暗黒面」
ウェイン:「しかし、すべてが悪意からでは...」
ジェーン:「善意の方がたちが悪い」
(きっぱりと)
ジェーン:「『彼らのため』って言いながら、子供を親から引き離し、寄宿学校に入れた」
アープ:「髪を切り、服を着替えさせ、英語を強制した」
ジェーン:「母語を話したら罰。文化的な儀式は禁止。それが『教育』だった」
レオーネ:「魂の殺害」
ウェイン:「...言葉もない」
(頭を垂れる)
あすか:「でも、抵抗や共存の試みもあったのでは?」
アープ:「あった。ごくわずかだが」
(思い出すように)
アープ:「ある牧場主は、先住民と平和的に共存してた。お互いの領域を尊重して」
ジェーン:「でも、周りから白い目で見られた」
アープ:「最後は、他の入植者に追い出された。『インディアンの味方』だって」
ウェイン:「味方になることすら許されなかった」
レオーネ:「システムが個人の良心を押しつぶす」
あすか:「西部劇では、こうした現実はどう描かれてきたのでしょうか?」
ウェイン:「...ほとんど描かれなかった」
(正直に認める)
ウェイン:「私の世代の西部劇は、都合の悪い事実を無視した」
レオーネ:「あるいは、美化した」
ジェーン:「『高貴な野蛮人』ってやつか」
レオーネ:「そうだ。これもまた別の形の差別」
アープ:「どういうことだ?」
レオーネ:「理想化することで、現実の人間として見ない。神話の中の存在にしてしまう」
ジェーン:「なるほど、そういうことか」
(納得したように)
ジェーン:「確かに、『自然と共に生きる純粋な人々』みたいな描き方も、嘘っぱちだ」
アープ:「彼らも人間だった。良い奴も悪い奴もいた」
ウェイン:「複雑な存在として描くべきだった」
あすか:「最近の西部劇では、その試みも始まっているようですが」
レオーネ:「遅すぎる」
ジェーン:「でも、遅くてもやらないよりマシだ」
あすか:「ジェーンさん、最後に女性の視点から、西部劇に言いたいことは?」
ジェーン:「言いたいこと?山ほどある」
(ウィスキーを置いて、真剣な顔になる)
ジェーン:「まず、女を飾り物にするな。俺たちも戦った、働いた、生き抜いた」
ウェイン:「その通りだ」
ジェーン:「次に、売春婦を悪く描くな。彼女たちも必死に生きてた」
アープ:「多くは、他に選択肢がなかった」
ジェーン:「そして、インディアンの女性も描け。彼女たちの視点も必要だ」
レオーネ:「二重に消去された存在」
ジェーン:「そうだ。女で、かつ先住民。一番無視された人たち」
あすか:「男性陣から、何か付け加えることは?」
アープ:「俺たちの罪は重い」
(単純に)
アープ:「女性を抑圧し、先住民を虐殺した。言い訳の余地はない」
ウェイン:「映画人として、間違ったイメージを広めた責任もある」
レオーネ:「私も含めて、男性の視点でしか描いてこなかった」
ジェーン:「認めるだけじゃダメだ」
(鋭く)
ジェーン:「これからどうするか、それが問題だ」
ウェイン:「新しい西部劇を...」
ジェーン:「誰が作る?また男か?」
ウェイン:「...」
ジェーン:「女に作らせろ。先住民に作らせろ。当事者の声を聞け」
レオーネ:「その通りだ」
アープ:「俺たちの時代は終わった。新しい声が必要だ」
あすか:「力強い言葉ですね」
(クロノスを確認)
あすか:「第3ラウンドを通じて、西部劇が描いてこなかった、あるいは歪めて描いてきた存在について深く議論しました」
ジェーン:「描いてこなかったんじゃない。消してきたんだ」
(訂正する)
ジェーン:「意図的に、都合よく」
ウェイン:「否定はしない」
アープ:「消された人々の方が、実は多数派だった」
レオーネ:「歴史は勝者が書く。西部劇も同じ」
あすか:「でも、今日のような議論を通じて、少しずつ真実が...」
ジェーン:「真実?」
(苦笑する)
ジェーン:「俺たちが話してるのも、一つの視点に過ぎない」
アープ:「そうだ。本当の真実は、もう死者と共に埋もれた」
ウェイン:「それでも、努力する価値はある」
レオーネ:「完全な真実は無理でも、より多くの視点を」
ジェーン:「ま、それくらいしかできねぇか」
(ウィスキーを飲む)
あすか:「重い内容でしたが、非常に重要な議論でした」
アープ:「重くて当然だ。軽く扱える話じゃない」
ジェーン:「でも、避けちゃいけない話でもある」
ウェイン:「その通りだ」
レオーネ:「西部劇を語るなら、この闇の部分も含めて語らなければ」
あすか:「第3ラウンドはここまでとします。皆さん、真摯な議論をありがとうございました」
(四人は、それぞれの思いを胸に、しばし沈黙に沈む。語られなかった声、消された存在、歪められた真実。西部劇の華やかな表面の下に隠された、深い闇が露わになった瞬間だった)
ジェーン:「なあ」
(急に口を開く)
ジェーン:「俺たち、今日ここで話したこと、意味あるのかな」
アープ:「分からない。でも、話さないよりはマシだ」
ウェイン:「少なくとも、私は多くを学んだ」
レオーネ:「学ぶのに遅すぎることはない」
ジェーン:「そうか...そうだな」
(少し微笑む)
ジェーン:「じゃあ、次は何を話す?まだ時間はあるんだろ?」
あすか:「はい、まだ続きます。次のラウンドでは、また違った角度から西部劇を見ていきましょう」
(そして、議論は続いていく。過去と向き合い、真実を探し求める、長い旅はまだ終わらない)




