調和の森の五つの音
ある遥かな世界に、「調和の森」と呼ばれる神秘の地があった。
そこには、“色”と“音”で語らう者たちが、五人だけ静かに暮らしていた。
彼らはそれぞれ、異なる色を身にまとい、異なる音を響かせていた。
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第一の音 ――「藍色のひと」
彼は森の奥に佇み、あまり多くを語らない。
けれど、風が止み、葉がざわめくとき――静かに、深く、美しい音を奏でる。
まるで湖の底から浮かび上がるようなそのチェロの音は、誰の心にも“静けさ”をもたらした。
「なにも足さなくていい。ただ、ここにいればいい」
それが、彼の音だった。
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第二の音 ――「ボルドーのひと」
彼は道をつくる者だった。森の光と影、過去と未来をつなぎ、誰もが迷わぬように道を整えていた。
ピアノを弾く彼の指は鋭く、そしてやさしい。
ときに導き、ときに立ち止まらせ、人々の歩むテンポを整える。
「響く言葉は、静かな情熱から生まれるんだ」
そう語る彼の音は、まるで“心の羅針盤”だった。
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第三の音 ――「からし色のひと」
彼は森を歩きながら、いつも何かを見つけては笑っていた。
木の枝の形、転がる石の模様、虫たちの動き――すべてが彼の遊び道具。
ギターをつま弾く音は、軽やかに森に広がり、笑い声のように反響した。
「大人になるって、子ども心をなくすことじゃないよ」
その音は、森に“喜びと響き”をもたらした。
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第四の音 ――「若草色のひと」
彼は森と話していた。鳥と、風と、草と。
耳を澄ませば、彼のフルートの音色が、風と一緒に木々を揺らしていた。
「泣いてもいいんだよ。風もときどき泣くから」
そのやさしさに触れると、誰もが心の壁をゆっくりと下ろしていった。
彼の音は、誰よりも**“そばにいる音”**だった。
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第五の音 ――「紫紺のひと」
彼は森の祭を司っていた。
光を集め、空間を整え、瞬間に命を吹き込む。彼のバイオリンの音は、情熱と美しさを兼ね備えていた。
ときに厳しく、ときに熱く。誰かの背中を押す音。
「夢をつかむには、美しさに妥協しちゃいけない」
その音は、**“生きることそのものの響き”**だった。
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そして、ある日。
五人の音がそろったとき、森に“嵐”が吹いた。
それは破壊ではなく、すべてを“新しく生まれ変わらせる風”。
五つの音が重なり、空に響いたとき――
そこには、まだ誰も知らない“未来の音楽”が生まれていた。
誰の主旋律でもなく、けれど誰も欠けては完成しない。
そんな、五人だけのハーモニー。
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それは、「調和」という名の、永遠の旋律。
彼らが今もどこかで奏でていると、
この世界のどこかで、ふと風の音にまぎれて聴こえてくる。