表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

調和の森の五つの音

作者: ごはん

ある遥かな世界に、「調和の森」と呼ばれる神秘の地があった。

そこには、“色”と“音”で語らう者たちが、五人だけ静かに暮らしていた。


彼らはそれぞれ、異なる色を身にまとい、異なる音を響かせていた。



第一の音 ――「藍色のひと」


彼は森の奥に佇み、あまり多くを語らない。

けれど、風が止み、葉がざわめくとき――静かに、深く、美しい音を奏でる。


まるで湖の底から浮かび上がるようなそのチェロの音は、誰の心にも“静けさ”をもたらした。


「なにも足さなくていい。ただ、ここにいればいい」


それが、彼の音だった。



第二の音 ――「ボルドーのひと」


彼は道をつくる者だった。森の光と影、過去と未来をつなぎ、誰もが迷わぬように道を整えていた。


ピアノを弾く彼の指は鋭く、そしてやさしい。

ときに導き、ときに立ち止まらせ、人々の歩むテンポを整える。


「響く言葉は、静かな情熱から生まれるんだ」


そう語る彼の音は、まるで“心の羅針盤”だった。



第三の音 ――「からし色のひと」


彼は森を歩きながら、いつも何かを見つけては笑っていた。

木の枝の形、転がる石の模様、虫たちの動き――すべてが彼の遊び道具。


ギターをつま弾く音は、軽やかに森に広がり、笑い声のように反響した。


「大人になるって、子ども心をなくすことじゃないよ」


その音は、森に“喜びと響き”をもたらした。



第四の音 ――「若草色のひと」


彼は森と話していた。鳥と、風と、草と。

耳を澄ませば、彼のフルートの音色が、風と一緒に木々を揺らしていた。


「泣いてもいいんだよ。風もときどき泣くから」


そのやさしさに触れると、誰もが心の壁をゆっくりと下ろしていった。


彼の音は、誰よりも**“そばにいる音”**だった。



第五の音 ――「紫紺のひと」


彼は森の祭を司っていた。

光を集め、空間を整え、瞬間に命を吹き込む。彼のバイオリンの音は、情熱と美しさを兼ね備えていた。


ときに厳しく、ときに熱く。誰かの背中を押す音。


「夢をつかむには、美しさに妥協しちゃいけない」


その音は、**“生きることそのものの響き”**だった。



そして、ある日。


五人の音がそろったとき、森に“嵐”が吹いた。

それは破壊ではなく、すべてを“新しく生まれ変わらせる風”。


五つの音が重なり、空に響いたとき――


そこには、まだ誰も知らない“未来の音楽”が生まれていた。


誰の主旋律でもなく、けれど誰も欠けては完成しない。

そんな、五人だけのハーモニー。



それは、「調和」という名の、永遠の旋律。


彼らが今もどこかで奏でていると、

この世界のどこかで、ふと風の音にまぎれて聴こえてくる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ