~第3幕~
賢治はクリスタルエデン本社に向かった。
道中で週刊誌の記者に捕まりそうにもなったが、避ける事もとっくに慣れた。
タクシーを降りて颯爽と本社の建物内へ。
昨晩の「メディア王に誰が笑う」がとても大盛況であったものだから、社内は朝早くからワイワイ賑やかな様子だ。
賢治へ挨拶してくる者も数知れず。彼は軽く会釈するだけで応じる。
彼が向かう先は本社最上階にある社長室。普段は彼の家にもしているところだ。ところが今そこは居候が一人陣取っている。
ドアを開けるとそこにその女がいた。
「遅いじゃねぇの。待ちくたびれたぞ?」
元女子プロレスラーにして現在は作家業に勤しむ蔵馬彷徨。彼女は「ニッポン女子プロ地獄!」という十数年にも及ぶ女子プロレスのムーブメントを牽引したプロレスラーにしてエンターテイナーである。
しかし女子プロの世界も多様化が進み、彼女の興行も振るわなくなる。そこで彼女は特技の料理を活かした動画をヨウチューブやテイクテイクで投稿。これが大ウケをしてインフルエンサーとしての活動を展開させた。さらにずっと趣味で続けていた小説も実を結び「女こそ闘え」で芥山賞を受賞。ベストセラー作家になる。
賢治はこの才能に目をつけた。
超破格の高額で放送作家や脚本家の契約を申し込んだ。
伊達賢治の飛躍ようは蔵馬もよく知っており、ふたつ返事で納得したという。またその時に自身が社長を務める事務所内で権力抗争も生じた。彼女はプロレスからもっと違うステージで自身の才能を開花させることを望みだしていたのだ。
元プロレスラーだが体格で言えば賢治よりもガタイがよくてデカイ。
「いやぁ~北斗の〇にでてくるユ〇だなぁ。ブホッ!?」
賢治がニヤニヤしながら挨拶がてらに決まり文句を言うと、ボディーブローにパンチが。これもいつものパターンだ。彼女が本気で殴る理由なんてモノもない。彼女も彼女でニヤニヤしているからだ。
「テメェ、昨日の番組みたぞ! マジで面白かったじゃねぇか! アタシを何で呼ばなかった!?」
「テテテ……いやぁ……蔵馬さんを呼んだら、どうせ乱入してしまうでしょうが」
「野田のおじきもフンドシ一丁で飛び込んでいたじゃねぇか」
「アレはアレでそういう台本があったからいいの。それはそうと蔵馬さん、例の台本はできました?」
「ああ、昨日仕上げたぜ? そこに置いているぞ?」
バスローブ姿の彼女は真っ赤な髪を揺らしながらも組んでいた腕を外して机を指さす。
「どれ」
賢治はウィスキーを持ちながらもソファーに腰掛けて台本に目を通す。
やはり完璧だ。視聴者が画面に釘付けになっている姿が思い浮かぶ。
「文句をつけたいけども、文句のつけどころがないなぁ。しかし問題はテレビ局だよな。ドレイクを舞台でコレをやるにはいささか無理がある。日本じゃないし」
「そこはクリスタルエデンでやればいいじゃない?」
「俺は伊達賢三郎で登場するよ。クリスタルエデンの社長はこの異空間で拳志朗ってことにしている。無茶があるよね? でも、脚本でステージをテレビ局ってことにしてくれたのはナイスだ」
「一応原作が面白いと感じたからね。弄らないようにしたけども、そもそも架空のテレビ局にすればいいのでないのか?」
「フィクションでもリアルに近いフィクションのほうがみんなドキドキするの。それにそれこそが俺の本当にやりたい事」
「ん?」
そこでチャイムが鳴る。
「こんな朝からお客かい。大丈夫か? 70にもなるババァを自分の家に泊めていたなんて報道がでたら、アンタもアタシもおしまいだぞ?」
そんな事をいいながらも蔵馬は再び腕を組んでケラケラと笑う。
「大丈夫。そうなったらそうなったで、そういうスリルを俺は味わう」
賢治は再びウィスキーを口にして社長室のドアを開く。
「突然お邪魔して申し訳ないです」
「谷村君ですか」
ABCDテレビ幹部である谷村舜太郎。横にはクリスタルエデン幹部の松井がついていたが、賢治は「ご苦労さん、松井は入らなくていいよ」と言ってのけた。
「何しに来たのかな? 今度のドロップアウトはあなた方のテレビ局ではやらんと思いますが?」
「ええ。存じ上げております。でも、僕とアナタの関係です。アナタの力になれそうな情報を目にして耳にしましてね」
「へぇ」
ここぞとばかりにウィスキーを一口。
振り返ってみると蔵馬の姿がなくなっていた。風呂場に避難でもしたのか?
ちょっとだけ苦笑いした彼は「まぁ入ってください。ゆっくり聞きましょう」と谷村を社長室に案内した――
∀・)北斗の拳のユダってイイよね。好きだったりします。そんなイメージで蔵馬さんを書きました(笑)
∀・)また明日もお楽しみに☆☆☆彡