~第5幕~
音楽業界を牛耳っているとされる音楽レーベルV-Bexは人気音楽グループであるGGGを筆頭にオリポン1位を連発するアーティストを多く揃えていた。更に北海道で毎年開催される日本一の音楽フェスとされるメテオシャワーフェスのスポンサー企業でもある。年商で言えば音楽業界トップとみてもいいだろう。
そのヴィベックスに嫌な風が吹く。
稼ぎ頭だったGGGリーダーのビッキーこと疋田天王が同グループを脱退してヴィベックスも退社。しかし芸能人引退まではしないということに世間は驚きと興味を持ちだす。同じタイミングでヴィベックス所属アーティストが続々と退社。さらに行方知れずということに上層部は動揺を隠せずにいた。同社に忠義があるとされる人気ロックバンド・歌ウ蟲ケラもメンバーの育休などで稼働ができず。
そんな中で社長の華崎が自ら手掛ける新鋭アーティストがいた。
ハロー。世界征服。
福岡中州のクラブで活動する彼女達をみて華崎自らがスカウトに動いたらしい。山里や斧崎といった幹部メンバーの手も入れずに華崎が直接マネジメントに入るほどそのプロデュースに熱を入れていた。
その成果は確かにあった。
デビュー曲は配信中心の形でリリースしてオリポン1位。それから各メディアへの露出も増やして好きな芸能人ランキングの上位を占めるようになる。
メンバーはRYOZこと本田涼時とPONZこと本田恩逗の兄妹。そしてDJを務めるDJ:BENこと脇坂勉の3人。元々はDJを兄妹の長男だった慶字が担っていた。しかし彼は薬物中毒で命を若くして亡くしたのだと言う。
「あなた……それは……」
「ああ、パパが昔彫っていたものを兄妹みんなで彫ったの」
3人をスカウトした時にポンズの背中から龍の刺青が見えた。
「こんな私たちをプロにさせようなんて。アンタも変わり者よねー」
「変わり者じゃないとこの世界で生き残れないわ。それで? どう? くる?」
「金が稼げるのでしょ? いかない理由はないよ! アハハハッ!」
無邪気に笑う当時の彼女はまだ16歳。学校にも行ってないと言う。
いや、いけないと言ったほうがいいのだろう。
華崎は御礼と言わんばかりにそのクラブハウスのイベントにてゲリラライブをおこなった。圧倒的な歌唱力に居合わせた者はみんな言葉を失う。
メンバーの勉は少し年上の19歳フリーターだ。一般家庭で育った彼は刺青などしているはずもなく。いかにもおとなしそうな眼鏡の陰キャ男子。
「あなたもついてくるのね?」
「そりゃあ2人にはお世話になっていますから」
「年長者の言うこと?」
華崎の運転する車に乗って3人は関門トンネルを潜る。
「ベン君はケンニィが虐めから護っていたの。ケンニィはヤクに溺れてしまったけど、弱い者虐めを絶対に許さない兄貴だった」
「何か恩を返さなきゃって思って。ケン君はラップを熱心にしていたから。僕がオリジナルでかっこいいトラックを作ろうと。一生懸命勉強しました」
「っていうかさ、華崎さんって金持ちでしょ? 何で車移動なの? 新幹線でも良くない?」
「リョウくん、それは華崎さんに対して失礼だよ」
「いいえ。いいわ。こうやって移動しているのは私がドライブしてみたくなったから。私も気分屋さんなドライバーなの。運転免許を手にしたら分かるわ。いい趣味になるわよ?」
「いいなー。私も運転したいー」
「ポンは無免許運転しそうだな」
「しねぇよ。この野郎」
華崎は言おうとした。
あなたたちといっぱい話がしたいからと。でも、敢えて言わなかった。
やがて彼女たちは首都に。華崎と彼女たちはたくさん語り合ったものだった。ヴィベックス所属アーティストになる意味をよく分からないまま。
「2年後にデビュー?」
ヴィベックス本社で華崎は所属アーティストのミヲタニアンこと山田美桜と夫であるハンソックこと長野反徒にポンズたち3人を紹介した。
「ええ。その間は東京で社会人生活と義務教育をしっかりとさせる。基本的には私が育てる。だけど、その支援をあなたたち2人にお願いしたいの」
「いや……私とかだいぶマニアックなアイドルヲタクっすけど、こんなコたちを見たことも聞いたこともないっすよ? どこの馬の骨っすか? なんだかスゲェおっかない雰囲気あるし。抱きたいと思えないよぉ」
「何で抱きたい抱きたくないって話になるのよ……」
「そう、じゃあ福岡でやっていたことをここでやってくれる? あ、ベンくんは使いなれてないと思うけど、そこのターンテーブルを使って」
「はい……うまくできるかなぁ……」
華崎が指を鳴らす。すると爆音トラックが掛かると同時にポンズとリョウジが踊りだす。そのキレッキレッな感じはプロ顔負けのクオリティ。
華崎がマイクを投げる。そのマイクをポンズが受け取るとこれまたプロ顔負けのラップを披露。さらに踊りながらリョウジへマイクパス。玄人芸に他ならない玄人芸。そのパフォーマンスが終わると同時に夫婦からの拍手は鳴りやまない。美桜は溢れる涙を隠さずにいた――
それからポンズは芸能人ご用達の高校に入学。
リョウジは夜間学校に通いながらコンビニ店員の仕事にも励む。
ベンはヴィベックスの社員となり、会社の裏方業務に仕えた。
思ったより3人とも真面目に生きていた。3人が住む寮は華崎が買い与えた。都心から外れた決して華やかでない質素なアパート。それでも彼女たちが腐る事なんてなかった。
華崎は定期的に通う。そして日々成長する彼女たちを見て華崎自身もまた奮い立たせた。
「華崎さん……?」
ある夜。ポンズたちと語り合う中で華崎は涙を流した。あまりにも健気。その姿勢に感動しないワケがなかった。
「ごめんなさい。私らしくないわね。人のことで泣くなんて」
「へへへっ。華崎さんも可愛いところがあるな」
「リョウくん、それは失礼だよ。でも華崎さん、こんな時だけど相談したい事があって……」
「えっ?」
ポンズはこの夜に自身へドラマ出演のオファーがあったことを打ちあけた。
華崎は驚かない筈もなかった。
デビューは半年後に控えている。その準備も万端に及んできている。
このコをそれより早くこの世界にあげていいのか?
悩まない筈はない。悩まない筈なんて。
「ええ。挑戦しましょう。私にできることは何でもする」
こうしてポンズは歌手デビューするまえに役者デビューを果たす。そのときの芸名は前田朋子。華崎の改名前の名前であった――
いやぁ凄いボリュームになったわ(笑)
ハロセカことハロー世界征服のおはなしでした。拙作「歌ウ蟲ケラ」や「M」を読んだことある人は凄く読み入っちゃう内容になったのでないでしょうか。華崎さんにも綺麗な心があるんですよ。
分かる人には分かったと思うけどズバリ映画「国宝」の影響を受けたところになりますね(笑)
さて。ここからあの事件にどう繋がるのか。注目して貰えれば幸いです。次号(#^.^#)m9




